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2022年12月 9日 (金)

ふるさと納税と地方交付法に基づく特別交付税減額の可否

大阪地裁R4.3.10

<事案>
総務大臣は、いわゆるふるさと納税に係る寄付金の収入見込額が一定額を超えた場合に特別交付税の額の減額項目とする旨を規定する「特別交付税に関する省令」の規定を適用して、原告(大阪府泉佐野市)の令和1年12月分及び令和2年3月分の特別交付税の額をそれぞれ決定。
本件各特例規定の適用を受け手特別交付税の額を減額された原告が、本件各特別規程は地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効⇒本件各特例規定に基づく本件各決定は違法⇒国を被告として、本件各決定の取消しを求めた。

地方交付税:地方団体(都道府県及び市町村)間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源として、国が地方団体に交付する税。

<争点>
本案前の争点:
①本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるか
②総務大臣が行う特別交付税の額の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか
③訴えの利益の有無
本案の想定:
④本件各特別規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効になるか」

<判断>
● 争点②:
地方交付税は、国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであって、国の地方団体に対する支出金の性質を持ち、また、その具体的な額は総務大臣が一定の算定方法等に従って決定を行うことによって確定すること等

地方団体は、 交付税法に基づく地方交付税の額を受けることにより、当該決定に係る地方交付税の額の交付を受ける具体的な権利ないし法律上の利益を取得する
⇒総務大臣が行う特別交付税の額の決定は、行政処分に当たる。

● 争点③:
被告:令和元年度の地方交付税の総額の上限は交付税法で定められており、本件各決定を取り消しても、当該上限を超えて原告の特別交付税の額を決定することは不可能⇒本件各決定を取り消すことにより原告に回復すべき法的利益は存在しない

本判決:
交付税法19条1項は普通交付税の額の算定に用いた数について錯誤を発見した場合、錯誤があったことを発見した年度又は翌年度等において地方交付税の額を調整する旨を定めている
翌年度以降において普通交付税又は特別交付税の算定において調整するなどして対応することがおよそ不可能とはいえないとして、被告の主張を斥けた。

● 争点④:
交付税法15条1項の法文の文理を見ると、
「基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定課題又は基準財政収入額の算定過少」という各事情があることを特別交付税の減額要因として総務省令(「特別交付税に関する省令」)に委任しているものと解するのが自然。
前記「基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる」とは、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に係る現実の収入額と基準財政収入額中の当該収入項目に係る基準税額とに差異が生じ、そのために基準税額の過少算定が生じていることをいうものと解するのが相当。

同項は、文理上、基準収入額の算定の基礎とならない収入項目に係る収入を特別交付税の減額要因となる事情として定めることにつき、総務省令に委任していると解することはできない。

本件各特例規定は、令和元年ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情と定めるところ、ふるさと納税寄付金収入は、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に当たらない(交付税法14条参照)⇒本件各特例規定は、法文の分離からは委任の範囲内の事項を定めるものということはできない。
交付税15条1項の委任の趣旨は、地方団体の実情に通じた総務大臣の専門技術的裁量に委ねるのが相当であり、かつ、状況の変化に応じた柔軟性を確保する必要があることから来るもの
but
ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情とするかどうかは、そういう専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄ではないし、柔軟性の確保が問題となるような事柄でもない

本件各特例規定は、交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱したものとして、違法・無効であり、本件各特例規定に基づく本件各決定はいずれも違法。

<解説>
●本件における争点
①本件はそもそも司法の場で解決されるべき「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるか、それとも本件は行政機関の内部の争いと捉えられるものであり、法律上特に定めがない以上、司法の場に持ち出すことはできないものではないか(行訴法6条、42条に規定する機関訴訟ではないか)

法律上の争訟に当たるとしても
②抗告訴訟(行訴法3条)のルートに乗るものか、
公法上の当事者訴訟(行訴法4条)という形式で争うべきか

③抗告訴訟に乗るとしても、訴えの利益があるといえるか(取消判決の効力(拘束力等)により紛争の解決が法的に図られるか)

④本件各規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものであるか

●処分性
◎ 法律上の争訟に当たる、すなわち最高裁昭和56.4.7等がいう当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることを肯定
⇒特別交付税額の決定は、地方公共団体に国に対する金銭債権を発生させるものであって、同決定は処分性がある。

取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(判例)。
特別交付税の額の決定は、総務大臣(国)が優越的地位に基づき地方公共団体に対して一方的に行うもの⇒公権力性は明らか。

本判決:
ア:国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであること、
イ:国の地方団体に対する支出金の性質を持つこと
ウ:その具体的な額は、総務大臣が一定の算出方法等に従った決定と行うことによって確定することとなること
⇒処分性を肯定。

ア~内部行為性を否定
ウ~本件の決定により正に権利義務が形成される

◎ アについては、独立の法人格を持つ相手方に対する行為であっても、実質的には行政組織の内部行為であると認められれば処分性は否定される(判例)。
but
本件の場面で地方公共団体を国の下級行政庁と捉え内部行為論を持ってくるのは無理。

◎ イについて、
国の地方公共団体に対する支出金をめぐる争いは、金銭債権に関わるものであり、「財産権の主体」相互間の争いであるとして法律上の争訟性を認める見解。
本件も、そのことを意識して支出金とういことを処分性を肯定する1つの論拠にしたもの?

裁判例:
国・地方公共団体間の補助金をめぐる訴訟である「摂津訴訟」の裁判例:
地方公共団体が国に対して保育所設置費負担金の超過負担分を請求(一種の公法上の当事者訴訟として提起)

第1審・控訴審:
保育所の設置費用の負担金の交付については、補助機等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく交付決定という行政処分を経る必要がある⇒地方公共団体の負担金支払請求を棄却。

補助金適正化法6条1項に基づく補助金の交付決定を抗告訴訟の対象となる行政処分と捉え、行政処分の取消訴訟の形でならば訴えで争うことを認めたもの。

●訴えの利益
◎ 最高裁R3.6.24:
処分を取り消す判決が確定した場合には、その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、処分をした行政庁は、その事件につき当該判決における主文が導きだされるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うことになるが、
上記拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではない
その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られる

◎ 特別交付税は、年度ごとに総額が決まる⇒令和元年度の特別交付税の総額も決まっているので、取消判決が出されたとして、判決の趣旨に従って原告の令和元年度の特別交付税を増額させるためには、行政庁(総務大臣)は他の地方団体へ交付済みの特別交付税を減額する決定をしなければならないが、これは何ら帰責事由のない原告以外の地方団体に対して不利益を与えるという授益的行政処分の撤回に当たり、不可能という議論があり得る。
他方で、原告に対する令和元年度の特別交付税の額の決定をし、翌年度以降に原告に対して交付する特別交付税又は普通交付税の額により調整することについては、その根拠となる規定が交付税法及び総務省令には存在しないのではないかという疑問。
本判決が引き合いに出す交付税法19条1項の規定は、普通交付税の算定の基礎に用いた数に錯誤があったことを発見した場合に関するもの。
仮に、その類推適用(準用)できないとすると、取消判決の拘束力による行政庁の義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られると解される
⇒本件訴訟は訴えの利益がない。
but
法律上の争訟性を肯定し、抗告訴訟で争うべきとしながら、訴えの利益はない
⇒残るは国賠請求訴訟という手段によることになって、落ち着きが悪い。

● 交付税法15条1項による委任の範囲
委任命令が授権法の委任の範囲を逸脱するかどうかが問題となった最高裁判決:
①授権既定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等
が考慮。
交付税法によると、そもそも地方交付税というのは、財政需要額が財政収入額を超える地方団体に対し、その超過額を補填することを目的として交付するもの(同法3条1項)。
・・・・
交付税法15条1項の眼目は、「普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる」か否かという点にある。

判例時報2532

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

 

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