ひとり親障害者が障害基礎年金を受給⇒児童扶養手当の支給を停止された事案
京都地裁R3.4.16
<事案>
身体障害者のひとり親として4名の子を養育しているX(女性)が児童扶養手当を受給していたが、障害基礎年金と同年金の子加算を受給⇒児童扶養手当法13条の2第2項と児童扶養手当法施行令6条の4の定めにより、障害基礎年金の子加算分だけでなく本体部分についても併給調整の対象として児童扶養手当支給を停止する旨の併給調整規定が適用され、Xへの児童扶養手当の支給が停止。
X:
①本件併給調整規定は、法13条の2第2項の委任の範囲を逸脱して違法であり無効
②本件併給調整規定は、憲法14条、25条及び国際人権規約に反して無効
⇒Y(京都府)に対して、児童扶養手当のうち障害基礎年金の子加算部分に相当する部分を除く支給停止処分の取消しを求めた。
<本判決>
●①について
①児童扶養手当は、離婚等により稼得能力が低下した受給者に対してその所得を補うもの
②障害基礎年金(本体部分)は障害により稼得能力が低下(ないし喪失)したことに対し、所得補償の趣旨で給付されるもの
⇒両者は稼得能力の低下等に対する所得補償の趣旨において基本的に同一の性質を有するもの
③同一人に複数の稼得能力の喪失ないし低下をもたらう事由が生じた場合において、稼得能力の喪失ないし低下の程度が事由の数に比例するとは必ずしもいえない⇒児童扶養手当と障害基礎年金(本体部分)との間で併給調整を行うことに合理性がないとはいえない。
X:障害のある母がひとりで児童の生計を維持している世帯(ひとり親世帯)については、本件併給調整規定により、児童扶養手当の全額が支給されないのに対し、
児童扶養手当の受給資格を有する母が障害のある配偶者(非受給配偶者)と共同して児童の生計を維持している世帯(ふたり親世帯)については、ふたり親併給調整規定により、児童扶養手当と障害基礎年金の子加算部分との差額部分が母に支給される扱いとなっており、法の許容しない不均衡が生じている。
vs.
・・・世帯の構成人数及び受給者が異なっている⇒両者を単純に比較して配偶者の有無による差別ないし不均衡があるなどとはいえない。
●②について
Xの憲法25条の主張
vs.
憲法25条の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府ないしその委任を受けた行政庁の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみられるような場合を除き、同条に違反することはできない。
・・・・併給調整を行うかどうかは、立法府ないしその委任を受けた行政府の裁量の範囲に属する事柄とみるべきところ、本件併給調整規定による併給調整の内容、方法が著しく合理性を欠くとはいえない。
憲法14条違反との主張
vs.
X主張の差異が生じるとしてもこれをもって合理的理由のない不当な差別的扱いであるとはいえない。
本件併給調整規定がひとり親世帯とふたり親世帯につき合理的な理由なく不当に差別するものとはいえない⇒本件併給調整規定が国際人権規約に反するものではない。
<解説>
ひとり親に対する所得補償の児童扶養手当と、障害者であることに対する障害福祉年金の併給を禁止することに合理性が争われた堀木訴訟と類似する事案。
判例時報2532
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