法務大臣等が出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決を撤回せず、在留特別許可をしなかったことが、その裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用したものであるとされた事例
東京地裁R3.11.24
<事案>
スリランカ民主社会主義共和国の国籍を有するX1、モンゴル国の国籍を有するX2、並びにスリランカ及びモンゴルの国籍を有する両名の3人の子(長女X3、二女X4、三女X5)は、入国審査官から、入管法24条4号ロ又は同条7号にそれぞれ該当する旨の認定を受けた後、特別審理官から、同認定に誤りがない旨の判定を受けた⇒入管法49条1項に基づき、法務大臣に対して異議の申出⇒法務大臣等から、同異議の申出に理由がない旨の裁決⇒Xらは、本件裁決等の取消訴訟を提起⇒請求棄却で確定。
Xらが、本件裁決後の事情を考慮すれば、本件裁決は撤回されるべきであり、Xらについては在留特別許可がされるべき⇒法務大臣等に対する本件裁決の撤回及び在留特別許可の義務付け等を求めた。
<主たる争点>
本件裁決後、相当長期間にわたって違法な在留を継続してきた結果、事実上、日本社会との定着の程度を強めてきたXら一家について、本件裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となり、いわゆる非申請型の義務付け訴訟(行訴法3条6項1号)の本案要件(行訴法37条の2第5項)を満たすことになるか。
<判断>
● X3及びX4についてのみ、本件裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になると判断。
①在留特別許可をするか否かの判断は、法務大臣等の広範な裁量に委ねられている
②入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決がされた後、当該裁決後の事情を理由として裁決を撤回するか否かの判断は、適法にされた裁決をその後に生じた事情により将来に向かって撤回するという行為の性質⇒在留特別許可をするか否かの判断よりも更に広範な法務大臣等の裁量に委ねられている。
⇒
法務大臣等が入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がないとした裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと評価されるのは、当該裁決後に生じた事情を基礎として、当該外国人の本邦に在留する利益の要保護性の程度に顕著な事実の変化が生じたため、法務大臣等において当該裁決をした判断を維持することが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとなるに至った場合に限られる。
● X3~X5について検討:
①本件裁決後、X3(本件裁決時7歳、口頭弁論終結時18歳(大学1年生))及びX4(本件裁決時5歳、口頭弁論終結時17歳(高校2年生))は、本邦において義務教育の過程を終了し、高等教育を受け、将来、本邦において生活していく意向を固めるに至っており、X5(本件裁決時2歳、口頭弁論終結時13歳(中学2年生))も義務教育の大半を既に修了するに至っているところ、・・・社会的な生活基盤を形成し、本邦への定着の程度を強めてきた。
②・・・X3~X5は、本件裁決後、本邦への定着の程度を有意義に強めてきた。
but
上記事情の変化は、X3~X5が本邦における違法な在留を継続した結果
⇒これをもって直ちに顕著な事情の変化が生じたと評価することはできない。
●
①X3~X5に対し、本件裁決後、自発的にX1及びX2の監護下から離れて本邦から出国することを期待することは非現実的
②X1及びX2において、あえて法令を遵守せずに違法な在留を継続させてきたことが、X3~X5の在留が違法と評価される根本的な原因である
⇒
X3~X5の在留の利益がそうしたX1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自律した個人の利益として評価することができるに至った場合には、それ以降のX3~X5の在留の利益は、従前のそれとは質的に異なる側面を有するものとして、従前の在留の違法性ゆえにその要保護性を大幅に減じられることはない。
X3及びX4は、年齢その他の事情に照らすと、親元を離れて本邦において自律的な社会生活を送ることを期待することができる⇒X3及びX4の在留の利益は、X1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自立した個人の利益と評価することができるに至った。
but
X5は、いまだ義務教育のの過程を修了しておらず、その年齢等からして、親元を離れて生活することが困難⇒X5の在留の利益は、いまだX1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自立した個人の在留の利益と評価することができるに至ったとはいえない。
⇒X3及びX4についてのみ、法務大臣等において本件裁決をした判断を維持することが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとなるに至ったということができる。
<解説>
外国人一家が相当長期間にわたって違法な在留を継続する中で本邦への定着の程度を強めてきた事案において、違法な在留の継続に直接の帰責性のない子らのうち、年長の子らについてのみ、結果として、裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になると判断したもの。
判例時報2527
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