村八分による国賠請求の事案
大分地裁中津支部R3.5.25
<事案>
Y2らについてXに対し市報を配布しないなどの村八分や各種嫌がらせ⇒Y2らに対しては民法719条1項に基づき、Y1に対しては国賠法1条1項若しくは国賠法3条1項又は民法715条1項に基づき、慰謝料等の連帯支払を求めた。
反訴:
Y2が、Xから不当な告訴を受けるなどの各種嫌がらせを受けたとして、Xに対し、民法709条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。
<判断>
● Xが、近くの田畑で農業に従事しながらa区内の実家で生活したり区長兼自治委員から市報等の配布・回覧を受けたりa自治区の構成員として会合や行事等に参加したりしていた
⇒a区の住民やa自治区の構成員として平穏に生活する人格権ないし人格的利益を有していた。
but
Xを除きY2らを含むa自治区の構成員らは、Xがa区に住民票を有していない⇒Xをa自治区の構成員と認めず、共同してXと断交する旨の決議(「本件決議」)を行うとともに、Y2がY1に対し前自治委員としてa自治区の戸数が1戸減少した旨届け出たり、Y3が区長兼自治委員に就任してもXに対して市報等を配布・回覧せず、冠婚葬祭の連絡もしなかったり、a自治区の住民らがXと口をきかなくなったり、Y4が区長に就任してもXに対し市報等を配布・回覧しなかった。
Xを除いたa自治区の全構成員による本件決議やこれに沿った7年以上に及ぶ前記各言動は、前記人格権ないし人格的利益を継続的に侵害し、Xに大きな落ち度があるともいえない⇒社会通念上許される範囲を超えた「村八分」として、共同不法行為を構成。
Y2は、X所有の畑に通じる市道に赤い塗料で「私道」等と大書するとともに「進入禁止」と記載されたカラーコーン等を複数設置してXによる通行を妨げたり、前記畑上の柿の木を切るなどして枯らしたり、前記畑へ瓦れきを投棄したりしたと認定。
Y2による前記各行為は、Xが平穏に生活する人格権ないし人格的利益を侵害し、社会通念上許される範囲を超えた「嫌がらせ」として不法行為を構成。
● Xも、Y2等が本件決議を主導したとしてY2等を脅迫罪で告訴。
but
村八分は脅迫罪を構成し得る⇒合理的理由がある⇒本訴請求は権利の濫用でなく、Xは不法行為責任を負わない。
● Y1における自治委員や区長は、Y1から市政の周知や市報の配布、募金への協力等の事務を受託しており、これらの多くが本来Y1で行うべきもの
but
強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない
⇒国賠法上の公務員やY1の被用者に当たらない。
宇佐市自治会連合会も、同様の事務を受託しているものの、強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない⇒国賠法上の公共団体に当たらない。
⇒
Y1は国会賠償責任も使用者責任も負わず、
Y2らは前記村八分について共同不法行為責任を負い、
Y2は前記嫌がらせについて不法行為責任を負う。
村八分に対する慰謝料は100万円
嫌がらせに対する慰謝料は30万円
が相当。
<解説>
● 団体がその秩序を乱した構成員に対して行う共同断交の制裁であるいわゆる「村八分」は、人格権ないし人格的利益を侵害し、その程度が社会通念上許される範囲を超えた場合、共同不法行為を構成すると解されている。
● 国賠法1条1項の「公共団体」や「公務員」は「公権力の行使」に当たる団体ないし個人のことをいい、ここにいう「公権力の行使」とは、本来は国又は公共団体でなければ行使し得ない権力的ないし強制的契機を含む事務を行うことを意味するものと解されている。
民法715条1項の「被用者」は、使用者から実質的な指揮監督を受けている者を意味するものと解されている。
本判決:
本件のY1における自治委員や区長、宇佐市自治回連合会がこれらの要件を満たさない⇒Y1の国賠責任や使用者責任を否定。
判例時報2532
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