裁決後の事情を理由とする当該裁決の撤回の義務付けを求める訴えの事案
東京高裁R3.7.15
<事案>
(1)中国籍を有する外国人女性であるXは、・・在留資格を「日本人の配偶者等」とし、在留期間を1年とする上陸許可を受けて本法に上陸。
(2)Xの姪に在留資格を得させるために他者と共謀して虚偽の婚姻届けを提出⇒でき電磁的公正証書原本不実記録等の罪で有罪判決⇒H23.7.13に確定。
(3)Xは、入管法24条4号ロ(不法残留)に該当する旨の認定及びこれに誤りがない旨の判定⇒入管法29条1項に基づく異議の申し出⇒東京入国管理局長から異議の申出は理由がない旨の裁決(「本件裁決」)・東京入管主任審査官から、同条6項に基づき、退去強制令書の発付処分(「本件退去処分」)
(4)本件裁決及び本件退去処分の取消しを求める訴えを東京地裁に提起⇒請求棄却⇒確定
(5)Xは、平成24年3月28日から仮放免されており、本法に在留。
(6)Xが、本件裁決後の事情を理由として、Y(国)に対し、本件裁決の撤回の義務付けを求めるとともに、入管法50条1項の在留特別許可の義務付けを求める。
<判断>
(1)本件各訴えによってXが求める裁決の撤回及び在留特別許可の各処分は、いずれもその申請権が法令上規定されていない⇒本件各訴えは、いずれもいわゆる非申請型の義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)に当たる。
(2)本件各訴えについて、本件撤回義務付けの訴えは、本件裁決の撤回がされないことによってXに「重大な損害を生ずるおそれ」(行訴法37条の2第1項)があるとは認められない⇒その訴訟要件を欠く。
(3)本件在特義務付けの訴えは、法務大臣等がXに対し在留特別許可をする法令上の権限を有しないにもかかわらず、その処分の義務付けを求めるもの。
⇒
いずれも不適法な訴え⇒控訴を棄却。
<解説>
●非申請型の義務付けの訴え
行政庁がその処分をすべきであることが、その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき(行訴法37条の2第5項)であることが必要であるが、
その前提として
①当該処分を行う権限が行政庁にあること
②原告において、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有すること(同条3項)
③一定の処分がされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」があり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができるものとされている(同条1項)
③の損害の重大性の要件は、非申請型の義務付けの訴えに固有の要件であり、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。
●「重大な損害を生ずるおそれ」の有無
いったん適法にされた行政処分も、その後の事情の変更によって、公益に適合しなくなったときは、将来に向かってこれを撤回又は変更することが許される(最高裁)。
⇒いったん適法とされた行政処分について、その撤回等を求める訴えを提起することが可能でないとはいえない。
⇒本件撤回義務付けの訴えにおいて、Xには②の法律上の利益を認めることができる。
本判決:
訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たっては、当該裁決後に新たに生じた事情を基礎として検討すべきもので、
結果的に、Xが主張する各事情は、本件裁決後に生じた事情に当たらないと判断。
●本件在特義務付けの訴えにおける訴訟要件の有無について
非申請型の義務付けの訴えは、当該処分を行う権限が行政庁にあること(要件①)が必要。
本件在特義務付けの訴えについてはは、既に法務大臣による本件裁決が存在。
本判決:
本件在特義務付けの訴えは、本件裁決が無効であるか又は取消し若しくは撤回がされたことを条件として新たな在留特別許可の処分の義務付けを求めるもの。
⇒本件裁決の効力が失われない限り、法務大臣等がXについて在留特別許可をする法令上の権限を有しない。
←そう解しないと、相反する行政処分が併存することになってしまう。
判例時報2526
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