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2022年11月25日 (金)

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律19条1項の憲法22条1項適合性

最高裁R4.2.7

<事案>
専門学校を設置するXが、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に基づき、あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設で視覚障碍者以外の者と養成するものについての法2条1項の認定を申請⇒法19条1項の規定により前記認定をしない処分⇒本件規定は憲法22条1項等に違反して向こうであると主張して、Y(国)を相手に、本件処分の取消しを求めた。

<規定>
第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
第二条 免許は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条第一項の規定により大学に入学することのできる者(この項の規定により文部科学大臣の認定した学校が大学である場合において、当該大学が同条第二項の規定により当該大学に入学させた者を含む。)で、三年以上、文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣の認定した学校又は次の各号に掲げる者の認定した当該各号に定める養成施設において解剖学、生理学、病理学、衛生学その他あん摩マツサージ指圧師、はり師又はきゆう師となるのに必要な知識及び技能を修得したものであつて、厚生労働大臣の行うあん摩マツサージ指圧師国家試験、はり師国家試験又はきゆう師国家試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して、厚生労働大臣が、これを与える。
第十九条 当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。

<訴訟の経緯等>
本件規定は、法の下での学校及び養成施設の位置付けに照らせば、あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものの設置及びその生徒の定員の増加について、許可制の性質を有する規制を定め、直接的には、当該養成施設等の設置者の職業の自由を、間接的には、当該養成施設等において教育又は養成を受けることにより、免許を受けてあん摩、マッサージ又は指圧を業としようとする視覚障害者以外の者の職業の自由を、それぞれ制限。

一審・原審:本件規定は同項に違反するものではなく、本件処分は適法。

判断:本件規定は同項に違反しない旨の判断を示し、上告棄却。

<規定>
憲法 第二二条[居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由]
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

<解説>
憲法22条1項につき、狭義における職業選択の自由のみならず、営業の自由ないし職業活動の自由の保障をも包含(判例)。

規制措置の憲法22条1項適合性:

薬事法距離制限事件判決:
これらの規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定
右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務
⇒裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的最良の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべき。
but
右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべき

●一般に許可制は、職業の自由に対する強力な制限その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する(判例)。

本判決:
立法府の合理的裁量の範囲の広狭につき、
本件規定は、障害のために従事し得る職業が限られるなどして経済的弱者の立場にある視覚障碍がある者を保護するという目的のため、あん摩マッサージ指圧師について、視覚障碍者の職域を確保するための規制を行うものといえる。
このような規制措置については、対象となる社会経済等の実態についての正確な基礎資料を収集した上、多方面にわたりかつ相互に関連する諸条件について、将来予測を含む専門的、技術的な評価を加え、これに基づき、社会福祉、社会経済、国家財政等の国政全般からの総合的な政策判断を行うことを必要とする⇒その必要性及び合理性については、立法府の政策的、技術的な判断に委ねるべきものであり、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重すべき。

本件規定による具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らし、立法府の最良の範囲が広いと解したもの。

本件規定については、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であることが明白な場合でない限り、憲法22条1項の規定に違反するものということはできない。
職業の自由に対する規制の合憲性の審査については、学説上、判例は規制目的二分論をとるとする理解がある。
積極目的規制⇒広い立法裁量を前提に明白の原則により緩やかな審査
消極目的規制⇒厳格な合理性の基準等により厳格に審査
but
本判決は、本件規定による具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、立法府の最良の範囲の広狭を検討した結果として「著しく不合理であることが明白」との判断基準

●当てはめについて
・・・・・視覚障害がある者の保護という重要な公共の利益のため、視覚障害者の職域を確保すべく、視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増加を抑制する必要があるとすることをもって、不合理であるということはできない。
本件規定は、前記抑制ための手段として相応の合理性を有する以上、養成施設等の設置又はその生徒の定員の増加を全面的に禁止するものではないこと、あん摩、マッサージ又は指圧を業としようとする視覚障害者以外の者は既存の養成施設等において教育又は養成を受ければ免許を受けられる本件規定による職業の事由に対する制限の程度は、限定的なものにとどまる。

本件規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるということはできない。
⇒本件規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。

●本件は本件処分の取消し訴訟であり、本件処分の適法性が判断の対象
⇒問題となるのは、本件処分の根拠である本件規定が本件処分時において有効であったかどうか
本件規定に係る立法事実(立法の必要性、合理性を支える社会的、経済的な事実)につき、ある程度具体的な検討を加えている。

本件規定は「当分の間」の措置を講ずる規定であり、将来的な改廃が予定されていたものと解されるところ、その制定から本件処分時までに既に50年以上が経過しているため、その制定時の事情を基礎とする理念的な説明のみでは、本件処分時において前記判断基準を充たすと直ちに判断することはできず、その制定後に生じた事情の変化の有無、程度等も考慮に入れて、本件処分時においてもなお規制を維持する必要性及び合理性があるかという観点からの検討をする必要があった。

判例時報2529

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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