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2022年10月23日 (日)

違法収集証拠を否定した原審に法令の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

最高裁R3.7.30

<事案>
覚せい剤自己使用・所持で起訴された事案。
警察官は、職務質問を行うために被告に被告人運転車両を停止⇒本件車両運転席ドアポケットに中身の入っていあにチャック付きビニール袋の束が入っていることが確認された旨の疎明資料を作成して本件車両に対する捜索差押許可状及び強制採尿令状を請求して本件各令状の発付を受け、本件車両内から覚せい剤等の違法薬物を差し押さえ、尿の任意提出を受けた。

<争点>
本件薬物並びに本件薬物及び被告人の尿に関する各鑑定書の証拠能力。

<1審>
本件ビニール袋がもともと本件車両内になかった疑いは払拭できない⇒警察官が、本件ビニール袋は本件車両内にもともとなかったにもかかわらず、これがあることが確認された旨の疎明資料を作成して本件各令状を請求した事実があった。
⇒本件各証拠の収集手続には重大な違法があると判断してその証拠能力を否定
⇒覚せい剤の自己使用及び本件薬物の所持について無罪を言い渡した。

<原審>
違法収集証拠排除法則を認めた最高裁を引用した上で、
同法則を判断する裁判所において、その他の面では証拠能力を有する又は有しうる証拠について、将来における違法な捜査の抑制といういわば法政策的な見地に立って排除することが要請されるよな状況を認めることが必要と解される。
but
本件においては、警察官が本件空パケを仕込んだ疑いを拭い去ることはできないが、その疑いはそれほど濃厚ではないところ、その程度にとどまる事情だけを根拠に本件各証拠の証拠能力を否定しても、将来における違法行為抑止の実効性を担保し得るかどうかには疑問。
⇒この事情をもってしても、本件各証拠の証拠能力を許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとまではいえない。

<判断>
判例違反をいう点は適法な上告理由に当たらない。
but
次のとおり、法令違反がある⇒原判決を破棄して差し戻し。
警察官が、本件車両内に本件ビニール袋を確認した旨の疎明資料を作成して本件車両に対する本件各令状を請求して本件各令状の発付を受け、本件車両内から本件薬物を差し押さえ、被告人から尿の任意提出を受けたなどの本件の事実経過の下では、
本件各証拠の証拠能力の判断に当たり、本件事実の存否を確定せず、その存否を前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断しないまま、証拠能力が否定されないとした原判決は、法令の解釈を誤った違法があり、刑訴法411条1号により破棄を免れない。

<解説>
昭和53年判例:
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合、証拠能力は否定される。

同法則の適用にあたっては、違法の重大性判断に必要な範囲で捜査経緯等を認定し、それを前提に違法の有無・程度を検討してきた。
違法の重大性をみとめながら排除相当性を否定した事例は見当たらない

違法の重大性については、
①先行手続の客観的な違法(法規からの逸脱)の内容・程度
令状主義潜脱の意図の有無・程度
先行手続の違法と当該証拠の収集手続との関連性(因果関係)の程度
④当該証拠の収集手続事態の違法の有無・程度等
が考慮。

判例時報2526

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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