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2022年12月

2022年12月30日 (金)

携行型の営利目的による覚醒剤輸入の事案で、故意の有無が争われ、1審有罪⇒控訴審無罪の3件の事案。

<解説>
●最高裁:
覚醒剤輸入事犯の故意について、覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類という認識があれば、認定できる。
その有無が争われた場合、経験則・論理則を踏まえ、間接事実からそのような故意が認定できるか否かを判断。

●審理の結果明らかとなった被告人と依頼者とのやり取りや、被告人の渡航の経緯、報酬額の高さ等の事実から、被告人が携行する荷物が覚醒剤を含む違法薬物であるという認識、すなわち故意が推認されると判断され、有罪認定される場合も多い。

本件でも、
出会い系サイトで知り合った「P1」と名のる人物から、2000ユーロという高額の報酬支払の約束のほか、相当額の渡航費や滞在費を負担するという条件で仕事を引き受けた(①事件)
ロスに渡航し、4日以上滞在して20万円以上の費用を自弁しているのに、訪れた観光地が2か所のみで滞在時間も長くないないなど、観光目的とは異なる「他の渡航目的」を有していたといえるような事情(②事件)
渡航費用等をスポンサーが負担する代わりに(覚醒剤入りの)シャンプー等を日本に運搬することを引き受けたなどという渡航の経緯に関する事情が認められる(③事件)等。

各被告人が覚醒剤を本邦に持ち込むことについての故意を推認させる事情。
but
次のような合理的な疑いが残ると判断され、覚醒剤輸入の故意が否定された。
各被告人は、日本からヨーロッパへの復路において、違法薬物を「持ち帰る」などの違法な仕事をさせられるのではないかとの疑念を抱いていたにとどまる(①事件)
観光目的で渡航し、土産物として購入したバニラナッツ等4袋を同行者にすり替えられた可能性を排除できない(②事件)
運搬する荷物について、「ブランド品」を中心的なものと認識し、(覚醒剤入りの)シャンプーには関心が向いていなかった可能性が否定できない(③事件)。

●2つの留意点
◎(1)収集された証拠から、認定できる事実を積み重ねていくことの重要性
②事件:
原判決が、そもそも共犯(共謀共同正犯)である「氏名不詳者ら」に同行者が含まれるかどうかにつき十分な検討をしなかったことの問題。
③事件:
4月30日時点の各被告人の認識について、運搬する荷物の中に違法薬物等が含まれているとの疑念を抱いていたとする原判決の判断が不合理であると判断。
but
結論として故意が否定されるにしても、4月30日時点の各被告人の認識については、それほど濃厚なものではなかったにせよ、違法薬物を含む違法物を本邦に持ち込む疑いを抱いていたとの認定を前提に、その後の知人とのやり取りを等を通じて運搬する荷物に対する認識が「ブランド品」に限定されていき、違法薬物である可能性に対する疑念が払拭されたために故意が否定されるとうい構成もあり得た。
but
その場合には、一度抱いた運搬する荷物が違法薬物である可能性の認識を払しょくするに足る事後の事情があるといえるか、控訴審の判断として1審の判断の不合理性を十分に指摘できたといえるかといった問題もある
⇒4月30日時点の各被告の認識がどのようなものであったかを曖昧なままにせず、丁寧に確定する必要があると考えられたのではないかと思われる。

被告人が、どの時点でどの程度の認識を有したと認定できるか、それが事後の事情によって変更したか等を証拠に照らし、分析的に検討することが肝要。

◎(2)証拠の検討の在り方
メール等の内容は必ずしも一義的であるとはいえない⇒やり取りをした者の関係性やメール等の文脈を見る必要
時系列についても正確に把握する必要
①事件:メッセージの具体的な内容の検討⇒被告人の出発時に抱いていた疑念は、違法薬物をヨーロッパに「持ち帰る」仕事をさせられるのではないかというものにとどまり、往路において、違法薬物を日本に「持ち込む」仕事をさせられるのではないかという疑念を抱くに至ったとは認められない。

③事件:単にメッセージの客観的な送受信の先後関係とは別に、やり取りの内容が先になされたメッセージの内容を踏まえた上でなされたものかについて検討⇒被告人の説明を排斥できない。

裁判員や裁判官にメール等の持つ意味内容が正確かつ効率的に伝わるような主張、立証を行うのは当事者の責務。

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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1審無罪⇒控訴審で被告人質問で黙秘⇒有罪認定(刑訴法400条ただし書の違反なし)

最高裁R3.5.12

<事案>
被害者が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じ、同人と性交したという、準強姦の事案

<1審>
被害者が抗拒不能であったことは認められるが、その認識がなかった旨述べる被告人の公判供述の信用性は否定できず、被告人に本件認識があったことには合理的な疑いが残る⇒被告人を無罪

検察官:本件認識についての事実誤認を主張し控訴。

控訴審 職権による被告人質問
弁護人は質問を行わず、検察官及び裁判官の質問に対して、被告人は黙秘。
被告人質問で被告人が終始黙秘
⇒原審で取り調べた実質的証拠は存在しないとしつつ、
訴訟記録及び第1審において取り調べた証拠に基づき、被告人に本件認識があったことは明らかであり、第1審判決の判断は論理則、経験則に反する⇒事実誤認で第1審判決を破棄し、懲役4年に。

被告人が上告
原審が実質的な事実の取調べのないまま第1審の無罪判決を破棄して有罪の自判をしたのは判例に相反する。

<判断>
弁護人の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらない。
原判決に刑訴法400条ただし書違反がない旨職権判示して、被告人の上告を棄却。

<規定>
刑訴法 第四〇〇条[破棄差戻移送・自判]
前二条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

<解説>
控訴審が、事実の取調べを行わないで、第1審の無罪判決を事実誤認により破棄し、有罪の自判をすることは、刑訴法400条ただし書きに違反するという判例法理

●控訴審で実施すべき事実の取調べの内容・程度
A:判例の直接主義・口頭主義を手続保障の要請⇒本件判例法理の根拠を控訴審における手続保障とする理解(手続保障説)
B:判例のいう直接主義を実質的にとらえ、本件判例法理の根拠を、控訴審における人証の取調べに関する直接主義の保障と理解する見解(実質説)
C:本件判例法理の根拠は控訴審において書面審査だけで有罪の認定をすることに伴う危険を防止する政策的配慮と理解する見解(政策的配慮説)

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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配転命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇(有効事例)

大阪地裁R3.11.29

<事案>
大手電機メーカーC1の子会社でシステムソルーション事業を行うYの従業員であり、C1グループの間接部門事業を行う子会社C2に出向していたXが、勤務していた大阪市の事業所の閉鎖に伴い、川崎市の事業所への配転命令⇒応じなかったため懲戒解雇
①同懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
②同懲戒解雇後の賃金等の支払
③多数の従業員の面前で懲戒解雇通知書を読み上げられた⇒同行為が不法行為に当たるとして損害賠償
を求める事案。

<判断>
本件配転命令の有効性について、東亜ペイント事件最高裁判決に則って判断し、
①業務上の必要性:
C1グループの経営状況⇒組織の構造改革や業務の効率化を図ることも経営状況を改善するための方策の1つであり、閉鎖する事業場の選定にも不自然・不合理な事情はない。
事業場を閉鎖することとなれば当該事業場に勤務していた従業員の処遇が問題となるところ、退職を選択しない従業員を別の事業場に集約することは、業務の効率化や雇用の維持という観点からみても、合理的な方策ということができる。
本件配転命令には業務上の必要性があった

②不当な動機・目的の有無:
閉鎖される事業場に勤務していた従業員のうち退職を選択しない従業員は全員を別の事業場に配転するという方針⇒退職に追い込むことを意図して特定の従業員を対象として配転命令を発令したものではない。
SEの社内求人の紹介や求人の紹介や清掃業務を行う関連会社C3への出向を提案したのは、Xから従前と同じビル内で勤務することを要望を受けて、Y又は本件子会社が考えられる選択してとして検討・提案したもの⇒Xを退職に追い込むためにあえて提案を行ったものであはない。
Xに対する退職強要に近い執拗な退職勧奨が行われたことはない

本件配転命令が不当な動機・目的によってなされたものではない。

③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無:
Xが訴訟で提出した医師の意見書や診断書の内容をYが認識していないのは、Y又は本件子会社が配転に応じることができない理由を聴取する機会を設けようとしたにもかかわらず、Xが自ら説明の機会を放棄したことによる⇒Y又は本件子会社が本件配転命令を発出した時点において認識していた事情を基に判断することが相当。
当該事情は、一般的な事情であって特段珍しいものではなく、転居を伴う配転の場合には通常生じ得る事情。

予備的に:
Xが訴訟で提出した医師の意見書や診断書の内容等を踏まえても、
①母親の状態は、要介護状態にはなく、加齢による一般的なものを超えない
②長男の状態は、持病は一般的には成長に伴って症状が改善するとされているものであり、本件配転命令前の通院頻度も1か月に1回程度
③本件配転命令の直近5年にXが取得した休暇の日数は、付与休暇日数の範囲内で収まっている
④医師の意見書も抽象的なものにとどまっている

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるということはできない。

本件配転命令に応じないという自体を放置することとなれば企業秩序を維持することができないことは明らか
⇒懲戒解雇は有効。

<解説>
本件では、Xが自ら説明の機会を放棄したことによるものというほかない⇒本件配転命令の有効性の判断において考慮し得る事情は、本件配転命令発出時に判明していた事情に限られるとした。

配転命令の有効性を検討する際に、常に、配転命令発出時において使用者が認識していた事情のみに基づいて配転命令の有効性が判断されることになるものではない。
ex.
使用者が、配転命令発出に際し、労働者に関する情報を特に入手しようとすることをせずに業務命令として配転命令を発出⇒配転命令発出時において、使用者が認識していない事情であっても、客観的に存在した事情であれば、配転命令の有効性の判断の際に考慮されることもある。

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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個人の不祥事⇒大学の評価低下⇒他の個人による損害賠償請求等(否定)

東京地裁R3.11.30

<事案>
A大学の教授又は非常勤講師の職歴(現職を含む。)を有する個人ら及び同個人らを含む会員によって構成される団体が当事者となってA大学の理事長、学長又は理事である(又はあった)Yらに対し、

①A大アメフト事件及び医学部入試不正問題へのYらの対応が不適切であったことからA大に対する補助金が減額された⇒債務不履行又は共同不法行為に基づき、連帯して、A大に対し、減額相当分の一部である3億5000万円及び遅延損害金を支払うことを求めるとともに
②Yらが、A大アメフト事件、医学部入試不正問題及び理事長と反社会的勢力との交際をうかがわせる報道等についていずれも適切な事後対応を怠ったことによってA大の評判を低下させ、その結果個人Xらの愛校心が侵害されて精神的苦痛を被った⇒不法行為に基づき、連帯して、個人Xらそれぞれに対し、5万5000円及び遅延損害金を支払うことを求めた。

<判断>
●請求①についてXらの当事者適格の有無
請求①はA大とYらとの間における債務不履行又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権の存否の確定を定めるものA大の法定訴訟担当にも任意的訴訟担当にも該当しないXらに当事者適格が認められない。

●請求②について、Yらが事後対応を怠ったことが個人Xらの愛校心を侵害するものとして不法行為を構成するか
否定

①個人Xらの主張する愛校心は、所属大学を誇りに思う感情をいい、個人Xらは、その感情の源である所属大学に対する社会的評価が低下したことによって、不快感や屈辱感を憶えるに至り、愛校心が侵害されたと主張
but
大学に対する社会的評価が低下することによって権利(名誉権)を侵害される主体は大学であって、大学に対する社会的評価の低下に伴い、そこに所属する(又はしていた)者にもたらされることがあり得る不快感や屈辱感について、それを被侵害利益として直ちに損害賠償を請求できるほどに十分な強固な利益と解することはできない。
②個人Xらは、A大の教授等の職歴を有するというにすぎず、本件で問題となった事件や報道等に関して個別具体的な関係を有しない⇒個人Xらにおける前記感情が、社会通念上受忍すべき限度を超えるものとして、法的保護の対象になるとまでは認め難い。

<解説>
当事者適格:
特定の訴訟物について当事者として訴訟を追行し、本案判決を受けることのできる資格。
かかる資格について、合理的必要性がある場合等には、明文なき任意的訴訟担当として当事者適格を認める余地があるものの、本来の権利主体から訴訟追行権の授与があることが前提とされる。

どのようなものが不法行為上保護される人格的利益となり得るかが問題となった裁判

例:
①個人のアイデンティティ権の事例
②遺族の故人に対する敬愛追慕の情の事例

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2022年12月20日 (火)

不動産の取得時効完成後の取得で背信的悪意者とされた事例

大阪高裁R3.5.21

<事案>
Xは、昭和43年月日不詳から20年の取得時効完成で本件各土地を時効取得⇒昭和43年月日不詳時効取得を原因とする所有権移転登記。
本件各土地には、平成25年1月31日に、当時の所有名義人であったQ1を債務者として、P9を根抵当権者とする根抵当権設定仮登記(1番仮登記)⇒平成30年1月29日に、根抵当権設定の本登記(1番根抵当権登記)がされ、同日に本登記とP3に対する1番根抵当権移転の付記登記。
同年2月22日に、Yに対する1番根抵当権移転の付記登記。(P9⇒P3⇒Y)
平成26年11月18日に、Q1を債務者としP3を根抵当権者とする根抵当権設定仮登記(2番仮登記)⇒平成30年1月25日に本登記、Yに対する根抵当権移転の付記登記。(P3⇒Y)

Xは、1番仮登記及び1番根抵当権登記並びに2番仮登記及び2番根抵当権登記の現名義人であるYを相手にこれらの各登記の抹消登記手続を求めるとともに、1番仮登記及び1番根抵当権登記の前名義人であるP3を相手にこれらの各陶器の抹消登記手続を求めた。

<原審>
P3に対する請求は棄却され確定。

抵当権設定登記につき権利移転の付記登記が経由された場合ににおいて、不動産の所有者である甲が抵当権設定登記の抹消手続を求めるには、現在の登記名義人である丙のみを被告とすれば足り、抵当権設定登記の直接の契約当事者である乙を被告とすることを要しない。

<争点>
Yに対する請求について、 YがXの登記欠缺を主張する正当な理由を有する第三者か?

<原審>
YはXが本件各土地を時効取得する可能性が非常に高いことを認識しながら、訴訟係属中でXが未だ時効取得に基づく所有権移転登記手続をできないことにつけこんで、競売を利用してXの土地所有権を烏有に帰そうとしたというべき⇒不登法上の信義則に反し、YはXの登記欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には該当しない。

<判断>
判例を引用し、登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう第三者に当たらない。

最高裁H8.10.29を参照し、
対抗関係にある者に後れて不動産を取得し登記を経由した者が背信的悪意者に当たらない(善意)としても、その者から当該不動産を取得した者(転得者)自身が当該対抗関係にある者に対する関係で背信的悪意者に当たる場合には、当該転得者は、正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法177条の「第三者」から排除され、当該対抗関係にある者は、登記なくして当該不動産の所有権取得を当該転得者に対抗することができる。

最高裁H18.1.17を引用し、
ある者が時効取得した不動産についてその取得時効完成後に当該不動産の権利を取得して権利移転の登記を経由した者が、当該不動産の権利を取得したときに、時効取得者が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、同人の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在⇒時効完成後に権利移転の登記を経由した者は背信的悪意者に当たる。
①・・・Yの実質的代表者であるP5は、周辺住民であり、本件各土地が何十年も前から墓地として使用されていることを知っていた。
②P5は・・・・・知っていた。
③P5は・・・

P5は、本件各土地についてXの時効取得を認めてXへの所有権移転登記手続を命ずる別件訴訟の控訴審判決がされたのを受け手、Q1の上告及び上告受理申立てによって同控訴審判決が確定しておらず、Xが所有権移転登記を経由することができない間に、前記の考えの下に1番抵当権及び2番抵当権の譲渡を受けて各移転の付記登記を経由したものと推認される。

Yの控訴を棄却。

<解説>
最高裁H8.10.29:
背信的悪意者からの転得者が背信的悪意者でない場合、当該転得者は不動産の所有権取得をもって第一譲受人に対抗できると判断した判例。

「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄。

本件:転得者が背信的悪意者である場合。
背信的悪意者該当性を相対的に判断すべきとするのは、多くの学説の説くところ。

最高裁H18.1.17:
所有者の取得時効完成後の第三者が背信的悪意者に当たるための要件を明らかにした判例。

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2022年12月19日 (月)

財産評定基本通達によるより高額での評価が許される場合

最高裁R4.4.19

<事案>
相続税法22条:相続税の課税価格に算入される財産の価額原則として当該財産の取得の時における時価による旨を規定。

財産評定基本通達:
時価は評価通達の定めによって評価した価額によるとする一方
評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨定める。
A:平成21年に合計10億5500万円を借入れてマンション2棟を合計13億8700万円で購入。
平成24年に94歳で死亡。
共同相続人の一部であるXら:
本件各不動産の価額を評価通達の定めによって合計約3億3400万円と評価し、課税価格の合計額を約2800万円、相続税の総額を0として相続税の申告書を提出。
(前記の購入及び借入れがなければ、Aからの相続に係る相続税の課税価格の合計額は6億円を超える)

札幌南税務署長:本件各不動産の価額は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当⇒本件各不動産の価額を別途実施した鑑定により合計12億7300万円と評価し、課税価格の合計額を約8億8900万円、相続税の総額を約2億4000万円とする更正処分。

原審 本件各更正処分は適法。

Xらが上告受理申立て

<判断>
● 本件各更正処分は適法であるとして、上告を棄却。
相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。
● 相続税の課税価格に算定される本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、次のアイなど判示の事情の下においては、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない
ア:本件各不動産は、被相続人が購入資金を借り入れた上で購入したものであるところ、前記の購入及び借入れが行われなければば被相続人の相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になる
イ:被相続人及び共同相続人であるXらは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続においてXらの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行した。

<解説>
課税処分の適法性は、あくまでも法令に照らして判断されるべきであり、通達の解釈から結論が導かれるものではない。
⇒本判決は、評価通達6の意味内容について何ら触れるところがない。

◎ 裁判例:
「特別の事情」があるときは他の合理的な方法によって評価した額による。
①通達評価額と時価により近似する価額との客観的なかい離を重視するもの
②経済的合理性の欠如する行為が租税回避目的でされたことを重視するもの
vs.
①客観的な時価に影響しない財産取得の経緯や目的を考慮すべきでない
②通達評価額が実勢価格を大幅に下回る事態は広く生じているから特定の納税者についてのみ別異に取り扱うのは不平等

◎ 本判決:
通達評価額と相続税法22条の「時価」との関係:
時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうとした上で、更正処分の基礎とされた相続財産の価額が客観的な交換価値としての時価を上回っていたとしても、同条に違反するものではない。

課税庁の主張額が客観的な交換価値としての時価を上回れば、その限度で更正処分は同条に違反するものとして当然に違法となり、課税庁はその主張額が時価を上回らないことを主張立証する必要があることを前提。

X:通達評価額を上回る価額によることは原則として同条に違反
vs.
評価通達が行政規則である通達にすぎず国民に対し直接の法的効力を有しない⇒否定

固定資産税
については、課税標準となる登録価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には、客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、登録価格の決定は違法となる(最高裁)。

固定資産評価基準が地方税法に基づいて定められ、これによって価格を決定することが同法上も予定されている。
このような法律上の仕組みを前提としない評価通達については、固定資産評価基準と同様に解することはできない。

本判決:原審において、課税庁の主張額が本件各不動産の客観的な交換価値として時価である(すなわち、時価を上回らない)とされている(これは原審の専権に属する事実認定の問題であり、本判決は原審の認定を前提としている。)、当該価額が本件各通達評価額を上回るからといって相続税法22条に違反するものということはできない。

相続税法22条の「時価」との関係では、専ら課税庁の主張額が客観的な交換価値としての時価を上回るものでないかが問題となり、通達評価額との多寡は問題とならない(⇒「特別の事情」といったものが問題となる余地もない)とするもの。

●本判決:課税庁が評価通達に従って画一的に相続財産の価額の評価を行っていることを指摘し(このことは公知の事実であるとしている。)
特定の者の相続財産の価額の評価についてのみ評価通達の定める方法により評価した額を上回る価額によるものとすることは、当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するものとして違法となる

評価通達が国民に対し直接の法的効力を有しないとしても、これに従った画一的な評価が現に行われている以上、課税庁が恣意的にこれと異なる評価を行って納税者を不利益に取り扱うことは許されず、納税者は、相続税の22条違反(課税庁の主張が時価を上回ること)とは別個の違法事由として、前記の平等原則違反(課税庁の主張が通達評価額を上回ること)を主張することができるとするもの。

本判決:
評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる⇒当該財産の価額を通達評価額を上回る価額によるものとしても前記の平等原則に違反しない。
「特別の事情」ではなく「実施的な租税負担の公平に反するというべき事情

原則として通達評価額によるべき根拠が前記の平等原則にあり、その例外も同原則から導かれるべいことを踏まえ、位置付けや内実が明確でない「特別の事情」という用語を避けて、事柄の性質に応じた表現としたもの

実質的な租税負担の公平を問題⇒通達評価額によることが他の納税者との間の租税負担の均衡を害することになる事情に限られるというべきであり、そのような事情に当たるか否かを具体的に検討する必要がある。
かかる事情については、処分の適法性を基礎づける事実⇒課税庁側が主張立証責任を負う(課税庁には通達評価額によるか否かについての裁量はなく、前記事情が主張立証されない限り、更正処分は違法となる)。

● 本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離がある
but
このことは「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらない。

たまたま相続した不動産の通達評価額が実勢価格ないし課税庁が実施した鑑定による評価額を大きく下回るとしても、これを理由に通達評価額を上回る価額によることは前記の平等原則に違反して許されない。

本判決:
本件購入・借入れの結果、通達評価額によるとXらの相続善の負担が著しく軽減される
本件購入・借入れが租税負担の軽減をも意図して行われた
このような場合に通達評価額によることは、当該行為をせず、又はすることのできない他の納税者との間に著しい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべき
⇒前記事情があるといえる。
本件各不動産の価額を通達評価額を上回る価額とすることは前記の平等原則に違反しない。

●ここで問題となっているのは、時価に係る事実の(平等な)認定であり、いわゆる租税回避行為の否認ではない。
⇒否認の根拠規定の有無や本件購入・借入れの経済的合理性を問題としていない。

判例時報2533

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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離婚に伴う慰謝料の履行遅滞となる時期

最高裁R4.1.28

<事案>
X:本訴として、Yに対し、離婚を請求するなどし
Y:反訴として、Xに対し、離婚を請求するなどし、不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料請求

<原審>
離婚請求認容
Yの慰謝料請求について120万円の限度で認容。
遅延損害金の法定利率について、言渡しが民法改正の施行日(R2.4.1)後⇒適用が問題。
Yの慰謝料請求は、XがYとの婚姻関係を破綻させたことに責任⇒婚姻関係が破綻した時は改正法の施行日より前⇒年5分を適用。

X:上告受理申立
不服申立ての範囲をYの慰謝料請求については原審が増額した20万円及びこれに対する遅延損害金に関する部分に限定。

<判断>
離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅延に陥る

離婚慰謝料請求に係る遅延損害金の法定利率について、改正後民法404条2項を適用し、Xの不服申し立ての範囲である20万円について対する遅延損害期を請求する部分については、本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべき。

<解説>
離婚慰謝料の中身:
離婚原因となった有責行為それ自体による精神的苦痛に対する慰謝料
離婚という結果そのものから生ずる精神的苦痛に対する慰謝料
の2つがあるとされる。

一体説(実務の通説):
相手方の有責行為から離婚までの一連の経過を1個の不法行為として捉え、
離婚慰謝料には、離婚自体慰謝料だけではなく、離婚原因慰謝料も全体として含まれる。

夫婦間における暴行・虐待、あるいは不貞などといった不法行為は、当該行為自体による通常の精神的苦痛(いわゆる個別慰謝料)と、離婚へと発展する契機となる精神的苦痛(離婚原因慰謝料)という双方の側面を有しており、
後者の侵害が蓄積され離婚に至ったときに「配偶者たる地位の喪失」という新たな精神的苦痛(離婚自体慰謝料)が発生。

離婚慰謝料は、離婚原因慰謝料を含むものであるが、やはり離婚自体慰謝料が主たるものというべき⇒離婚によって初めて損害が発生し、権利として生ずるものと解するのが相当

離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当だえる」として、離婚慰謝料の消滅時効の起算点が離婚時であるとの判断を示した最高裁判決(昭和46.7.23)とも整合的。

不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅延に陥る
⇒離婚慰謝料請求に係る遅延損害金の起算点は、離婚成立の日。

改正法附則:
施行日前に債務者が遅延の責任を負った場合のおける遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第419条第1項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

●原審:Yが請求する慰謝料を「破綻慰謝料」であると説示。
vs.
婚姻関係の破綻による精神的苦痛は、仮にそのようなものを観念できるとしても、離婚慰謝料の精神的苦痛の中に含まれているものであって、離婚慰謝料とは別に「破綻慰謝料」と認める必要性は乏しい。
法律婚の夫婦の事案において「破綻慰謝料」なるものを認めた最高裁判決は見当たらない。

離婚慰謝料に関する直近の判決(最高裁H31.2.19):
夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される」として、不貞慰謝料(個別慰謝料)を離婚慰謝料に対比させており、同判決は「破綻慰謝料」なるものを念頭に置いていあにように思われる。

判例時報2533

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2022年12月16日 (金)

看護師による、入院中の患者3名に対する殺人と、殺人予備の事件

横浜地裁R3.11.9

<事案>
2名は終末期医療のために入院し、1名は怪我の治療のために入院していた者。

<判断 ・解説>
●責任能力に対する判断
被告人は、起訴前にD1医師の精神鑑定を、起訴後にD2医師の精神鑑定(裁判所法50条に基づく、いわゆる50条鑑定)を受けたほか、
元家庭裁判所調査官であり、公認心理師及び臨床心理士の資格を有する大学教授D3によるいわゆる情状鑑定を受けた。
被告人が自閉スペクトラム症に該当するかどうかという点については、これを否定するD2鑑定を採用(D1鑑定も援用して自閉スペクトラム症の特性は有していた。)。

統合失調症の発症が認められるかどうかという点については、これを否定するD1鑑定を採用。
①自身の勤務時間中に対応を迫られる事態を起こしたくないと考えて本件各犯行に及んだという犯行動機は、それが当面の不安を解消するものにすぎず、根本的な解決にならないことを考慮しても、了解可能
②被告人は、自分が対応しなくてもよい時間帯に被害者を死亡させるという目的に沿って、犯行手段を選択し、自身の犯行が発覚しないように注意して本件各犯行に及んでいる
⇒完全責任能力が認められる。

起訴前の鑑定が行われている場合にも、50条鑑定が行われることは少なくなく、公判においては、複数の鑑定人の証人尋問が行われ、裁判員はその信用性判断を迫られることになる。
本件では、D3教授による情状鑑定も行われており、事案把握のため有効であったことがうかがわれる。

●量刑判断
◎ ①3名の生命が失われたという結果の重大性
②看護師としての知見と立場を利用し、犯行が発覚しないように工夫しつつ、それぞれの患者ごとに犯行手段を選択肢て犯行に及んだ態様の悪質性
③動機が身勝手で酌むべき点が認められない
⇒被告人の刑事責任は誠に重大であるとし、被告人に科すべき刑は死刑または無期懲役刑。

◎本件が死刑を選択することがやむを得ない事案か?
被告人が犯行動機を形成するに至った過程に着目し、
①被告人は、もともと、複数のことが同時に処理できない、対人関係等の対応力に難がある、問題解決の視野が狭いといった自閉スペクトラム症の特性を有しており、患者の様子を観察して臨機応変な対応を行わなければならないという看護師に求められる資質に恵まれていなかったこと
②被告人自身、看護師の適性がないことは自覚していたが、聞かされていた勤務先病院の業務内容であれば、自分でも務まると考えて勤務を開始したところ、うつ病となり、退職を考えたものの、決断がつかないまま、仕事を続けたこと、
③そのような状況の中で、被告人は、ストレスを溜め込み、視野狭窄的心境に陥って、一時的な不安軽減を求めて担当する患者を消し去るほかないという短絡的な発想に至り、犯行を繰り返したこと
という動機の形成過程には、被告人の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、被告人のために酌むべき事情といえる
被告人の供述態度や被告人には前科前歴がなく、反社会的傾向も認められない
⇒更生可能性も認められ、死刑を科すことがやむを得ないとまではいえない。

⇒被告人を無期懲役に。

判例時報2532

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2022年12月15日 (木)

破棄判決の拘束力(米子ホテル強盗殺人第3次控訴審判決)

広島高裁松江支部R3.11.5

<事案>
強盗殺人の事案で、犯人性が争われた事案

<審理の経緯>


③最高裁第1時上告審
④広島高裁差戻審(第2次控訴審)
⑤鳥取地裁第2次一審

⑤についての控訴審。

<解説>
● 控訴の趣旨は、訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張。
前者:⑤判決が④判決の拘束力を認めたのは法令の解釈適用を誤っている
後者:被告人は本件公訴事実の犯人ではない
⑤判決が④判決に拘束されるとしたのは、
①判決が夕食終了時刻を午後9時26分頃と認定したことを④判決が否定した部分。

①判決:証拠評価を誤って夕食終了時刻を午後9時26分頃と認定したことにより、夕食を終えて事務室にいた被害者と被告人が鉢合わせをする形で出会ったため咄嗟に被害者を殺害してその後に金銭を奪ったとして殺人と窃盗を認定
④判決:この夕食終了時刻の認定を否定しひいて被害者のいる事務室に被告人が侵入したとの判断も否定(被告人が金品物色中に被害者が事務室に戻ったと認定)しており、⑤判決は、この消極的否定判断に拘束されかつ⑤における証拠調べの結果によってもその拘束力からの解放は生じないとした。

本判決:このような拘束力を認めた⑤判決の判断に誤りはないとした。

●破棄判決の拘束力について、最高裁:
破棄判決の拘束力は、法律上の判断だけでなく、事実上の判断についても生じるとし、
破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生ずるものであり、その消極的否定的判断を裏付ける積極的肯定的事実についての判断は、破棄の理由に対しては縁由的な関係に立つにとどまりなんらの拘束力を生ずるものではない」と判示しており、⑤判決及び本判決は、この判示の前段部分に従ったもの。
破棄判決の拘束力については、前記説示にかかわらず、「直接の破棄理由と不可分な関係ないし必然的な論理的前提の関係にある事項についての判断であれば、たとえ肯定的・積極的な形のものであっても、拘束力を排除する理由はない」とするのが通説的見解とされているが、裁判員裁判制度導入後のいても同様に考えてよいかは検討を要するところ。

判例時報2532

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村八分による国賠請求の事案

大分地裁中津支部R3.5.25

<事案>
Y2らについてXに対し市報を配布しないなどの村八分や各種嫌がらせ⇒Y2らに対しては民法719条1項に基づき、Y1に対しては国賠法1条1項若しくは国賠法3条1項又は民法715条1項に基づき、慰謝料等の連帯支払を求めた。

反訴:
Y2が、Xから不当な告訴を受けるなどの各種嫌がらせを受けたとして、Xに対し、民法709条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。

<判断>
● Xが、近くの田畑で農業に従事しながらa区内の実家で生活したり区長兼自治委員から市報等の配布・回覧を受けたりa自治区の構成員として会合や行事等に参加したりしていた
a区の住民やa自治区の構成員として平穏に生活する人格権ないし人格的利益を有していた。
but
Xを除きY2らを含むa自治区の構成員らは、Xがa区に住民票を有していない⇒Xをa自治区の構成員と認めず、共同してXと断交する旨の決議(「本件決議」)を行うとともに、Y2がY1に対し前自治委員としてa自治区の戸数が1戸減少した旨届け出たり、Y3が区長兼自治委員に就任してもXに対して市報等を配布・回覧せず、冠婚葬祭の連絡もしなかったり、a自治区の住民らがXと口をきかなくなったり、Y4が区長に就任してもXに対し市報等を配布・回覧しなかった。

Xを除いたa自治区の全構成員による本件決議やこれに沿った7年以上に及ぶ前記各言動は、前記人格権ないし人格的利益を継続的に侵害し、Xに大きな落ち度があるともいえない⇒社会通念上許される範囲を超えた「村八分」として、共同不法行為を構成。

Y2は、X所有の畑に通じる市道に赤い塗料で「私道」等と大書するとともに「進入禁止」と記載されたカラーコーン等を複数設置してXによる通行を妨げたり、前記畑上の柿の木を切るなどして枯らしたり、前記畑へ瓦れきを投棄したりしたと認定。
Y2による前記各行為は、Xが平穏に生活する人格権ないし人格的利益を侵害し、社会通念上許される範囲を超えた「嫌がらせ」として不法行為を構成。

● Xも、Y2等が本件決議を主導したとしてY2等を脅迫罪で告訴。
but
村八分は脅迫罪を構成し得る⇒合理的理由がある⇒本訴請求は権利の濫用でなく、Xは不法行為責任を負わない。

● Y1における自治委員や区長は、Y1から市政の周知や市報の配布、募金への協力等の事務を受託しており、これらの多くが本来Y1で行うべきもの
but
強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない
⇒国賠法上の公務員やY1の被用者に当たらない。

宇佐市自治会連合会も、同様の事務を受託しているものの、強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない⇒国賠法上の公共団体に当たらない。

Y1は国会賠償責任も使用者責任も負わず、
Y2らは前記村八分について共同不法行為責任を負い、
Y2は前記嫌がらせについて不法行為責任を負う。
村八分に対する慰謝料は100万円
嫌がらせに対する慰謝料は30万円
が相当。

<解説>
団体がその秩序を乱した構成員に対して行う共同断交の制裁であるいわゆる「村八分」は、人格権ないし人格的利益を侵害し、その程度が社会通念上許される範囲を超えた場合、共同不法行為を構成すると解されている。

国賠法1条1項の「公共団体」や「公務員」「公権力の行使」に当たる団体ないし個人のことをいい、ここにいう「公権力の行使」とは、本来は国又は公共団体でなければ行使し得ない権力的ないし強制的契機を含む事務を行うことを意味するものと解されている。
民法715条1項の「被用者」は、使用者から実質的な指揮監督を受けている者を意味するものと解されている。

本判決:
本件のY1における自治委員や区長、宇佐市自治回連合会がこれらの要件を満たさない⇒Y1の国賠責任や使用者責任を否定。

判例時報2532

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自動車事故⇒道路管理者である県の国賠法2条1項の責任(肯定事例)

神戸地裁R3.8.24

<事案>
Xは、本件事故について、Aとの間で締結していた人身傷害保障特約付きの自動車共済契約に基づき、Aの相続人に対して共済金を支払った。
Xは、本件事故は、本件水たまりの存在が原因で生じたものであり、本件水たまりが発生したのは、Yが設置管理する本件道路の排水設備の排水機能に不足があり、また、その排水設備に堆積した落ち葉等の除去をしていなかったことに原因がある
⇒AはY(兵庫県)に対し国賠法2条1項による損害賠償請求権を有するところ、XがAの相続人に前記共済金を支払ったことにより、Aの有する前記損害賠償請求権を共済金支払額の限度で代位取得した⇒Yに対し、損害金2419万5545円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

<Y主張>
争点1(本件道路の設置管理の瑕疵)について
ア:本件事故は、本件道路の制限速度である時速40キロを大幅に超える時速約65キロから約70キロで走行するというAの異常な用法により発生したもので、本件水たまりが存在していたことがその発生原因ではない
イ:本件水たまりの存在が事故原因としても、本件道路に設置されている排水設備の排水能力に問題はなく、また、Yは、本件道路について、道路管理パトロール要綱に基づき、1日1回巡回パトロールを行う等し、側溝や集水桝の落ち葉等の除去も行っていた⇒本件道路の設置又は管理に瑕疵はない。

争点2(過失相殺)
仮に、前記瑕疵があるとしても、Aには制限速度超過及びシートベルト不装着の過失があり、過失相殺がなされるべき。

<判断>
●本件道路の設置管理の瑕疵(争点1)
本件事故はA車両が本件水たまりを避けるように中央線寄りを進行し、左側タイヤのみが本件水たまり内に進む態様で走行したことによって不規旋転運動が生じる等して発生⇒A車両が制限速度を大きく超える高速で走行したことにより事故が発生したとのYの主張を排斥。
本件道路の排水設備の設置管理の状況:
本件水たまりの発生原因は、同排水設備に落ち葉等が堆積して、その排水機能が阻害されていたことにあるところ、同排水設備には周囲から落ち葉等が流入しやすい状況にあった
Yが、本件道路の排水設備を設置及び管理するに当たっては、本件道路の車線上に水たまりを商事させて車両の安全な運行を妨害しないようにするため、設置される排水設備が十分な排水能力を有するだけでなく、これに落ち葉等が堆積することによりその排水機能が阻害されないようにすることも求められ、特に、その排水構造に照らして、附近の川に接続される排水管の入り口部分の通水機能が阻害されないように留意する必要。

本件道路の排水設備の設計上の能力には問題がなく、その構造自体に不備があったとはいえないが、Yは、有蓋側溝の内部や前記排水管の入り口となる桝内に堆積している落ち葉等については、これらを定期的に除去してたとは認められず、また、前記排水管の入口部分に落ち葉等が流入して通水が阻害されることを防止する措置も講じていなかったところ、これらの措置が行われていれば、本件水たまりが発生することはなかった。

Yの本件道路の設置又は管理に瑕疵があると認めた。

● 過失相殺(争点2)
Aのシートベルト不装着について、過失割合を2割。

<解説>
国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵:
営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、
瑕疵の有無は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断される。
(判例)

本件:
・・具体的事情を考慮して、同設備に要求される設備及び管理の内容を示し、
本件においては、本件道路に設置される排水設備内の落ち葉等の除去や同設備への落ち葉等の流入防止措置が不十分⇒責任を肯定。

判例時報2532

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2022年12月11日 (日)

複合構造家屋の登録価格の決定の違法と国賠請求

東京地裁R3.3.26

<事案>
A所有の非木造家屋(複合構造家屋) (「本件家屋」)につきY(富山市)の市長が課してきた固定資産税に過納付が生じている⇒Aを相続したXらが、Yに対し、国賠法1条1項に基づき、過納金相当額等の損害賠償を求めた。

<評価>
地税法388条1項、403条1項
評価額=再建築価格(再建築費評点数)×損耗の状況による減点補正率×評点1点当たりの価額
複合建造家屋の主たる構造を基準を基準に基準表が適用されるが、その認定方法としては、①登記簿表題部方式、②低層階方式、③床面積割合方式等があり、全国的な取扱いが統一されていない。

<事案>
Y市長:昭和45年以降、登記簿表題部方式で鉄骨・鉄筋コンクリート造(SRC造)と認定。
Aを相続したXら:床面積割合方式⇒鉄骨作(S造)
⇒本件家屋の主たる構造が誤って認定されてきたことで生じた過納金を、過年度に遡及して返還するよう求めた⇒Yが拒絶⇒国賠請求。

<判断>
固定資産税の賦課処分の客観的違法性の判断基準(最高裁H25.7.12)を示し、国賠法上の違法性判断につき職務行為基準説が妥当するとした上で、
「Y市長による登録価格の決定が 客観的に違法であったとしても、当該登録価格が、価格決定当時の他の自治体の取扱いや裁判所の判断等諸般の事情を踏まえて合理性を否定し難い方法(すなわち、それを採用して登録価格を是正しても、当該市長の職務上の注意義務に違背したとまではいえない方法)により是正されたときの価格を上回らない場合には、職務上の注意義務に違背して納税者に損害を加えたとはいえず、また、Y市長において積極的に登録価格を改めない結果となる取扱いがされたとしても、国賠法上違法とはいえないものと解される」

一般的に合理性を有しない登記簿表題部方式に従った本件家屋の登録価格の決定は客観的には違法たり得るが、同登録価格は、合理性を否定し難い低層階方式により是正されたときの価格を上回らないため、Y市長が同登録価格を是正しなかったとしても、その職務上の注意義務に違反したとはいえない⇒Xらの請求を棄却。

<解説>
国賠法上の違法性について
A:結果不法か
B:行為不法(職務行為基準説)

本判決:
国賠法上の違法性判断につき職務行為基準説が妥当とする旨判示しつつも、
Y市長の職務上の注意義務違反の判断において、本件家屋の登録価格を是正しな取扱いが納税者に「損害」を加えたか否かを重要な考慮要素に位置付けた。
その上で、侵害行為がなかった場合の「原状」と侵害行為により発生した「現状」の差を損害とする差額説に依拠し、登記簿表題部方式を前提に算出された固定資産税(「現状」)と低層階方式を前提に算出された固定資産税(「原状」)との間に差がない⇒納税者には損害は生じていない。

床面積割合方式に従った本件家屋の登録価格の是正は、地税法432条に基づく審査の申出及び地税法434条に基づく抗告訴訟の提起に委ね
国賠法上の違法性判断においては、本件家屋の登録価格を是正しない取扱いにつき、これを正当化する合理的な理由があるかを審理判断すべきものとした。

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ひとり親障害者が障害基礎年金を受給⇒児童扶養手当の支給を停止された事案

京都地裁R3.4.16

<事案>
身体障害者のひとり親として4名の子を養育しているX(女性)が児童扶養手当を受給していたが、障害基礎年金と同年金の子加算を受給⇒児童扶養手当法13条の2第2項と児童扶養手当法施行令6条の4の定めにより、障害基礎年金の子加算分だけでなく本体部分についても併給調整の対象として児童扶養手当支給を停止する旨の併給調整規定が適用され、Xへの児童扶養手当の支給が停止
X:
①本件併給調整規定は、法13条の2第2項の委任の範囲を逸脱して違法であり無効
②本件併給調整規定は、憲法14条、25条及び国際人権規約に反して無効
⇒Y(京都府)に対して、児童扶養手当のうち障害基礎年金の子加算部分に相当する部分を除く支給停止処分の取消しを求めた。

<本判決>
●①について
児童扶養手当は、離婚等により稼得能力が低下した受給者に対してその所得を補うもの
障害基礎年金(本体部分)障害により稼得能力が低下(ないし喪失)したことに対し、所得補償の趣旨で給付されるもの
両者は稼得能力の低下等に対する所得補償の趣旨において基本的に同一の性質を有するもの
同一人に複数の稼得能力の喪失ないし低下をもたらう事由が生じた場合において、稼得能力の喪失ないし低下の程度が事由の数に比例するとは必ずしもいえない⇒児童扶養手当と障害基礎年金(本体部分)との間で併給調整を行うことに合理性がないとはいえない

X:障害のある母がひとりで児童の生計を維持している世帯(ひとり親世帯)については、本件併給調整規定により、児童扶養手当の全額が支給されないのに対し、
児童扶養手当の受給資格を有する母が障害のある配偶者(非受給配偶者)と共同して児童の生計を維持している世帯(ふたり親世帯)については、ふたり親併給調整規定により、児童扶養手当と障害基礎年金の子加算部分との差額部分が母に支給される扱いとなっており、法の許容しない不均衡が生じている。
vs.
・・・世帯の構成人数及び受給者が異なっている⇒両者を単純に比較して配偶者の有無による差別ないし不均衡があるなどとはいえない

●②について
Xの憲法25条の主張
vs.
憲法25条の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府ないしその委任を受けた行政庁の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみられるような場合を除き、同条に違反することはできない。
・・・・併給調整を行うかどうかは、立法府ないしその委任を受けた行政府の裁量の範囲に属する事柄とみるべきところ、本件併給調整規定による併給調整の内容、方法が著しく合理性を欠くとはいえない。

憲法14条違反との主張
vs.
X主張の差異が生じるとしてもこれをもって合理的理由のない不当な差別的扱いであるとはいえない。
本件併給調整規定がひとり親世帯とふたり親世帯につき合理的な理由なく不当に差別するものとはいえない⇒本件併給調整規定が国際人権規約に反するものではない。

<解説>
ひとり親に対する所得補償の児童扶養手当と、障害者であることに対する障害福祉年金の併給を禁止することに合理性が争われた堀木訴訟と類似する事案。

判例時報2532

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2022年12月10日 (土)

鉄道の自動改札機を利用したキセル乗車と電子計算機使用詐欺罪

名古屋高裁R2.11.5

<事案>
被告人は、乗車券を買ってA駅から入場し、その後乗り換えるなどしてB駅で下りたが、その際、別の磁気定期券(本件定期券)を自動改札機に投入して出場。

<争点>
本件自動改札機は出場の許否の判定において、入場情報が用いられることがなく、その具体的内容が読み取られることもない⇒本件定期券に入場情報が記録されていなくても、本件定期券が有効期間内であり、かつ、有効区間に出場駅が含まれている限り、出場が許される。
そのような場合に、電気計算機使用詐欺罪が成立するか?

<規定>
刑法 第二四六条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法 第二四六条の二(電子計算機使用詐欺)
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

<一審>
(1)刑法246条の2後段の「財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいう。
(2)本件自動改札機による磁気定期券の改札事務処理の対象となっていたのは、投入された磁気定期券が有効期間内であるか、磁気定期券の有効区間内に出場駅が含まれるかの2点のみであり、入場情報はその対象となっていない。⇒被告人が投入した本件定期券には真実に反する情報が含まれていたとは認められない。
⇒無罪

<判断>
本件自動改札機による事務処理システムが予定する事務処理の目的は、 乗車駅と下車駅の間の正規の運賃が支払われた正当な乗車か否かを判定して出場の許否を決することを指す(入場情報がこれに含まれることは自明である。)⇒事務処理の現状だけをもって目的が決まるわけではない。
電子計算機使用詐欺罪が、人を介した取引であれば詐欺罪に当たるような不正な行為であ、電子計算機によって機械的に処理されているものについて、これを取り締まる趣旨で創設されたもので、詐欺罪の補充規定⇒本罪の成立を認めた。
被告人が係員に本件定期券を示した場合には詐欺罪が成立するのは明らか⇒本件自動改札機に本件定期券を投入する行為を詐欺罪の補充規定である電子計算機使用詐欺罪で処罰することは、構成要件の外延を不明確にするものでも、処罰範囲を不当に拡大するものでもない。

<解説>
本件の場合、入場情報が出場の許否の判断に用いられていない⇒仮に、本件定期券に正しい入場情報が記録されていて、それを読み取ればキセル乗車であることが判明し、出場を許さないという場合であっても、本件自動改札機にあっては、出場を許すことにならざるを得ない。

本件定期券を本件自動改札機に投入したこと(=虚偽の情報提供)と、被告人が駅から出場できたこと(=財産権の得喪)との間の連関(因果関係)もないということになる。

有人改札の場合において、定期券の有効期間と有効区間を示し、さらに「有効区間外ですが、A駅からの乗車です。」と正直に告知しながら出場するような行為。

判例時報2529

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複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物分割と地方税法73条の7第2号

最高裁R4.3.22

<事案>
Xは、他の共有者と複数の不動産を共有していたところ、これを一括して分割の対象とする共有物の分割により、そのうちの一部の不動産につき、他の共有者の持分を取得して、これらを単独所有することになった。
前記の持分の取得(「本件各取得」)に対し不動産取得税の賦課決定処分を受けたXが、Y(東京都)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。
地税法73条の2第1項は、不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産の取得者に課する旨を規定し、地税法73条の7第2号の3(「本件規定」)は、共有物の分割による不動産の取得に対しては、その括弧書きに規定する「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分」(「持分超過部分」)の取得を除き、不動産取得税を課することができない旨を規定⇒Xは、本件各取得に対しては、本件規定により不動産取得税を課することができない旨を主張。

<原審>
本件規定にいう「共有物の分割」とは、土地については1筆の土地を対象とする共有物の分割をいい、数筆の土地を一括して分割の対象とする共有物の分割はこれに該当しない。
⇒Xの請求を棄却。

<判断>
複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割(「一括分割」)により不動産を取得した場合における持分超過部分の有無及び額については、分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきである。

<解説>
A:全体説
←本件規定にいう「共有物の分割」は民法の「共有物の分割」と同義であると解されるところ、民法において、1個の不動産を分割の対象とする共有物分割(個別分割)の場合と一括分割の場合とで異なる規律が予定されているわけではなく、両者を統一的に解釈するのが素直。

B:個別説(本判決)
持分超過部分の有無及び額については、一括分割の場合であっても、共有物の分割の対象とされた1個の不動産ごとに判断すべきものと解するのが、不動産取得税の課税の仕組みと整合的

不動産取得税に関する地税法の規定の内容等に照らせば、不動産取得税は、個々の不動産の取得ごとに課されるものであるということができる。
民法その他の法令において、「持分」ないし「持分の割合」とは、通常、個々の共有物ごとの持分の割合を意味し、複数の共有物全体における持分の割合を意味するとは解されない⇒本件規定の括弧書き中の「分割前の当該共有物に係る持分の割合」とは、取得された不動産に対応する分割前の1個の共有物に係る持分の割合をいうと解するのが自然

判例時報2532

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2022年12月 9日 (金)

ふるさと納税と地方交付法に基づく特別交付税減額の可否

大阪地裁R4.3.10

<事案>
総務大臣は、いわゆるふるさと納税に係る寄付金の収入見込額が一定額を超えた場合に特別交付税の額の減額項目とする旨を規定する「特別交付税に関する省令」の規定を適用して、原告(大阪府泉佐野市)の令和1年12月分及び令和2年3月分の特別交付税の額をそれぞれ決定。
本件各特例規定の適用を受け手特別交付税の額を減額された原告が、本件各特別規程は地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効⇒本件各特例規定に基づく本件各決定は違法⇒国を被告として、本件各決定の取消しを求めた。

地方交付税:地方団体(都道府県及び市町村)間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源として、国が地方団体に交付する税。

<争点>
本案前の争点:
①本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるか
②総務大臣が行う特別交付税の額の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか
③訴えの利益の有無
本案の想定:
④本件各特別規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効になるか」

<判断>
● 争点②:
地方交付税は、国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであって、国の地方団体に対する支出金の性質を持ち、また、その具体的な額は総務大臣が一定の算定方法等に従って決定を行うことによって確定すること等

地方団体は、 交付税法に基づく地方交付税の額を受けることにより、当該決定に係る地方交付税の額の交付を受ける具体的な権利ないし法律上の利益を取得する
⇒総務大臣が行う特別交付税の額の決定は、行政処分に当たる。

● 争点③:
被告:令和元年度の地方交付税の総額の上限は交付税法で定められており、本件各決定を取り消しても、当該上限を超えて原告の特別交付税の額を決定することは不可能⇒本件各決定を取り消すことにより原告に回復すべき法的利益は存在しない

本判決:
交付税法19条1項は普通交付税の額の算定に用いた数について錯誤を発見した場合、錯誤があったことを発見した年度又は翌年度等において地方交付税の額を調整する旨を定めている
翌年度以降において普通交付税又は特別交付税の算定において調整するなどして対応することがおよそ不可能とはいえないとして、被告の主張を斥けた。

● 争点④:
交付税法15条1項の法文の文理を見ると、
「基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定課題又は基準財政収入額の算定過少」という各事情があることを特別交付税の減額要因として総務省令(「特別交付税に関する省令」)に委任しているものと解するのが自然。
前記「基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる」とは、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に係る現実の収入額と基準財政収入額中の当該収入項目に係る基準税額とに差異が生じ、そのために基準税額の過少算定が生じていることをいうものと解するのが相当。

同項は、文理上、基準収入額の算定の基礎とならない収入項目に係る収入を特別交付税の減額要因となる事情として定めることにつき、総務省令に委任していると解することはできない。

本件各特例規定は、令和元年ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情と定めるところ、ふるさと納税寄付金収入は、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に当たらない(交付税法14条参照)⇒本件各特例規定は、法文の分離からは委任の範囲内の事項を定めるものということはできない。
交付税15条1項の委任の趣旨は、地方団体の実情に通じた総務大臣の専門技術的裁量に委ねるのが相当であり、かつ、状況の変化に応じた柔軟性を確保する必要があることから来るもの
but
ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情とするかどうかは、そういう専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄ではないし、柔軟性の確保が問題となるような事柄でもない

本件各特例規定は、交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱したものとして、違法・無効であり、本件各特例規定に基づく本件各決定はいずれも違法。

<解説>
●本件における争点
①本件はそもそも司法の場で解決されるべき「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるか、それとも本件は行政機関の内部の争いと捉えられるものであり、法律上特に定めがない以上、司法の場に持ち出すことはできないものではないか(行訴法6条、42条に規定する機関訴訟ではないか)

法律上の争訟に当たるとしても
②抗告訴訟(行訴法3条)のルートに乗るものか、
公法上の当事者訴訟(行訴法4条)という形式で争うべきか

③抗告訴訟に乗るとしても、訴えの利益があるといえるか(取消判決の効力(拘束力等)により紛争の解決が法的に図られるか)

④本件各規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものであるか

●処分性
◎ 法律上の争訟に当たる、すなわち最高裁昭和56.4.7等がいう当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることを肯定
⇒特別交付税額の決定は、地方公共団体に国に対する金銭債権を発生させるものであって、同決定は処分性がある。

取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(判例)。
特別交付税の額の決定は、総務大臣(国)が優越的地位に基づき地方公共団体に対して一方的に行うもの⇒公権力性は明らか。

本判決:
ア:国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであること、
イ:国の地方団体に対する支出金の性質を持つこと
ウ:その具体的な額は、総務大臣が一定の算出方法等に従った決定と行うことによって確定することとなること
⇒処分性を肯定。

ア~内部行為性を否定
ウ~本件の決定により正に権利義務が形成される

◎ アについては、独立の法人格を持つ相手方に対する行為であっても、実質的には行政組織の内部行為であると認められれば処分性は否定される(判例)。
but
本件の場面で地方公共団体を国の下級行政庁と捉え内部行為論を持ってくるのは無理。

◎ イについて、
国の地方公共団体に対する支出金をめぐる争いは、金銭債権に関わるものであり、「財産権の主体」相互間の争いであるとして法律上の争訟性を認める見解。
本件も、そのことを意識して支出金とういことを処分性を肯定する1つの論拠にしたもの?

裁判例:
国・地方公共団体間の補助金をめぐる訴訟である「摂津訴訟」の裁判例:
地方公共団体が国に対して保育所設置費負担金の超過負担分を請求(一種の公法上の当事者訴訟として提起)

第1審・控訴審:
保育所の設置費用の負担金の交付については、補助機等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく交付決定という行政処分を経る必要がある⇒地方公共団体の負担金支払請求を棄却。

補助金適正化法6条1項に基づく補助金の交付決定を抗告訴訟の対象となる行政処分と捉え、行政処分の取消訴訟の形でならば訴えで争うことを認めたもの。

●訴えの利益
◎ 最高裁R3.6.24:
処分を取り消す判決が確定した場合には、その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、処分をした行政庁は、その事件につき当該判決における主文が導きだされるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うことになるが、
上記拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではない
その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られる

◎ 特別交付税は、年度ごとに総額が決まる⇒令和元年度の特別交付税の総額も決まっているので、取消判決が出されたとして、判決の趣旨に従って原告の令和元年度の特別交付税を増額させるためには、行政庁(総務大臣)は他の地方団体へ交付済みの特別交付税を減額する決定をしなければならないが、これは何ら帰責事由のない原告以外の地方団体に対して不利益を与えるという授益的行政処分の撤回に当たり、不可能という議論があり得る。
他方で、原告に対する令和元年度の特別交付税の額の決定をし、翌年度以降に原告に対して交付する特別交付税又は普通交付税の額により調整することについては、その根拠となる規定が交付税法及び総務省令には存在しないのではないかという疑問。
本判決が引き合いに出す交付税法19条1項の規定は、普通交付税の算定の基礎に用いた数に錯誤があったことを発見した場合に関するもの。
仮に、その類推適用(準用)できないとすると、取消判決の拘束力による行政庁の義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られると解される
⇒本件訴訟は訴えの利益がない。
but
法律上の争訟性を肯定し、抗告訴訟で争うべきとしながら、訴えの利益はない
⇒残るは国賠請求訴訟という手段によることになって、落ち着きが悪い。

● 交付税法15条1項による委任の範囲
委任命令が授権法の委任の範囲を逸脱するかどうかが問題となった最高裁判決:
①授権既定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等
が考慮。
交付税法によると、そもそも地方交付税というのは、財政需要額が財政収入額を超える地方団体に対し、その超過額を補填することを目的として交付するもの(同法3条1項)。
・・・・
交付税法15条1項の眼目は、「普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる」か否かという点にある。

判例時報2532

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合意成立の見込みがない場合に団体交渉に応じることを命じる救済命令の可否

最高裁H4.3.18

<事案>
労働組合であるZ(上告補助参加人)から、使用者であるX(被上告人:国立大学法人)の団体交渉における対応が労組法7条2号の不当労働行為に該当する旨の申立てを受けた県労働委員会(処分行政庁)が、Xの団体交渉における対応が同号の不当労働行為に該当すると認め、Zの請求に係る救済の一部を認容する旨の命令(「本件命令」)⇒Xが、Y(上告人:県)を相手に、本件命令のうちの認容部分の取消しを求めた。

<規定等>
労組法7条は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉することを正当な理由がなく拒むこと(同条2号)等の不当労働行為をしてはならない旨を規定。
労働委員会は、使用者が同条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、遅滞なく調査を行うなどした上(労組法27条1項)、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令を発しなければならない(労組法27条の12)。

<原審>
Xの対応が不当労働行為に該当するか否かについては判断を示さずに、本件命令が発せられた同時、昇給の抑制や賃金の引き下げの実施から4年前後経過し、関係職員全員についてこれらを踏まえた法律関係が積み重ねられていた⇒その時点において本件各交渉事項につきXとZとが改めて団体交渉をしてもZにとって有意な合意を成立させることは事実上不可能。

仮にXに本件命令が指摘するような不当労働行為があったとしても、処分行政庁が本件各交渉事項についての更なる団体交渉をすることを命じたことはその裁量権の範囲を逸脱したもの⇒本件認容部分は違法であるとして、Xの請求を認容すべきものとした。

<判断>
使用者が誠実に団体交渉を応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には、当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても、労働委員会は、使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができる。
一定の内容の合意を成立させることが事実上不可能と認められることのみを理由に本件認容部分が違法なものであるとした原審の判断には違法がある。
⇒原判決を破棄し、不当労働行為該当性等につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。

<解説>
●団体交渉:労働組合又は労働者の集団が、代表者を通じて、使用者又は使用者団体と、構成員たる労働者の労働条件その他の待遇等について行う交渉。使用者は、団体交渉において譲歩や合意をすることは強制されないが、いわゆる義務的断交事項については、誠実に団体交渉に応ずべき義務(「誠実交渉義務」)を負い、この義務に反することは労組法7条2号の不当労働行為に該当

判例:
使用者の行為が不当労働行為に該当するか否かの判断について労働委員会に裁量は認められないとする一方、
不当労働行為が認められる場合における救済命令の内容の決定については労働委員会が広い裁量権を有し救済の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の前記裁量権を尊重し、その行使が、不当労働行為によって発生した侵害行為を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない

●本判決:
◎ 第二鳩タクシー事件判例を参照の上、使用者が誠実交渉義務を負い、これに違反することが労組法7条2号の不当労働行為に当たることを確認し、使用者が誠実交渉義務に違反している場合に誠実交渉命令を発することは、一般に、労働委員会の裁量権の行使として、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものではない
団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合であっても、使用者が誠実に団地交渉に応ずるに至れば、労働組合は使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、労働組合の交渉力の回復や労使間コミュニケーションの正常化が図られる⇒誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱するということはできない。

団体交渉が、合意形成のみならず労使間のコミュニケーションの手段等としての意義、機能を有するものであるとの理解(通説的理解)。

◎ 合意の成立する見込みがない場合であっても、誠実交渉命令が事実上又は法律上可能性のな事項を命ずるものとはいえない
行政処分である救済命令は、不能なものであってはならず、救済命令の内容が事実上又は法令上実現可能性のないものである場合には違法となると解される(注釈)。

労働委員会規則33条1項6号救済申立てを却下することができる場合の1つとして、「請求する救済の内容が、法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかであるとき」を掲げている
but
ここで相当されているは、既に存在しなくなった職場に復帰させることや、第2組合を解散させることといった、救済命令の内容(命ぜられる行為)自体が事実上又は法令上実現不可能な場合であるところ、仮に合意の成立する見込みがないとしても、使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らか。

侵害状態がある以上、救済の必要性がないということもできない
労働委員会が救済命令を発するためには、救済の必要性(救済利益)が存在することが必要であり(最高裁)、誠実交渉義務違反があっても、その後、例えば使用者が誠実な団体交渉に応じたような場合には、侵害状態が解消され、救済の必要性が失われたものとして、救済命令を発することができなくなる。
but
合意の成立する見込みが事後的に失われたというだけでは、誠実交渉義務違反による侵害状態が解消されたとはいえず、救済の必要性が失われたということはできない。

◎ ⇒使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には、当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても、労働委員会は誠実交渉命令を発することができると判断。

判例時報2532

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2022年12月 5日 (月)

数罪が科刑上一罪の関係にある場合において、罰金刑では軽い罪の方が重い場合

最高裁R2.10.1

<事案>
建造物侵入罪(刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)と
当時の埼玉県迷惑行為条例2条4項(盗撮)違反の罪(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
両者は牽連犯の関係にあって、刑法54条1項後段により科刑上一罪となる。
検察官:罰金40万円の科刑意見を付して略式命令を請求⇒さいたま簡裁は罰金10万円の略式命令⇒検察官が正式裁判を請求。

<争点>
各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照した際の重い刑及び軽い罰のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり、軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときに、罰金刑の多額は重い罪と軽い罪のいずれのものによるべきか?

<規定>
刑法 第五四条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

<1審・原審>
最高裁昭和23年判例の採用する重点的対象主義⇒本件の罰金の多額は重い建造物侵入罪のそれである10万円となるが、それを前提に検察官の求刑を踏まえると、罰金刑の選択は相当でない⇒被告人を懲役2月、3年間執行猶予。

被告人:上告し、原判決は、罰金刑の多額が10万円となるとした点ににおて、同種事案で罰金の多額は軽い罪のそれによるべきとした名古屋高裁金沢支部判決H26.3.18と相反し、本件での罰金の多額は埼玉県条例違反のそれである50万円となる。

<判断>
昭和23年判例は、本件のような罰金刑の多額についてまで判示するものではなく、軽い罪のそれによることを否定する趣旨とも解されない。
⇒昭和23年判例が重点的対照主義の形式的適用をいうものではない。

金沢支部判決は、最高裁の判例がない場合の控訴審裁判所たる高裁裁判所の判例(刑訴法405条3号)となる。

原判決は最高裁判所の判例がない場合の控訴裁判所たる高等裁判所の判例に相反したもので、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合であるとはいえないとして、原判決及び第1審判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻した。

<解説>
●最高裁昭和28.4.14:
重い罪には罰金刑の選択刑があるが、軽い罪にはないとうい事案で、
刑法54条1項が「最も重い刑」と定めているのは、数個の罪名中最も重い刑を定めている法条によって処断するという趣旨と共に、他の法条の再加減の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含む⇒この場合罰金刑を選択することはできない。

最高裁H19.12.3:
重い罪には罰金刑の選択刑がなく、軽い罪には罰金刑の任意的併科が定められている事案で、
刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み、重い罪の懲役刑に軽い罪の罰金刑を併科することができる。

いずれも昭和23年判例を変更するものではない⇒昭和23年判例が重点的対照主義の形式的適用をいうものではないという理解。

●本件:
建造物侵入罪の法定刑が「最も重い刑」といえないことは明らかであり、罰金の多額を50万円と解することが、数罪を包括的に「最も重い刑」で処断するという、刑法54条1項の趣旨及びその文言に合致。
本判決が、刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み、罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきとしたのは、このような理解に基づく。

判例時報2529
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株主権の確認・株主総会決議の不存在確認等

大阪高裁R3.7.30

<事案>
Y2株式会社(代表取締役Y1)は同族会社であり、X1はY1の長男、X2はY1の妻でありY2の株主。
Xらは、自分らに対する招集通知を欠いたままY2の臨時株主総会が開催され、X1が出席していないにもかかわらず出席して議案に賛成(ただしX1自身の取締役解任議案については反対)したという内容の株主総会議事録が作成された

①X1が、Y2及びその代表者で株主であることを争うY1に対し、Y2の株式30万株を有する株主であることの確認請求
②X2が、Yらに対し、Y2の株式20万株を有する株主であることの確認請求
③Xらが、Y2に対し、平成26年1月18日付け臨時株主総会における各決議が不存在であること
④X1がY1に対し、虚偽の内容の株主総会議事録を作成したことについて、不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の請求をした。

<原審>
請求①のうち、24万1818株の株主権の確認を求める部分に係る訴えを却下し、4万2071株の株主権の確認を求める部分の請求を認容し、1万6111株の株主権の確認を求める部分の請求を棄却。
請求②③を認容。
請求④を棄却。

<判断>
以下の通り判示して、控訴を棄却、附帯控訴を一部認容(請求④を除き、原判決の結論を維持)。
X2からX1への株式贈与契約書とY1からX1への株式贈与契約書は、いずれも公証人による確定日付印が押捺され、・・・Y1・X1間の贈与契約の成立について争いがない以上、X2名義の株式も同時に贈与された。
but
1万6111株についてはX1が受贈の意思表示をしたことについての具体的な主張立証がされていない⇒X1の主張する事情から直ちに贈与契約の成立を認定することはできない。
・・・前記新株発行にあたってX2名義で20万株に相当する8000万円の払込みがされたと認められるところ、前記新株発行がされた日に、X2名義の口座において1億6000万円の振替⇒その払込みがされたことを裏付ける。
Xらの包括的同意・個別同意を得たとの主張は認められない。
不法行為を肯定(後述)。

<解説>
●株主権は権利関係であるから、その所在・帰属は取得原因事実により立証
本件では、贈与が主張されており、間接事実によりそれを認定。
実務上、新株の引受けにおける名義借りのケースがしばしば争点になるが、
他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるとする実質説が判例。

実質上の引受人(株主)の認定には、
①株式資金の拠出者
②名義貸与者と借用者との関係、その間の合意内容、
③取得の目的、
④名義貸与者及び借用者と会社との関係
⑤名義借用の理由の合理性
⑥取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
⑦株主総会における議決権の行使状況
などの間接事実が重要。

●株主権の認定を前提⇒発行済株式数の約77.4%を保有する株主に対して招集通知がされていないことになる。
招集通知の漏れは、一般に決議取消事由になるが、瑕疵の程度が大きい場合には決議不存在事由となる(判例)。
排除された株式数が4割を超える⇒決議不存在
2割に満たない⇒決議取消事由
という目安。
本件で排除された株式数は総株主の7割を超える⇒総会決議不存在。

●不法行為:
原判決:
従前のY1の運営について、Y1の意思決定にXらが特に異議を差し挟んだことがこれまでになく、そのまま総会決議とされていた⇒X1の氏名の無断利用(人格権の侵害)に当たらない

本判決:
虚偽の株主総会議事録作成に加え、取締役解任登記をしたことがX1の社会的信用を低下⇒不法行為を構成。

判例時報2529

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「ぼてぢゅう」の文字を含む結合標章と「ぼてぢゅう」の商標との類似判断

東京地裁R4.3.18

<事案>
原告らが、被告による本判決別紙被告標章目録1記載の各標章を付した商品の製造販売行為は、本判決別紙商標権目録記載の本件商標1(ぼてぢゅう)に係る商標権を侵害し、また、被告標章1を付した被告商品①の製造販売行為が、同商標権目録記載の本件商標2(ぼてぢゅう総本店)に係る商標権を侵害

原告らが、被告に対し、被告各標章の使用の差止め及び被告各標章を付した商品の廃棄等を求め
原告東京フードが、被告に対し、選択的に商標法38条2項又は3項による損害金及び弁護士費用相当損害金の合計840万円及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求め、
原告BGHDが、被告に対し、選択的に同条2項又は3項による損害金及び弁護士費用相当損害金の合計240万円及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた。

<主たる争点>
本件商標1(ぼてぢゅう)と被告各標章又は被告標章Ⅰ~Ⅲとの類似性

<判断>
●類似性の判断基準
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、
①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合
それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合
③商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められない場合
などを除き許されない(判例)。

●当てはめ
被告標章Ⅰ及び被告標章Ⅲ:
被告標章Ⅰは、その構成中の「ぼてぢゅう」の文字部分を抽出し、この部分だけを本件商標1と比較して商標そのものの類否を判断することが許される⇒本件商標1と被告標章Ⅰは類似する。
この理は被告標章Ⅲにも妥当。

被告標章Ⅱ:
被告標章Ⅱのうち、少なくとも「総・ぼ・て」の3文字を含む上段図案と「ぼてぢゅう総本家」の8文字とを組み合わせた部分は、これらを分離して観察することが、取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合
本件商標1と被告標章Ⅱは、外観及び称呼において大きく異なる⇒類似しない。

<解説>
●結合標章の類似判断
おひなっこや事件判決:
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、
その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合(「第1要件」)や、
それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合(「第2要件」)、
「など」を除き許されない(判例)。

リラ宝塚事件判決:
簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標(「第3要件」)は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に呼称、観念され、1個の商標から2個以上の呼称、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところ。
この場合、1つの呼称、観念が他人の商標の呼称、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の呼称、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

●本判決の判断基準:
第1要件及び第2要件と第3要件は、文字通り異なる要件を言うものと解することを前提として、
分離観察可能な場合には、おひなっこや事件判決の第1要件と第2要件のほかにも、リラ宝塚事件判決の第3要件が含まれる。
おひなっこや事件判決は、本来一体性がある横文字1列の標章という当該事例に相応しい判断基準を示すものとして、「など」という余地を残したもの。

被告標章Ⅱのように、文字と図案からなる結合商標については、リラ宝塚事件判決の第3要件に基づき判断する方が、当該事案に適切な結論を導くことができる場合もある。

●本判決の当てはめ:
被告標章Ⅰ及び被告標章Ⅲについて、
上段部分は、下段部分の説明書きであると理解されている⇒出所識別力がなく、「ぼてぢゅう」が出所識別標識として強く支配的な印章を与える⇒「ぼてぢゅう」部分の分離観察を肯定し、類似性を肯定。

被告標章Ⅱ:
上段の図案が伝統的な屋号の紋を連想させるもの⇒出所識別力がある
下段は、上段の図案にある「総・ぼ・て」の意味を説明するの⇒上段と下段は配置上も意味上も密接に関連する。
被告標章Ⅱの使用は、被告にとっては、被告自身が有して長年使用を継続した被告保有商標を使用する趣旨をも一応含み得る。

「ぼてぢゅう」部分の分離観察を否定した上、類似性を否定。

判例時報2529

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2022年12月 3日 (土)

学校法人のハラスメント防止委員会の決定の取消対象・不法行為(いずれも否定)

札幌地裁R3.8.19

<事案>
学校法人Aが運営するC大学で外国語を担当していた元教授であるXが、本件大学のハラスメント防止委員会の委員であったY1~Y6に対し、本件委員会が本件大学の外国語(中国語)担当教員による会議における Xの発言について行った決定により名誉感情を侵害された。

①人格権に基づく妨害排除請求権に基づき、本件決定の取消しを求めるとともに、
②不法行為に基づく損害賠償として慰謝料160万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。

Xが、B教授(中国出身で日本に帰化していた本件大学の外国語(中国語)担当教員)に対し、
「私は先輩ですよ。」「あなたは何人ですか。中国人でしょ。」「Bは日本の文化を知らない。」などと発言したものであり、本件委員会は、Bからの当該発言についてのハラスメントの相談を受けて調査⇒本件発言につき、人権侵害のハラスメントであるなどと判断し、「Xに対して、学長より限りなく懲戒に近い口頭による厳重注意をするとともに、宣誓書を提出することを命じる」との措置をすることが適当である旨の決定をし、その旨を学長に報告。⇒Xは本件委員会規程に基づき、本件決定について不服申立て⇒不受理。
Xは本件法人を退職しており、在職中に本件決定に関する事項について懲戒処分又は本件決定記載の学長による厳重注意は行われていない。

<争点>
①本件決定の取消しの訴えの適法性
②本件決定の違法性及び不法行為該当性

<判断>
①について却下
②について棄却

<解説>
●争点①について
本判決:
本件決定は私人による事実行為に過ぎず、Xに対する具体的な権利義務を形成する法的効果を生ずるものではなく、取消権を認めるべき実体法上の根拠もない。
⇒訴えの利益を欠き不適法。

本件委員会規定:
本件委員会は、本件法人内部の機関として、ハラスメントの相談や苦情申立てを受け手対応措置及び処分について検討し、その結果を本件大学学長に報告するものであり、これに基づく処分等は本件大学学長が学内手続によって別途行うこととされている。

本件決定は、XとYらの間ではもちろん、Xと本件法人との雇用契約関係においても法的効果のない事実行為にすぎない。

本件決定は、XとYらの間ではもちろん、Xと本件法人との雇用契約関係においても法的効果のない事実行為にすぎない

本件決定によりXの名誉勘定が害されたとしても、それは過去の事実行為による事実上の不利益にすぎず、侵害行為が継続しているともいえない⇒その救済は不法行為に基づく損害賠償請求等により図られるべきであり、本件決定の取消しや無効確認について、訴えの利益を肯定することは困難。

学校法人の大学教授に対する懲戒処分としての戒告について、名誉感情の侵害などを理由に、当該処分の無効確認の利益を肯定した東京地裁R2.11.12等。
~懲戒処分の無効確認に関するもの。

●争点②について
名誉感情侵害の不法行為該当性に関する2件の最高裁判例(最高裁H17.11.10、H22.4.13)を引用し、
本件委員会規程上、本件委員会による決定にハラスメントの加害者への否定的評価が含まれ、これが加害者に通告されることは当然に想定されていることなども考慮した上で、
本件決定の具体的表現やその文脈全体を踏まえて検討し、本件決定は、Xの人格攻撃に及んだり、殊更に侮辱的表現を用いたりするものではなく、本件委員会の決定として想定される限度を超えてXの名誉勘定を傷つけるものとは認め難く、Xに対する非難や攻撃を意図して行われたものでもなく、本件発言をハラスメントに当たるとした判断に重大な誤りがあるともいえない

本件決定は社会生活上許される限度を超えた侮辱行為と評価することはできず、不法行為に該当しない。

判例時報2529

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生活協同組合連合会のLED蛍光灯導入について、信義則上の情報提供義務違反の過失が認められた事例

仙台高裁R3.3.25

<事案>
Xは、A生活協同組合連合会が3か年計画に基づきXの製造販売するLED蛍光灯約1万本を導入し、これをYから受注できるというXの信頼を前提に、Yが1本5700円という低額の単価で販売をXに承諾させた
but
連合会の3か年計画による役1万本のLED蛍光灯の導入計画が策定されず発注が確実でなくなったことが判明したのに、Xにその情報を提供しなかった契約締結上の過失(信義則上の情報提供義務違反)によって、YがXに契約を締結させたことが不法行為

導入場所ごとの販売数に応じた本来単価と実際の販売単価5700円との差額の合計額に消費税相当額を加えた額の損害賠償を請求。

<判断>
信義則上の情報提供義務違反の過失を認め、過失相殺をした上で、Xの請求を棄却した原判決を変更し、一部認容

Yの営業統括責任者は、Xが従来1200本の導入で1本6450円の価格を提示していたLED蛍光灯について、Xの担当者に対し、連合会が平成26年2月上旬から3か年計画による約1万本のLED蛍光灯の導入計画を立てる旨の説明⇒連合会の3か年計画による導入についての価格見積りとして1本5700円の価格を提示させながら、平成26年1月を過ぎても3か年計画を立てなかったのにXの担当者にその説明をせず、平成26年2月以降も1本5700円の価格でXに発注。

Yは、3か年計画が連合会において採用されず、1本5700円という価格を決定する際に前提としていた発注数量を確保することができないことが明らかになった場合には、Xが前記の価格を当然に維持するわけではないことを認識していたと考えられる⇒LED蛍光灯を継続的に発注することを前提に価格交渉をした取引上の信頼に応えるべく、発注を継続するに当たっては、3か年計画の採否に関する情報を速やかに提供すべき信義則上の義務を負っていた。

Yは、平成26年1月中には、連合会が3か年計画を採用しなかったことを認識していたにもかかわらず、そのことを説明しないまま、平成26年2月以降、LED蛍光灯を1本5700円という低価格で発注⇒信義則上の情報提供義務違反の過失が認められる。

過失相殺:
Xが連合会の3か年計画について十分な確認をしないまま2年以上も受注を続けていたことについては、取引当事者として確認不足であり、損害の発生、拡大についてはXにも過失がある。
3割の過失相殺をするのが相当。

損害:
3か年計画が採用されないという情報をYから提供されていた場合、Xは少なくとも1本6450円で納入していたと考えられ、相当単価6450円と実際の販売単価5700円の差額750円に消費税相当額を加えた額が、Yの情報提供義務違反の過失による不法行為によって生じた損害
⇒3割の過失相殺をした額の損害賠償請求権を有する。

<解説>
契約締結過程における情報提供義務:
フランスの判例・学説:
事業者と消費者の契約については、事業者に対し、相手方の契約締結の意思形成に影響を与える事実について広く情報提供義務を課している。

日本:契約締結上の過失の延長として論じられ、
裁判例では、宅地建物取引、フランチャイズ契約、金融取引などで信義則上の義務として認められ、義務違反に対する不法行為責任が認められてきた。

最高裁H24.11.27:
シンジケートローンへの参加につき、他の金融機関を招へいした金融機関が、債務者の信用にかかわる重大な新情報について、他の金融機関に情報を提供する義務があると判断された事例。

本件:
LED蛍光灯の製造販売という事業者間の取引であるが、大量調達を背景に強い価格交渉力を有する買い手が、反復継続して物品を購入するにあたり、価格交渉のために売り手に示した調達計画が頓挫した場合には、その情報を提供すべき信義則上の情報提供義務を負うと認めたもの。

判例時報2529

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地方公務員災害補償基金の支部審査会における参考人の陳述や参与の意見陳述についての審査記録に対する文書提出命令(肯定)

仙台高裁R3.5.31

<事案>
文書提出命令が申し立てられた文書:
消防事務組合(基本事件被告)において消防士として勤務していたA(Xらの子)が自死したことについて、Xらが、地方公務員災害補償基金宮城県支部長がした公務外認定処分の取消しを求めて、地方公務員災害補償法51条2項に基づき基金宮城県支部審査会に審査請求した事件において、支部審査会でされたXらを含む関係者らの口頭意見陳述等の審議の記録

基本事件:
Xらが消防士として勤務していたAは、消防事務組合の安全配慮義務違反により、うつ病エピソードを発病して自殺したと主張し、消防事務組合に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めた。
Xら:地方公務員災害補償基金の保有する情報の公開に関する規程4条に基づき、基金に前記記録の開示請求⇒基金は、「参与意見陳述等」と「参考人による意見陳述等」の部分をマスキングして記録を開示⇒Xらが文書の所持者である基金を相手方として、マスキング部分の文書の提出命令を求めた。

参考人による意見陳述等:
支部審査会が、審査請求の審議のために、地方公務員災害補償法60条1項に基づき、消防署におけるAの同僚の消防士に参考人として出頭を命じ、参考人が、Aの勤務状況についての認識を陳述し、審査会委員の質疑に応答した記録。

参与意見陳述等:
支部審査会が、事案の審理に当たり、地方公共団体の当局側を代表する者と職員側を代表する者で、あらかじめ参与に指名されていた者が意見を述べた部分

<原審>
①支部審査会の審議の記録は、専ら内部の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが本来的に想定されているものではなく、
②参与の意見陳述部分が開示されると支部審査会において参与の自由な意見の表明に支障を来たし、参考人の陳述部分が開示されると支部審査会に対する信頼が損なわれて以後同種災害における関係者からの協力を得られなくなり、
③いずれも開示によって団体としての自由な意思形成が阻害され、基金に看過し難い不利益が生ずるおそれがある

民訴法220条4号ニ本文が定める自己利用文書に該当。
⇒申立てを却下。

<判断>
マスキング部分は、文書の所持者である基金にとって、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であるとは認められない
民訴法220条4号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にはあたらず、基金は、その提出を拒むことはできない。

証拠調べの必要性は明らか
⇒原決定を取り消し、基金に対してマスキング部分の文書の提出を認めた。

支部審査会における参考人の陳述内容は、審査請求に対する裁決書の理由中に陳述要旨が記載されており、支部審査会が参与の意見を聴取するのは、審査の対象となった事案の具体的な実情に沿った適切妥当な判断を担保するため
このような作成目的と記載内容から判断して、支部審査会における参考人の陳述や参与の意見陳述についての審議記録は、審査請求に対する裁決の正当性を証するため、必要があるときには、基金がその審議経過を対外的に示すために審議記録を開示することが相当程度に想定される文書
審査請求に対する裁決の記録は、取消訴訟が提起されたときには、行訴法23条の2第2項1号に基づき、審査請求に係る事件の記録として、釈明処分により提出を求めることができる文書でもある。

<解説>
行訴法23条の2:
行政事件訴訟における裁判所の釈明処分の特則を定め、同条2項1号により、裁判所は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があった場合に、訴訟関係を明確にするため、必要があると認めるためは、被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であって当該行政庁が保有するものの全部または一部の提出を求めることができる

国民の権利・自由をより実効的に保障する観点から行政訴訟制度を見直す必要がある。
本決定は、審理の充実促進により国民の権利利益の実効的な救済を目指した司法制度改革の趣旨が、行訴法23条の2の釈明処分の特則の規定を通じ、民事訴訟一般の文書提出命令の規定の解釈も活かされる道筋を示した判断。

<規程>
行政事件訴訟法 第二三条の二(釈明処分の特則)
裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる。
一 被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(次項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること。
二 前号に規定する行政庁以外の行政庁に対し、同号に規定する資料であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託すること。

2裁判所は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があつたときは、次に掲げる処分をすることができる。
一 被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること。
二 前号に規定する行政庁以外の行政庁に対し、同号に規定する事件の記録であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託すること。

判例時報2529

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2022年12月 1日 (木)

傷害致死で無罪の事案(検察官立証に問題)

名古屋地裁R2.7.13

<事案>
被告人A及びBの、同居女性Vに対する傷害致死事件について、公訴事実記載の日の暴行における事実を認定できないとして共に無罪とされた事案。

<公訴事実>
被告人両名が、共謀の上、平成31年2月1日頃、A方において、Vに対し、その顔面を膝蹴りするなどの暴行を加えて硬膜下血腫、脳腫脹等の傷害を負わせ、同月2日頃、同傷害に基づく外傷性脳障害によって死亡させた。
暴行の日時について、2月1日午後9時2分頃から同日の終日までの間と釈明

<争点>
①共謀の有無
②暴行の有無
③死亡との因果関係の有無
②に関し、唯一の直接証拠であるBの公判供述の信用性が争われた。

<判断・解説>
●Bの公判供述の信用性
本判決:
2月1日夜の被告人両名による暴行に関するBの公判供述について
①重要な事実に関する供述の変遷(Bの刑責を軽減させようとしたと評価できるものを含む。)が見られる
②他の日のものをも含め暴行に関する供述は具体性や迫真性に問題がある
③Aがその頃Vのための行動をとっていることと整合しないこと
等看過できない疑問点がある。
Aの公判供述のうち同日の暴行を否定する部分を排斥できない

信用性には疑問が残る。

共犯者の供述については、いわゆる「巻き込みの危険」があるため、その信用性を慎重に吟味する必要がある。

●検察官の立証の失敗について
本判決:
①被告人両名がVに対して日常的に苛烈な暴行を加えていること
②Aが供述する態様での転倒だけで外傷性脳障害が生じるとは考え難い
Vは外出が最後に確認された1月28日以降に被告人両名らが加えた暴行により外傷性脳障害が生じて死亡したとみるのが自然。
but
検察官が訴因設定を含む公訴準備等に万全さを欠き、訴因として設定した2月1日夜の暴行の立証に失敗。

本件事案においては、暴行の日時、態様等を、訴因においてある程度概括的に示すことが考えられる。
犯罪の日時、場所及び方法は、本来の「罪となるべき事実」そのものではなく、訴因を特定する手段として位置付けられるものであり(最高裁昭和37.11.28)、
最高裁は、概括的な日時・場所・方法の判示が殺人罪の罪となるべき事実について不十分とはいえないとし(最高裁H13.4.11)、
暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的な傷害致死罪の訴因について特定に欠けるところはないとしている(最高裁H14.7.18)。

本件において、検察官が論告において追加的に主張したように、Vの外傷性脳障害が複数の機会に受けた暴行によって発生、悪化・拡大して死亡するに至ったとみた場合等は、
一連の暴行と傷害を包括して記載した訴因とすることが考えられる

最高裁H26.3.17:
暴力を通じて支配しあるいは服従させる状況にあった同一被害者に対し一定の期間内に反復累行された一連の暴行により傷害を負わせた事案について、全体を一体のものと評価して包括一罪と解し、一連の暴行と傷害を包括して記載した訴因について特定に欠けるところはないと判示。

●論告で初めてされた主張について
◎ 検察官は、論告に至って初めて、
死因・因果関係に関し、「2月1日の夜頃の被告人両名の暴行により外傷性脳障害が生じた又はそれを悪化させたと認められる」と主張した上、
予備的主張として、共謀が認められないとしても、同時傷害の特例により被告人両名に傷害致死罪が成立する旨、公判前整理手続ではあsれなかった主張をした。

本判決:
暴行を認定できないことを理由に無罪としたため訴訟手続上の問題は生じないとしつつ、半ば不意打ちを与えるような相当性を欠くものとの指摘を免れないと付言。

◎ 刑訴法上、公判前整理手続等終結後の新たな証拠調べ請求を制限する規定はある(刑訴法316条の32)、新たな主張や主張変更を制限する規定は設けられていない。
but
公判前整理手続を経たことも加味し、例外的に、公判段階で新たな主張等をすることが相当性を欠くとして、刑訴法295条1項により制限される場合はあり得る。
公判前整理手続終結後の公判期日おいて、新たな主張に沿ってされようとした被告人供述を同条項により制限できる場合についての一般的な考え方を示した最高裁H27.5.25が参考になる。

主張制限自体を扱った事案ではないが、実質的にそれに等しい効果を持つ訴訟行為の制限の可否が問題とされたものと位置付けることができるとする。

同時傷害の特例に関する刑法207条は、適用の前提として、検察官が、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること等を立証することを要する(最高裁H28.3.24)。

本判決が、同条の適否に当たって、少なくとも暴行の主体を特定した上で当事者に主張立証の機会を与える必要があると指摘。

判例時報2530

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控訴審で事実誤認を理由に破棄し完全責任能力を肯定⇒刑訴法400条ただし書違反とされた事案

最高裁R3.9.7

<事案>
被告人が、スーパーマーケットにおいて、食料品を窃取したという窃盗の事案であり、責任能力の程度が争われた。

<一審>
被告人が重症の窃盗症に罹患し、その影響により窃盗行為への衝動を抑える能力が著しく減退していた合理的疑いが残る⇒被告人は、本件犯行時、心神耗弱の状態にあったとして被告人を懲役4月に。

検察官控訴で、事実誤認を主張

<原判決>
被告人が、本件犯行時、窃盗症にり患していたとしても、犯行状況からは自己の行動を相当程度制御する能力を保持していたといえるのであり、行動制御能力が著しく減退してはいなかったといえる⇒被告人には完全責任能力が認められ、重症の窃盗症により心神耗弱にあったとした一審判決の認定は論理則・経験則等に照らして不合理

事実誤認を理由に第一審判決を破棄し、完全責任能力を認め、被告人を懲役10月に処した。

<判断>
弁護人の上告趣意のうち、最高裁昭和31.7.18等の判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余の上告趣意も刑訴法405条の上告理由に当たらない。
but
被告人は心神耗弱の状態にあったとした第1審判決を事実誤認を理由に破棄し何らの事実の取調べをすることなく完全責任能力を認めて自判した原判決は、刑訴法400条ただし書に違反
⇒刑訴法411条1号により職権で原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。

<規定>
刑訴法 第四〇〇条[破棄差戻移送・自判]
前二条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

<解説>
● 400条ただし書:
控訴審において事実の取調べをしたときには、その結果である証拠をも含めてという趣旨⇒自判の際に事実の取調べが必要であるとまでは解されていない。

いかなる場合に事実の取調べが必要であるかが問題。

控訴審が、自ら何ら事実の取調べをすることなく、第一審判決を破棄して被告人に不利益な自判をすることができるか?

かつての判例:
控訴審は、訴訟記録及び第1審裁判所で取り調べた証拠のみによって直ちに判決することができると認める場合には、常に自ら何ら事実の取調べをすることなく第1審判決を破棄して自判することができる。

最高裁昭和31.7.18(判例①):
判例を変更し、控訴審においても、被告人は憲法31条、憲法37条の保障する権利を有し、直接審理主義・口頭弁論主義の原則の適用を受ける⇒被告人は公開の法廷においてその面前で適法な証拠調べが行われ、これに対する意見弁解を述べる機会を与えられた上でなければ、犯罪事実を確定され有罪判決を受けることのない権利を有する。
最高裁昭和31.9.26(判例②)も同旨。
判例①~⑤

控訴審が、第1審判決を事実誤認を理由に破棄し新たな犯罪事実を認定して自判する場合には、事実の取調べを要する。
but
第1審判決の認定した事実を前提として量刑不当を理由にこれを破棄し量刑を重く変更する場合や、法令適用の誤りを理由に破棄し犯罪の成立を認める場合には、事実の取調べを要しないとするのが判例の趨勢。

● 本件は責任能力に関する事案であるという点で、判例①②④ないし⑥とは相違し、
無罪判決を破棄して有罪を言い渡したわけではないという点では判例③とも相違する。
⇒本判決が、判例①~⑥を引用して判例違反をいう論旨について、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でないとした。
第1審も原審も、本件を、刑法39条の法令の解釈適用の問題ではなく、責任能力の程度に関する事実認定の問題として捉え、判断していることは明らか。

判例①~⑥を通覧すれば、犯罪事実、言い換えれば構成要件に該当する違法・有責な事実を控訴審において新たに認定する場合には、事実の取調べが必要であるとする方向性が自然。

被告人が心神耗弱の状態にあったとする第1審判決の事実認定を誤りであるとしてこれを破棄し、控訴審において完全責任能力を認定⇒刑訴法400条ただし書の解釈として、控訴審が自判するに当たっては事実の取調べが必要。

● いかなる事実の取調べが行われる必要があるか?
「事件の核心」等について事実の取調べをする必要があるとするのが判例。

判例時報2530

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臓器移植手術のテレビ番組と遺族の敬愛・追慕の情の侵害(否定)

広島地裁R3.7.28

<事案>
臓器の移植に関する法律に基づき実子Aの臓器提供をしたXらが、Aの臓器をレシピエントに移植する手術をY1(テレビ局)が取材して制作したテレビ番組を放送したことにつき、執刀医の不適切な発言をそのまま放送し、レシピエントの母親からのサンクスレターをXらの許可なく内容が読み取れる形で放送し、Aの臓器にモザイク処理をせず放送したことなどにより、Xらの故人に対する敬愛・追慕の情及びプライバシー権が侵害された

Y1(テレビ局)、Y2(番組編成担当者)、Y4(大学病院に勤務する医師で本件臓器移植手術の執刀医)、Y3(Y4の使用者である国立大学法人)に対し、不法行為ないし使用者責任に基づき、損害賠償を求めるとともに、
臓器の斡旋に関与したY5(公益社団法人日本臓器移植ネットワーク(JOT))に対し、民事仲立契約類似の準委任契約上の善管注意義務違反があるとして債務不履行による損害賠償を求めた。

<主たる争点>
①本件番組の全国放送によりXらの権利又は法律上保護された利益(Xらの故人に対する遺族の敬愛・追慕の情、Xら自身のプライバシー権)が違法に侵害されたか
②Y2(テレビ局)又はY2(番組編成担当者)とY4(執刀医)又はY3(国立大学法人)との間の共同不法行為の成否
③Y5(JOT)とXらとの間の黙示の準委任契約の成否
④Y5(JOT)に同契約に基づく善管注意義務があるか

<判断・解説>
● 争点①について:
故人に対する敬愛・追慕の情につき、一種の人格的利益として保護されるべきもの
but
テレビ放送の自由は表現の自由にかかわるものであり、これを不当に制約することがないようにする必要がある

テレビ放送の内容に遺族の個々の平穏をかき乱すようなものが含まれるとしても直ちに管理・利益の侵害に当たり私法上違法なものと評価すべきでなく、
故人の名誉を毀損し、あるいは故人の尊厳を侵害するような態様で遺体の一部である臓器をみだりに公開するなどした場合に、当該放送行為の目的や内容、故人が他界してからの時の経過、遺族の故人との関係性や遺族が受けた影響等を総合的に考慮し、
社会通念に照らし、それが遺族の受忍限度を超えるものと判断されるときに、初めて遺族の敬愛・追慕の情の侵害として不法行為などの問題を生じることがあり得る。

故人に対する敬愛・追慕の情が一種の人格的利益として保護されるものとした裁判例:東京高裁昭和54.3.14
故人に対する敬愛・追慕の情の侵害が問題となった裁判例は多数ある。
but
そのほとんどは、死者に対する名誉毀損が問題となる事例。

● 本判決:
一種の人格的利益として保護される遺族の故人に対する敬愛・追慕の情とテレビ放送の自由とを比較衡量するに当たり、
臓器移植手術の放送における臓器の公開という本件事案に即して考慮要素を検討し、不法行為の成否を判断。

本判決が示した考慮要素のうち、当該放送行為の内容を検討するに当たっては、
一般視聴者の注意と視聴の仕方を基準として、その番組の全体的な構成、発言内容、表示された文字情報の内容を重視し、映像及び音声に係る情報の内容並びにホウ素内容全体から受ける印象を総合的に判断(最高裁H15.10.16参照)。

● Aの臓器の映像にモザイク処理をせず放送したことについて:
臓器移植制度や酸先端の移植医療現場の実態について一般視聴者の理解を深め、その高い関心に応えるという本件番組の目的等に照らせば移植される臓器の映像にモザイク加工をすることなくありのままを放送することに相応の社会的意義があり、死者を冒涜するような態様で臓器を映し出したものはない。

Y4(執刀医)の発言について:
Aを貶めるようなものではない。

●Xら自身のプライバシー権の侵害の有無:
①本件番組内でドナーについて公開された情報は、Xらの了承の下、Y5(JOT)による会見で公開された情報に限られていたことやその内容⇒ドナーがXらの子であることを特定できないとして、プライバシー権の侵害はない。

判例時報2530

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