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2022年12月10日 (土)

鉄道の自動改札機を利用したキセル乗車と電子計算機使用詐欺罪

名古屋高裁R2.11.5

<事案>
被告人は、乗車券を買ってA駅から入場し、その後乗り換えるなどしてB駅で下りたが、その際、別の磁気定期券(本件定期券)を自動改札機に投入して出場。

<争点>
本件自動改札機は出場の許否の判定において、入場情報が用いられることがなく、その具体的内容が読み取られることもない⇒本件定期券に入場情報が記録されていなくても、本件定期券が有効期間内であり、かつ、有効区間に出場駅が含まれている限り、出場が許される。
そのような場合に、電気計算機使用詐欺罪が成立するか?

<規定>
刑法 第二四六条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法 第二四六条の二(電子計算機使用詐欺)
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

<一審>
(1)刑法246条の2後段の「財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいう。
(2)本件自動改札機による磁気定期券の改札事務処理の対象となっていたのは、投入された磁気定期券が有効期間内であるか、磁気定期券の有効区間内に出場駅が含まれるかの2点のみであり、入場情報はその対象となっていない。⇒被告人が投入した本件定期券には真実に反する情報が含まれていたとは認められない。
⇒無罪

<判断>
本件自動改札機による事務処理システムが予定する事務処理の目的は、 乗車駅と下車駅の間の正規の運賃が支払われた正当な乗車か否かを判定して出場の許否を決することを指す(入場情報がこれに含まれることは自明である。)⇒事務処理の現状だけをもって目的が決まるわけではない。
電子計算機使用詐欺罪が、人を介した取引であれば詐欺罪に当たるような不正な行為であ、電子計算機によって機械的に処理されているものについて、これを取り締まる趣旨で創設されたもので、詐欺罪の補充規定⇒本罪の成立を認めた。
被告人が係員に本件定期券を示した場合には詐欺罪が成立するのは明らか⇒本件自動改札機に本件定期券を投入する行為を詐欺罪の補充規定である電子計算機使用詐欺罪で処罰することは、構成要件の外延を不明確にするものでも、処罰範囲を不当に拡大するものでもない。

<解説>
本件の場合、入場情報が出場の許否の判断に用いられていない⇒仮に、本件定期券に正しい入場情報が記録されていて、それを読み取ればキセル乗車であることが判明し、出場を許さないという場合であっても、本件自動改札機にあっては、出場を許すことにならざるを得ない。

本件定期券を本件自動改札機に投入したこと(=虚偽の情報提供)と、被告人が駅から出場できたこと(=財産権の得喪)との間の連関(因果関係)もないということになる。

有人改札の場合において、定期券の有効期間と有効区間を示し、さらに「有効区間外ですが、A駅からの乗車です。」と正直に告知しながら出場するような行為。

判例時報2529

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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