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2022年12月30日 (金)

携行型の営利目的による覚醒剤輸入の事案で、故意の有無が争われ、1審有罪⇒控訴審無罪の3件の事案。

<解説>
●最高裁:
覚醒剤輸入事犯の故意について、覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類という認識があれば、認定できる。
その有無が争われた場合、経験則・論理則を踏まえ、間接事実からそのような故意が認定できるか否かを判断。

●審理の結果明らかとなった被告人と依頼者とのやり取りや、被告人の渡航の経緯、報酬額の高さ等の事実から、被告人が携行する荷物が覚醒剤を含む違法薬物であるという認識、すなわち故意が推認されると判断され、有罪認定される場合も多い。

本件でも、
出会い系サイトで知り合った「P1」と名のる人物から、2000ユーロという高額の報酬支払の約束のほか、相当額の渡航費や滞在費を負担するという条件で仕事を引き受けた(①事件)
ロスに渡航し、4日以上滞在して20万円以上の費用を自弁しているのに、訪れた観光地が2か所のみで滞在時間も長くないないなど、観光目的とは異なる「他の渡航目的」を有していたといえるような事情(②事件)
渡航費用等をスポンサーが負担する代わりに(覚醒剤入りの)シャンプー等を日本に運搬することを引き受けたなどという渡航の経緯に関する事情が認められる(③事件)等。

各被告人が覚醒剤を本邦に持ち込むことについての故意を推認させる事情。
but
次のような合理的な疑いが残ると判断され、覚醒剤輸入の故意が否定された。
各被告人は、日本からヨーロッパへの復路において、違法薬物を「持ち帰る」などの違法な仕事をさせられるのではないかとの疑念を抱いていたにとどまる(①事件)
観光目的で渡航し、土産物として購入したバニラナッツ等4袋を同行者にすり替えられた可能性を排除できない(②事件)
運搬する荷物について、「ブランド品」を中心的なものと認識し、(覚醒剤入りの)シャンプーには関心が向いていなかった可能性が否定できない(③事件)。

●2つの留意点
◎(1)収集された証拠から、認定できる事実を積み重ねていくことの重要性
②事件:
原判決が、そもそも共犯(共謀共同正犯)である「氏名不詳者ら」に同行者が含まれるかどうかにつき十分な検討をしなかったことの問題。
③事件:
4月30日時点の各被告人の認識について、運搬する荷物の中に違法薬物等が含まれているとの疑念を抱いていたとする原判決の判断が不合理であると判断。
but
結論として故意が否定されるにしても、4月30日時点の各被告人の認識については、それほど濃厚なものではなかったにせよ、違法薬物を含む違法物を本邦に持ち込む疑いを抱いていたとの認定を前提に、その後の知人とのやり取りを等を通じて運搬する荷物に対する認識が「ブランド品」に限定されていき、違法薬物である可能性に対する疑念が払拭されたために故意が否定されるとうい構成もあり得た。
but
その場合には、一度抱いた運搬する荷物が違法薬物である可能性の認識を払しょくするに足る事後の事情があるといえるか、控訴審の判断として1審の判断の不合理性を十分に指摘できたといえるかといった問題もある
⇒4月30日時点の各被告の認識がどのようなものであったかを曖昧なままにせず、丁寧に確定する必要があると考えられたのではないかと思われる。

被告人が、どの時点でどの程度の認識を有したと認定できるか、それが事後の事情によって変更したか等を証拠に照らし、分析的に検討することが肝要。

◎(2)証拠の検討の在り方
メール等の内容は必ずしも一義的であるとはいえない⇒やり取りをした者の関係性やメール等の文脈を見る必要
時系列についても正確に把握する必要
①事件:メッセージの具体的な内容の検討⇒被告人の出発時に抱いていた疑念は、違法薬物をヨーロッパに「持ち帰る」仕事をさせられるのではないかというものにとどまり、往路において、違法薬物を日本に「持ち込む」仕事をさせられるのではないかという疑念を抱くに至ったとは認められない。

③事件:単にメッセージの客観的な送受信の先後関係とは別に、やり取りの内容が先になされたメッセージの内容を踏まえた上でなされたものかについて検討⇒被告人の説明を排斥できない。

裁判員や裁判官にメール等の持つ意味内容が正確かつ効率的に伝わるような主張、立証を行うのは当事者の責務。

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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