破棄判決の拘束力(米子ホテル強盗殺人第3次控訴審判決)
広島高裁松江支部R3.11.5
<事案>
強盗殺人の事案で、犯人性が争われた事案
<審理の経緯>
①
②
③最高裁第1時上告審
④広島高裁差戻審(第2次控訴審)
⑤鳥取地裁第2次一審
で
⑤についての控訴審。
<解説>
● 控訴の趣旨は、訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張。
前者:⑤判決が④判決の拘束力を認めたのは法令の解釈適用を誤っている
後者:被告人は本件公訴事実の犯人ではない
⑤判決が④判決に拘束されるとしたのは、
①判決が夕食終了時刻を午後9時26分頃と認定したことを④判決が否定した部分。
①判決:証拠評価を誤って夕食終了時刻を午後9時26分頃と認定したことにより、夕食を終えて事務室にいた被害者と被告人が鉢合わせをする形で出会ったため咄嗟に被害者を殺害してその後に金銭を奪ったとして殺人と窃盗を認定
④判決:この夕食終了時刻の認定を否定しひいて被害者のいる事務室に被告人が侵入したとの判断も否定(被告人が金品物色中に被害者が事務室に戻ったと認定)しており、⑤判決は、この消極的否定判断に拘束されかつ⑤における証拠調べの結果によってもその拘束力からの解放は生じないとした。
本判決:このような拘束力を認めた⑤判決の判断に誤りはないとした。
●破棄判決の拘束力について、最高裁:
破棄判決の拘束力は、法律上の判断だけでなく、事実上の判断についても生じるとし、
「破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生ずるものであり、その消極的否定的判断を裏付ける積極的肯定的事実についての判断は、破棄の理由に対しては縁由的な関係に立つにとどまりなんらの拘束力を生ずるものではない」と判示しており、⑤判決及び本判決は、この判示の前段部分に従ったもの。
破棄判決の拘束力については、前記説示にかかわらず、「直接の破棄理由と不可分な関係ないし必然的な論理的前提の関係にある事項についての判断であれば、たとえ肯定的・積極的な形のものであっても、拘束力を排除する理由はない」とするのが通説的見解とされているが、裁判員裁判制度導入後のいても同様に考えてよいかは検討を要するところ。
判例時報2532
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
- 懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)(2023.05.29)
- 警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案(2023.05.28)
- 食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)(2023.05.28)
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
「刑事」カテゴリの記事
- 詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案(2023.05.07)
- 不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味(2023.05.01)
- 保釈保証金の全額没収の事案(2023.04.02)
- 管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)(2023.04.02)
- いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例(2023.03.23)
コメント