特別縁故者の事案
山口家裁周南支部R3.3.29
<事案>
被相続人の叔父J及び従姉妹Eがそれぞれ特別縁故者に対する相続財産の分与を申立てた。
①Jが申立て後、審判までの間に死亡し、その相続人らA~D(妻及び子ら)が手続を受継(家事手続法44条1項、3項参照)
②被相続人は叔父L及びその家族とも親密な交流があったが、L及びその家族は申立てをしないまま、民法978条の3第2項の期間を経過。EはL及びその妻Qとの間で、相続財産分与審判が確定することを停止条件とする贈与契約を締結。
<判断>
特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうる。
特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきもの⇒申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はない。
EがL及びその妻Qと締結した停止条件付き贈与契約について、
Eが本審判で分与される財産を独り占めするのではなく、被相続人及びその家族との関係が親密であったL及びその妻Qとも分かち合おうとしていることを示す⇒分与の相当性をより基礎づける。
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Eと停止条件付きの贈与契約を結ぶことで、いわばEを介して、申立期間の制限を超えて実質的に相続財産の分与を受けるような結果をもたらすことは申立期間の制限の潜脱となって相当ではない。
⇒L及びQと比そうぞ人との間の交流や関係をEのそれと同視したり、Eに対する分与にL及びQが期間内に申立てをすれば分与を受けられたであろう財産の額を上乗せしたりすべきではない。
<解説>
●特別縁故者による相続財産分与の請求は、一身専属性を有する恩恵的権利⇒相続の対象とはならず、特別縁故者が申立てをしないまま死亡した場合に、その相続人が特別縁故者の地位を承継することはできない(通説・東京高裁)。
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特別縁故者が申立をした後に死亡⇒申立により分与を現実的に期待できる財産的な地位を得るとして、相続を肯定(多数説・裁判例)。
本審判:
申立て後の申立人の死亡⇒特別縁故者の地位の相続を認めた。
さらに、特別縁故者の相続人に対する分与の相当性の判断基準を検討し、法定相続分とは異なる分与の割合を定める見解。
特別縁故者に対する相続財産の分与の有無・内容・程度は家庭裁判所の合目的的裁量に委ねられており、申立て後の特別縁故者の法的地位の相続が認められても、その地位自体、家庭裁判所の裁量による形成を予定したもの。
●特別縁故者からの申立てがない限り相続財産の分与が行われることはない(不請求不分与の原則)。
請求者以外の者には相続財産を分与することはできない。
申立期間を過ぎた申立ては不適法として却下。
判例時報2527
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