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2022年10月27日 (木)

消費税法の課税仕入れの用途区分についての解釈が問題となった事案

東京高裁R3.7.29

<事案>
被控訴人が、平成27年3月期から平成29年3月期までの各課税期間(本件各課税期間)における各確定申告において、将来の転売を目的として購入したマンション84棟(本件マンション)に係る課税仕入れ(本件各課税仕入れ)を消費税法30条2項1号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(課税対応課税仕入れ)に区分されるものとして、本件各課税仕入れに係る消費税額から控除して申告⇒処分行政庁から、本件各課税仕入れは同号にいう「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(共通対応課税仕入れ)に区分されるべき⇒本件各課税仕入れにかかる消費税額の一部しか控除することができない⇒本件各課税期間に係る消費税及び地方消費税(消費税等)の各更正処分(本件各更正処分)並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)を受けた

本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに区分すべきものであると主張して、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた。

<解説>
●仕入れ税額控除制度の仕組み
消費税:土地の譲渡及び貸付けや住宅の貸付けなどの一部の取引を除き、ほとんど全ての国内における取引を課税対象とするもの。
消費税の課税対象となる取引はいわゆる最終消費者に物品やサービスが購入される前の生産や流通等の各段階に及ぶ⇒消費税の納税義務者は、各段階において取引を行う各事業者とされ(消費税5条)、最終消費者は、これらの事業者が生産や流通等の各段階で物品やサービスの価格に順次転嫁されていった消費税等の額を最終的に負担。

消費税額については、納税義務者である事業者が国内において課税仕入れを行った場合、生産や流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することのないように、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れにかかる消費税額を控除(消費税法30条1項)。

税負担の累積が生じない課税仕入れに係る消費税額は控除の必要がないことになる。
but
課税期間における売上高が5億円以下で、かつ、当該課税期間における課税売上割合が95パーセント以上である場合には、課税仕入れに対応する売上に係る取引がその他の資産の譲渡等に当たるか否かを問うことなく、当該課税期間中の課税仕入れに係る消費税額の全額の控除が認められている(同条2項、6項)。
他方、当該課税期間における課税売上高>5億円又は当該課税期間における課税売上高割合<95%の場合、同条2項1号に規定する個別対応方式又は同項2号に規定する一括比例配分方式のいずれかの方法により控除対象仕入税額を計算。
そのうち個別対応方式は、事業者が当該課税期間中に国内において行った課税仕入れを、
①課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税対応課税仕入れ)
②その他の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税対応課税仕入れ)
③課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(共通対応課税仕入れ)
の3つに区分し、そのうち
①の課税対応課税仕入れにかかる消費税の全額と、③の共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額の合計額を控除対象仕入税額とする方式をいう(同条2項1号)。

<争点>
申告の対象となった被控訴人の事業:
富裕層の個人投資家を主な顧客とする販売事業であって、賃貸収益を上げることのできる収益不動産(中古の賃貸用マンション等)を仕入れ、その資産価値及び収益力を控除させるバリューアップ(物件に改良工事を施す「リノベーション」、物件を良好な状態に管理する「マネジメント」、物件を適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らす「リーシング」等)を行った上で、当該収益不動産を顧客に転売するというもので、
本件各マンションの各仕入日において、将来、住宅の貸付けによる賃料収入という非課税売上げが見込まれるとともに、本件各マンションの売却による課税仕入れも見込まれるもの。
①将来の転売を目的として購入した本件各マンションに係る本件各課税仕入れが消費税法30条2項1号にいう課税対応課税仕入れ及び共通対応課税仕入れのいずれに区分されるか
⇒共通対応課税仕入れに区分されるとした場合
②処分行政庁が行った本件各更正処分が平等取扱原則に違反するか
③本件各課税課税仕入れを課税対応課税仕入れに当たるとして確定申告をした被控訴人に、税通法65条4項にいう「正当な理由」があるといえるか

<原審>
・・・・本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに区分するのが相当⇒本件各課税仕入れに係る消費税額の全額が控除対象仕入税額になる⇒請求を全部認容。

<判断>
●争点①について
消費税法30条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、
課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、
非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売り上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、
当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上を生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当。

本件各課税仕入れは、仮に本件各マンションの販売を主眼として行われたもので、本件各マンションの賃貸はその販売の手段として行われたものであるとしても、厳にその賃貸によって相当額の賃料収入が得られ、その中に非課税売り上げに区分される賃料収入が相当程度において認められ、将来課税売上げを生ずる取引に加え非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入であると認められる。

個別対応方式が定められた趣旨等に照らし、共通対応課税仕入れに区分するのが相当


争点②:本件各更正処分が平等取扱原則に違反するものではない
争点③:被控訴人は、税通法65条4項にいう「正当な理由」があるといはいえない。

本件各賦課決定処分は適法。

<解説>
令和2年度の税制改正:
居住用賃貸建物の取得等に係る仕入れ税額控除制度等の適正化を図るための令和2年法律第8号による消費税法の改正

同改正後の消費税法においては、課税仕入れの時点で住宅の貸付けの用に供するか否かが不明な建物についても、住宅の貸付けの用に供する可能性のある物については、原則として居住用賃貸建物に該当することとなって、仕入れ税額控除の対象から外され、当該建物が所定の期間内に住宅の貸付け以外の貸付けのように供した場合であって、その居住用賃貸建物を第3年度の課税期間の末日に有している場合や、その全部又は一部を居住用賃貸建物の仕入れ等の日から同日の属する課税期間の初日以降3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に、他の者に譲渡した場合に限り、一定の額につき仕入税額控除が認められることになった。

判例時報2527

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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