数罪が科刑上一罪の関係にある場合において、罰金刑では軽い罪の方が重い場合
最高裁R2.10.1
<事案>
建造物侵入罪(刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)と
当時の埼玉県迷惑行為条例2条4項(盗撮)違反の罪(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
両者は牽連犯の関係にあって、刑法54条1項後段により科刑上一罪となる。
検察官:罰金40万円の科刑意見を付して略式命令を請求⇒さいたま簡裁は罰金10万円の略式命令⇒検察官が正式裁判を請求。
<争点>
各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照した際の重い刑及び軽い罰のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり、軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときに、罰金刑の多額は重い罪と軽い罪のいずれのものによるべきか?
<規定>
刑法 第五四条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
<1審・原審>
最高裁昭和23年判例の採用する重点的対象主義⇒本件の罰金の多額は重い建造物侵入罪のそれである10万円となるが、それを前提に検察官の求刑を踏まえると、罰金刑の選択は相当でない⇒被告人を懲役2月、3年間執行猶予。
被告人:上告し、原判決は、罰金刑の多額が10万円となるとした点ににおて、同種事案で罰金の多額は軽い罪のそれによるべきとした名古屋高裁金沢支部判決H26.3.18と相反し、本件での罰金の多額は埼玉県条例違反のそれである50万円となる。
<判断>
昭和23年判例は、本件のような罰金刑の多額についてまで判示するものではなく、軽い罪のそれによることを否定する趣旨とも解されない。
⇒昭和23年判例が重点的対照主義の形式的適用をいうものではない。
⇒
金沢支部判決は、最高裁の判例がない場合の控訴審裁判所たる高裁裁判所の判例(刑訴法405条3号)となる。
⇒
原判決は最高裁判所の判例がない場合の控訴裁判所たる高等裁判所の判例に相反したもので、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合であるとはいえないとして、原判決及び第1審判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻した。
<解説>
●最高裁昭和28.4.14:
重い罪には罰金刑の選択刑があるが、軽い罪にはないとうい事案で、
刑法54条1項が「最も重い刑」と定めているのは、数個の罪名中最も重い刑を定めている法条によって処断するという趣旨と共に、他の法条の再加減の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含む⇒この場合罰金刑を選択することはできない。
最高裁H19.12.3:
重い罪には罰金刑の選択刑がなく、軽い罪には罰金刑の任意的併科が定められている事案で、
刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み、重い罪の懲役刑に軽い罪の罰金刑を併科することができる。
~
いずれも昭和23年判例を変更するものではない⇒昭和23年判例が重点的対照主義の形式的適用をいうものではないという理解。
●本件:
建造物侵入罪の法定刑が「最も重い刑」といえないことは明らかであり、罰金の多額を50万円と解することが、数罪を包括的に「最も重い刑」で処断するという、刑法54条1項の趣旨及びその文言に合致。
本判決が、刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み、罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきとしたのは、このような理解に基づく。
判例時報2529
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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