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2022年10月

2022年10月31日 (月)

特別縁故者の事案

山口家裁周南支部R3.3.29

<事案>
被相続人の叔父J及び従姉妹Eがそれぞれ特別縁故者に対する相続財産の分与を申立てた。

Jが申立て後、審判までの間に死亡し、その相続人らA~D(妻及び子ら)が手続を受継(家事手続法44条1項、3項参照)
②被相続人は叔父L及びその家族とも親密な交流があったが、L及びその家族は申立てをしないまま、民法978条の3第2項の期間を経過EはL及びその妻Qとの間で、相続財産分与審判が確定することを停止条件とする贈与契約を締結。

<判断>
特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうる。

特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきもの⇒申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はない

EがL及びその妻Qと締結した停止条件付き贈与契約について、
Eが本審判で分与される財産を独り占めするのではなく、被相続人及びその家族との関係が親密であったL及びその妻Qとも分かち合おうとしていることを示す⇒分与の相当性をより基礎づける。
but
Eと停止条件付きの贈与契約を結ぶことで、いわばEを介して、申立期間の制限を超えて実質的に相続財産の分与を受けるような結果をもたらすことは申立期間の制限の潜脱となって相当ではない。
⇒L及びQと比そうぞ人との間の交流や関係をEのそれと同視したり、Eに対する分与にL及びQが期間内に申立てをすれば分与を受けられたであろう財産の額を上乗せしたりすべきではない。

<解説>
特別縁故者による相続財産分与の請求は、一身専属性を有する恩恵的権利⇒相続の対象とはならず、特別縁故者が申立てをしないまま死亡した場合に、その相続人が特別縁故者の地位を承継することはできない(通説・東京高裁)
but
特別縁故者が申立をした後に死亡⇒申立により分与を現実的に期待できる財産的な地位を得るとして、相続を肯定(多数説・裁判例)

本審判:
申立て後の申立人の死亡⇒特別縁故者の地位の相続を認めた。
さらに、特別縁故者の相続人に対する分与の相当性の判断基準を検討し、法定相続分とは異なる分与の割合を定める見解。
特別縁故者に対する相続財産の分与の有無・内容・程度は家庭裁判所の合目的的裁量に委ねられており、申立て後の特別縁故者の法的地位の相続が認められても、その地位自体、家庭裁判所の裁量による形成を予定したもの。

●特別縁故者からの申立てがない限り相続財産の分与が行われることはない(不請求不分与の原則)。
請求者以外の者には相続財産を分与することはできない。
申立期間を過ぎた申立ては不適法として却下

判例時報2527

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妻である原告(日本国籍・D国籍)が、夫である被告(チェコ国籍・E国籍)に対して、離婚、子の親権、養育費を求めた渉外離婚事件

東京家裁R3.3.29

<特徴>
裁判所が、子(チェコ国籍・D国籍・E国籍)の親権(監護権)に関して、その準拠法をチェコ法とした上で、チェコ民法に基づき、離婚後の両親の親責任を認めるとともに、共同監護ではなく原告の単独監護に委ねることが相当であると判断した事案。
参考文献。

<解説>
●国際裁判管轄
渉外事件では、国際裁判管轄の検討が最初。
本件:被告が日本に国際裁判管轄がない旨主張⇒その主張に理由がない旨の中間判決
家事事件の国際裁判管轄は、平成30年法律第20号による家事手続法・人訴法改正により要件が明文化。

●準拠法
法律関係の性質ごとに準拠法の検討が求められる。
①離婚⇒法適用通則法27条
②子の親権(監護権)⇒親子間の法律関係を規定する法適用通則法32条
③子の養育費⇒扶養義務の準拠法に関する法律2条
により判断。

本件:
離婚及び養育費⇒日本法
子の親権(監護権)⇒チェコ法

●本国法について
子の親権(監護権)については、法適用通則法32条により子の本国法が父又は母の本国法と同一⇒子の本国法となる

父母及び子の本国法の検討が必要。
当事者が2以上の国籍(重国籍)を有する場合の本国法の考え方は、法適用通則法38条による。
(1)当事者の国籍に日本国籍が含まれている⇒日本法が本国法(同条1項但し書)
(2)日本国籍が含まれない

(a)当事者の国籍に常居所地国が含まれている⇒その常居所地国が本国法
(b)常居所地国が含まれていない⇒当事者の国籍のうち最密接関係国が本国法(同条1項本文)

最密接関係国の判断:
それぞれの国籍取得の経緯や、取得の先後、過去の常居所、父母の常居所、当事者の言語やライフスタイルなどが考慮要素として挙げられることがあるが、なんらかの基準で一律的に決定することはできず、最終的には当事者にとって最も密接な関係があると認められるかを個別的・具体的に検討するほかないといわれている。

本件:
原告(日本国籍・D国籍)は日本国籍を有する⇒本国法は日本法
被告(チェコ・E国籍)は日本国籍を有さず、国籍に常居所地国も含まない⇒チェコ及びE国と被告の関係性を詳しく検討した上で、最密接関係国であるチェコ法を本国法に。
子については、前提としてチェコ国籍を有することを検討した上で、日本国籍を有さず、国籍に常居所地(日本)も含まない⇒チェコ、D国及E国と子の関係を検討して、最密接関係国であるチェコ法を本国法に。

被告と子の本国法が同一のチェコ法を準拠法とする判断を導いている。

●チェコ法の親権(監護権)について
①離婚にかかわらず両親とも「親責任(Parental responsibility)」を負う
②監護(Care for the child)については、離婚時に子の利益を考慮して決定することとし、裁判所は、一方の親による単独監護、交互監護及び共同監護に子を委ねることができる。
その際に考慮すべき事情が具体的に規定。

本件:
原告と被告が離婚後も親責任を有することを確認。
監護については、両親と子の関係性をそれぞれ検討し、原告が一貫して子を監護し、被告と子の交流も概ね定期的に認めてきた一方で、被告は、職務の関係で各地に赴任し、現在も国外で勤務しており、子の養育環境として不安定な面があることを否定できない。
⇒子の監護を原告の単独監護に委ねることが相当。

●外国法令の適用が問題となる事件について
外国法の調査は裁判所の職責とされている
but
適用される法令の把握は当事者の主張の前提にもなる⇒当事者の協力を得て、適用が予定される外国法についての基本的な認識を共有できるのが望ましいように思える。
子の親権・監護に限っても、単独親権・共同親権、親責任、法定監護権・身上監護権・財産管理権など、法的概念は様々⇒手適用される外国法令の具体的な法制度を丁寧に検討することが求められる。

判例時報2527

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2022年10月30日 (日)

土地の使用貸借の終了の事案

東京地裁R3.6.24

<事案>
被相続人Aから相続により土地の所有権及び使用貸借契約上の貸主の地位を承継したXが、本件土地上の建物(本件建物)をAと共有し、本件土地についてAとの間に使用貸借契約を締結していたYに対し、契約に定める目的に従った使用収益の終了(改正前民法597条2項)使用収益に足りる期間の経過(同項ただし書)及び用法違反(民法594条3項)を主張して、使用貸借の終了に基づき、本件土地の明渡しを求めた。
Xは、平成30年8月、書面によって、本件使用貸借契約を解除する旨の意思表示をし、同書面到達後3週間以内の本件土地返還を請求。

<判断>
本件建物使用の目的を前提とした使用貸借終了の有無
平成12年建築の軽量鉄骨作である本件建物の存続期間を基準⇒本件土地の使用を終えたということはできない。
but
①YとAの同居を前提として本件建物の建築及び本件使用貸借契約の締結がなされたこと
②YとAの同居が実現せず、妻の氏を称することになったYに代わりXが跡継ぎとされたこと
等の事情
⇒本件使用貸借は「跡継ぎ」「同居」等の前提を充たさなくなった場合には、Yが本件土地を明け渡すに相当な期間経過後に終了することが予定されていたというべき。
Yが本件建物のローンを負担している限り相当期間が経過したとはいえない⇒ローン残額を考慮した金額の支払と引き換えに、本件土地の使用収益に足りる期間の悔過による使用貸借の終了を認めるのが相当。

<解説>
改正前民法597条2項:
期間の定めのない使用貸借の終了は、
契約に定めた目的に従った使用収益が終わったとき
②使用収益を終える前であっても、使用収益をするのに足りる期間が経過したとき

契約の目的に従った使用収益をするのに足りる期間を経過したか否かを判断するにあたっては、事案に即して、背景事情を考慮した弾力的な解釈が行われているのが実務の大勢。
←親族等の近しい関係にある者の間で様々な背景事情のもとに成立することが多く、期間の経過とともに事情が変化し、その終了が問題となる事案は少なくない。

最高裁昭和45.10.16:
礼拝堂建築を目的とする土地の使用貸借における使用収益をするのに足りる期間の経過の判断について:
期間の経過が相当であるか否かは、単に経過した年月のみにとらわれて判断することなく、これを合わせて、本件土地が無償で賃借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、上告人教会の本件土地使用の目的、方法、程度、被上告人の本件土地の使用を必要とする緊要度など双方の諸事情をも比較衡量して判断すべきものといわなければならない。
同様の判断基準(最高裁H11.2.25)

現行の民法597条2項及び598条1項は、それぞれ、改正前民法597条2項本文及び同項ただし書と同旨。

判例時報2527

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2022年10月28日 (金)

いわゆる給与ファクタリング取引が、実質的には金銭消費貸借契約であるとされた事例

東京地裁R3.1.26

<事案>
ファクタリング業(債権の買取り業)を営む株式会社Xが、給与債権10万円を譲渡代金6万円でXに譲渡したYに対し、Yが譲渡に係る給与債権全額の支払を受けたにもかかわらず、受領額のうち10万円をXに引き渡さない⇒債権譲渡契約に由来する受取物引渡請求権に基づき、10万円及び遅延損害金の支払を求めた。

<判断>
● 次の(1)ないし(3)を指摘した上で、本件契約は実質的にはXとYの2者間における給与債権を担保とした金銭消費貸借契約⇒貸金業法上の「貸金業」を営む者が行う「貸付け」に該当。
本件契約が金銭消費貸借契約⇒債権譲渡契約を根拠としてYが受領した給与のうち10万円の支払をYに求めるXの本件債権はそもそも成立し得ない。
(1)Xは、賃金の直接払の原則により、当該給与債権の回収をYの勤務先から直接行うことは法律上許されない⇒その回収は、必然的に、Yを通じて行われる仕組みになる。

法形式としては債権譲渡(売買)の形態を採りつつも、実際には給与債権の譲渡人と譲受人の2者間でのみ金銭の移転が発生し、譲受人が譲り受けた給与債権をの回収を譲渡人を通じて行うことを当然に予定する仕組みとなっている点において、実質的には2者間における金銭消費貸借に類似する面があることを示す。
(2)XのHPによる謳い文句⇒Xと取引をして給与債権の現金化を図ろうとする者は、勤務先に知られることなく給与債権の換金ができることに重要な利益を有する者⇒・・・通知期限前の給与債権の買戻しを事実上強制される立場に置かれている。
Xとの取引は返済期限と利息の合意のある金銭の交付の実質を有しており、給与債権を事実上の担保とした金銭消費貸借取引に類似する面を示す。
(3) (1)(2)⇒Xにおける給与債権を事実上の担保とした金銭の交付は、経済的機能として、Xの労働者に対する給与債権の譲渡代金の交付と当該労働者からの資金の回収とが不可分一体となった資金移転の仕組みが構築されたものであり、貸金業法2条1項本文にいう「譲渡担保その他これに類する方法によってする金銭の交付」に相当し、貸金業法上の「貸付け」に該当すると解するのが相当。
⇒Xは、行として貸付けを行っており、「貸金業」に該当する。

● 本件契約の有効性についても検討を加える:
本件契約は、貸金業法上の「貸金業」の一環として行われた「貸付け」であるところ、これを金銭消費貸借取引に置き換えると、XがYに交付した買取代金6万円が買付金の元金、YがXに買戻代金として支払うこととなる額面額10万円と6万円の差額4万円が貸付金の利息、Yの買戻期限である令和1年8月21日午前中が貸付金の返済期限にそれぞれ相当する。

貸付金の利率は年利換算で800%を超過。
このような貸金業法及び出資法上の規制利率109.5%の7倍以上にも達する著しい高金利を定めた金銭消費貸借契約は、貸金業法42条1項により契約自体が当然無効となるのみならず、その合意自体が強度の違法性を帯びており、公序良俗違反の程度が甚だしいもの。

本件契約においては、金銭消費貸借契約としてXがYに対して利息を含む貸付金の支払を求めることは当然許されないし、XのYに対する6万円の交付は不法原因給付となる⇒不当利得返還請求権の行使も許されないことは明らか。

<解説>
給与債権の買取りという形式の下での買取代金名目での金銭の交付について、その実質は金銭消費貸借であり、債権譲渡契約を根拠として譲渡人が勤務先から受領した給与の支払を求める本件請求はそもそも成立しない⇒譲受人である業者からの金銭支払請求を一切認めなかった事案。
金融庁も注意喚起「ファクタリングに関する注意喚起」等
裁判例

判例時報2527

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法務大臣等が出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決を撤回せず、在留特別許可をしなかったことが、その裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用したものであるとされた事例

東京地裁R3.11.24

<事案>
スリランカ民主社会主義共和国の国籍を有するX1、モンゴル国の国籍を有するX2、並びにスリランカ及びモンゴルの国籍を有する両名の3人の子(長女X3、二女X4、三女X5)は、入国審査官から、入管法24条4号ロ又は同条7号にそれぞれ該当する旨の認定を受けた後、特別審理官から、同認定に誤りがない旨の判定を受けた⇒入管法49条1項に基づき、法務大臣に対して異議の申出⇒法務大臣等から、同異議の申出に理由がない旨の裁決⇒Xらは、本件裁決等の取消訴訟を提起⇒請求棄却で確定。

Xらが、本件裁決後の事情を考慮すれば、本件裁決は撤回されるべきであり、Xらについては在留特別許可がされるべき⇒法務大臣等に対する本件裁決の撤回及び在留特別許可の義務付け等を求めた。

<主たる争点>
本件裁決後、相当長期間にわたって違法な在留を継続してきた結果、事実上、日本社会との定着の程度を強めてきたXら一家について、本件裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となり、いわゆる非申請型の義務付け訴訟(行訴法3条6項1号)の本案要件(行訴法37条の2第5項)を満たすことになるか。

<判断>
● X3及びX4についてのみ、本件裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になると判断。

在留特別許可をするか否かの判断は、法務大臣等の広範な裁量に委ねられている
入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決がされた後、当該裁決後の事情を理由として裁決を撤回するか否かの判断は、適法にされた裁決をその後に生じた事情により将来に向かって撤回するという行為の性質⇒在留特別許可をするか否かの判断よりも更に広範な法務大臣等の裁量に委ねられている。

法務大臣等が入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がないとした裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと評価されるのは、当該裁決後に生じた事情を基礎として、当該外国人の本邦に在留する利益の要保護性の程度に顕著な事実の変化が生じたため、法務大臣等において当該裁決をした判断を維持することが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとなるに至った場合に限られる。

● X3~X5について検討:
①本件裁決後、X3(本件裁決時7歳、口頭弁論終結時18歳(大学1年生))及びX4(本件裁決時5歳、口頭弁論終結時17歳(高校2年生))は、本邦において義務教育の過程を終了し、高等教育を受け、将来、本邦において生活していく意向を固めるに至っており、X5(本件裁決時2歳、口頭弁論終結時13歳(中学2年生))も義務教育の大半を既に修了するに至っているところ、・・・社会的な生活基盤を形成し、本邦への定着の程度を強めてきた。
②・・・X3~X5は、本件裁決後、本邦への定着の程度を有意義に強めてきた。
but
上記事情の変化は、X3~X5が本邦における違法な在留を継続した結果
⇒これをもって直ちに顕著な事情の変化が生じたと評価することはできない。


①X3~X5に対し、本件裁決後、自発的にX1及びX2の監護下から離れて本邦から出国することを期待することは非現実的
②X1及びX2において、あえて法令を遵守せずに違法な在留を継続させてきたことが、X3~X5の在留が違法と評価される根本的な原因である

X3~X5の在留の利益がそうしたX1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自律した個人の利益として評価することができるに至った場合には、それ以降のX3~X5の在留の利益は、従前のそれとは質的に異なる側面を有するものとして、従前の在留の違法性ゆえにその要保護性を大幅に減じられることはない。

X3及びX4は、年齢その他の事情に照らすと、親元を離れて本邦において自律的な社会生活を送ることを期待することができる⇒X3及びX4の在留の利益は、X1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自立した個人の利益と評価することができるに至った。
but
X5は、いまだ義務教育のの過程を修了しておらず、その年齢等からして、親元を離れて生活することが困難⇒X5の在留の利益は、いまだX1及びX2の違法な在留の継続を前提としない自立した個人の在留の利益と評価することができるに至ったとはいえない。
X3及びX4についてのみ、法務大臣等において本件裁決をした判断を維持することが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとなるに至ったということができる。

<解説>
外国人一家が相当長期間にわたって違法な在留を継続する中で本邦への定着の程度を強めてきた事案において、違法な在留の継続に直接の帰責性のない子らのうち、年長の子らについてのみ、結果として、裁決を撤回しないこと及び在留特別許可をしないことが法務大臣等の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になると判断したもの。

判例時報2527

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2022年10月27日 (木)

消費税法の課税仕入れの用途区分についての解釈が問題となった事案

東京高裁R3.7.29

<事案>
被控訴人が、平成27年3月期から平成29年3月期までの各課税期間(本件各課税期間)における各確定申告において、将来の転売を目的として購入したマンション84棟(本件マンション)に係る課税仕入れ(本件各課税仕入れ)を消費税法30条2項1号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(課税対応課税仕入れ)に区分されるものとして、本件各課税仕入れに係る消費税額から控除して申告⇒処分行政庁から、本件各課税仕入れは同号にいう「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(共通対応課税仕入れ)に区分されるべき⇒本件各課税仕入れにかかる消費税額の一部しか控除することができない⇒本件各課税期間に係る消費税及び地方消費税(消費税等)の各更正処分(本件各更正処分)並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)を受けた

本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに区分すべきものであると主張して、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた。

<解説>
●仕入れ税額控除制度の仕組み
消費税:土地の譲渡及び貸付けや住宅の貸付けなどの一部の取引を除き、ほとんど全ての国内における取引を課税対象とするもの。
消費税の課税対象となる取引はいわゆる最終消費者に物品やサービスが購入される前の生産や流通等の各段階に及ぶ⇒消費税の納税義務者は、各段階において取引を行う各事業者とされ(消費税5条)、最終消費者は、これらの事業者が生産や流通等の各段階で物品やサービスの価格に順次転嫁されていった消費税等の額を最終的に負担。

消費税額については、納税義務者である事業者が国内において課税仕入れを行った場合、生産や流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することのないように、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れにかかる消費税額を控除(消費税法30条1項)。

税負担の累積が生じない課税仕入れに係る消費税額は控除の必要がないことになる。
but
課税期間における売上高が5億円以下で、かつ、当該課税期間における課税売上割合が95パーセント以上である場合には、課税仕入れに対応する売上に係る取引がその他の資産の譲渡等に当たるか否かを問うことなく、当該課税期間中の課税仕入れに係る消費税額の全額の控除が認められている(同条2項、6項)。
他方、当該課税期間における課税売上高>5億円又は当該課税期間における課税売上高割合<95%の場合、同条2項1号に規定する個別対応方式又は同項2号に規定する一括比例配分方式のいずれかの方法により控除対象仕入税額を計算。
そのうち個別対応方式は、事業者が当該課税期間中に国内において行った課税仕入れを、
①課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税対応課税仕入れ)
②その他の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税対応課税仕入れ)
③課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(共通対応課税仕入れ)
の3つに区分し、そのうち
①の課税対応課税仕入れにかかる消費税の全額と、③の共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額の合計額を控除対象仕入税額とする方式をいう(同条2項1号)。

<争点>
申告の対象となった被控訴人の事業:
富裕層の個人投資家を主な顧客とする販売事業であって、賃貸収益を上げることのできる収益不動産(中古の賃貸用マンション等)を仕入れ、その資産価値及び収益力を控除させるバリューアップ(物件に改良工事を施す「リノベーション」、物件を良好な状態に管理する「マネジメント」、物件を適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らす「リーシング」等)を行った上で、当該収益不動産を顧客に転売するというもので、
本件各マンションの各仕入日において、将来、住宅の貸付けによる賃料収入という非課税売上げが見込まれるとともに、本件各マンションの売却による課税仕入れも見込まれるもの。
①将来の転売を目的として購入した本件各マンションに係る本件各課税仕入れが消費税法30条2項1号にいう課税対応課税仕入れ及び共通対応課税仕入れのいずれに区分されるか
⇒共通対応課税仕入れに区分されるとした場合
②処分行政庁が行った本件各更正処分が平等取扱原則に違反するか
③本件各課税課税仕入れを課税対応課税仕入れに当たるとして確定申告をした被控訴人に、税通法65条4項にいう「正当な理由」があるといえるか

<原審>
・・・・本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに区分するのが相当⇒本件各課税仕入れに係る消費税額の全額が控除対象仕入税額になる⇒請求を全部認容。

<判断>
●争点①について
消費税法30条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、
課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、
非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売り上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、
当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上を生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当。

本件各課税仕入れは、仮に本件各マンションの販売を主眼として行われたもので、本件各マンションの賃貸はその販売の手段として行われたものであるとしても、厳にその賃貸によって相当額の賃料収入が得られ、その中に非課税売り上げに区分される賃料収入が相当程度において認められ、将来課税売上げを生ずる取引に加え非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入であると認められる。

個別対応方式が定められた趣旨等に照らし、共通対応課税仕入れに区分するのが相当


争点②:本件各更正処分が平等取扱原則に違反するものではない
争点③:被控訴人は、税通法65条4項にいう「正当な理由」があるといはいえない。

本件各賦課決定処分は適法。

<解説>
令和2年度の税制改正:
居住用賃貸建物の取得等に係る仕入れ税額控除制度等の適正化を図るための令和2年法律第8号による消費税法の改正

同改正後の消費税法においては、課税仕入れの時点で住宅の貸付けの用に供するか否かが不明な建物についても、住宅の貸付けの用に供する可能性のある物については、原則として居住用賃貸建物に該当することとなって、仕入れ税額控除の対象から外され、当該建物が所定の期間内に住宅の貸付け以外の貸付けのように供した場合であって、その居住用賃貸建物を第3年度の課税期間の末日に有している場合や、その全部又は一部を居住用賃貸建物の仕入れ等の日から同日の属する課税期間の初日以降3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に、他の者に譲渡した場合に限り、一定の額につき仕入税額控除が認められることになった。

判例時報2527

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2022年10月23日 (日)

違法収集証拠を否定した原審に法令の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

最高裁R3.7.30

<事案>
覚せい剤自己使用・所持で起訴された事案。
警察官は、職務質問を行うために被告に被告人運転車両を停止⇒本件車両運転席ドアポケットに中身の入っていあにチャック付きビニール袋の束が入っていることが確認された旨の疎明資料を作成して本件車両に対する捜索差押許可状及び強制採尿令状を請求して本件各令状の発付を受け、本件車両内から覚せい剤等の違法薬物を差し押さえ、尿の任意提出を受けた。

<争点>
本件薬物並びに本件薬物及び被告人の尿に関する各鑑定書の証拠能力。

<1審>
本件ビニール袋がもともと本件車両内になかった疑いは払拭できない⇒警察官が、本件ビニール袋は本件車両内にもともとなかったにもかかわらず、これがあることが確認された旨の疎明資料を作成して本件各令状を請求した事実があった。
⇒本件各証拠の収集手続には重大な違法があると判断してその証拠能力を否定
⇒覚せい剤の自己使用及び本件薬物の所持について無罪を言い渡した。

<原審>
違法収集証拠排除法則を認めた最高裁を引用した上で、
同法則を判断する裁判所において、その他の面では証拠能力を有する又は有しうる証拠について、将来における違法な捜査の抑制といういわば法政策的な見地に立って排除することが要請されるよな状況を認めることが必要と解される。
but
本件においては、警察官が本件空パケを仕込んだ疑いを拭い去ることはできないが、その疑いはそれほど濃厚ではないところ、その程度にとどまる事情だけを根拠に本件各証拠の証拠能力を否定しても、将来における違法行為抑止の実効性を担保し得るかどうかには疑問。
⇒この事情をもってしても、本件各証拠の証拠能力を許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとまではいえない。

<判断>
判例違反をいう点は適法な上告理由に当たらない。
but
次のとおり、法令違反がある⇒原判決を破棄して差し戻し。
警察官が、本件車両内に本件ビニール袋を確認した旨の疎明資料を作成して本件車両に対する本件各令状を請求して本件各令状の発付を受け、本件車両内から本件薬物を差し押さえ、被告人から尿の任意提出を受けたなどの本件の事実経過の下では、
本件各証拠の証拠能力の判断に当たり、本件事実の存否を確定せず、その存否を前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断しないまま、証拠能力が否定されないとした原判決は、法令の解釈を誤った違法があり、刑訴法411条1号により破棄を免れない。

<解説>
昭和53年判例:
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合、証拠能力は否定される。

同法則の適用にあたっては、違法の重大性判断に必要な範囲で捜査経緯等を認定し、それを前提に違法の有無・程度を検討してきた。
違法の重大性をみとめながら排除相当性を否定した事例は見当たらない

違法の重大性については、
①先行手続の客観的な違法(法規からの逸脱)の内容・程度
令状主義潜脱の意図の有無・程度
先行手続の違法と当該証拠の収集手続との関連性(因果関係)の程度
④当該証拠の収集手続事態の違法の有無・程度等
が考慮。

判例時報2526

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ロゴタイプの著作物性が問題となった事案

東京地裁R3.12.24

<事案>
原告が、被告に対し、
①被告が、被告商品などに被告標章1ないし3を付していることが、原告標章に対する原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する⇒著作権法112条に基づき、その妨害排除と妨害予防を求める。
②被告が、不正の目的をもって、原告と同一の商標を使用している⇒会社法8条2項に基づき、「株式会社アノワ」の商号(「被告商号」)の使用の差止めと抹消手続を求め、
③被告が、原告の特定商品等表示に類似する被告ドメイン名を使用等していることが不正競争法2条1項19号に規定する不正競争に該当⇒同法3条1項に基づき、その使用の差止めを求めた。


<主たる争点>
原告標章(ロゴタイプ)の著作物性の有無であり、いわゆる応用美術の著作物性に関する判断基準及びその当てはめ

<判断>
●ロゴタイプの著作物性(判断基準)
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(法2条1項1号)。
商品又は営業を表示するものとして文字から構成される標章は、本来的に商品又は営業の出所を文字情報で表示するなど実用目的で使用されるもの⇒それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、美術の範囲に属する著作物には該当しない。

●原告標章の著作物性の成否
・・・前記認定事実によれば、原告標章は、文字は一の特徴等を十分考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎない。
原告標章は、出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであり、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできない。
⇒法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するものとは認められない。

●その他
原告と被告は、本店所在地も業種も全く異にするものであり、当時の被告代表者自身が著名であり社会的にも信用がある実業家であった事情
被告には、原告の知名度や信用を利用しようとする意思も必要もなかったものと認めるのが相当

被告は、原告や原告標章の存在を知ることなく、被告商号を独自に考案し、これを使用したものと認められるという事情の下では、被告が会社法8条1項にいう「不正の目的」をもって被告商号を使用したものとはいえず、被告ドメイン名の取得、保有及び使用についても、被告商号の使用に関する前記判断と異なるところはない。

「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的」を有していたものともいえない。

<解説>
●ロゴタイプの著作物性
本件で問題とされている原告標章は、商標登録もされており、原告の出所を示すロゴタイプとして実用に供されるもの⇒著作権法との関係では、いわゆる応用美術に属するもの。
一般に応用美術とは、意匠法との棲み分けという観点から議論されるものが多数。
but
原告商標が商標登録されているロゴタイプ⇒本件では商標法との棲み分けという観点からも検討する必要。

商標登録出願は、商標の使用をする1又は2以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない(商標法6条1項)、その存続期間は、設定登録の日から10年をもって終了し(同法19条)、商標権者は、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」)に限り登録商標の使用をする権利を専有するにもかかわらず(同法25条)、
登録商標が著作権法2条1項1号にいう著作物にも該当するとして著作権法との重複適用を認める場合には、当該商標登録を受けた商標権者が、当該指定商品等と同一でもなく類似もしないものに対しても、当該商標権者の死後70年を経過するまでの間、権利行使を認めることになる。
このような問題は、著作権と意匠法の重複適用を認めた場合における問題と共通する部分がある。

本判決:
ロゴタイプは、本来的には実用目的で使用されるものそれ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、著作物には該当しない。

●本判決の立場
応用美術に関する議論を進展させた裁判例:
ファッションショー事件知財高裁判決:
実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、著作権法2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができる⇒同号の美術の著作物として保護すべき。

TRIPP TRAPP事件知財高裁判決:
応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

応用美術は、当該実用目的又は産業用の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要がある⇒その表現については、同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならず、応用美術の表現については、このような制約が課されることから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定される⇒応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、前記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。

ファッションショー事件判決:
創作性の判断手法につき、実用目的に必要な構成と分離して創作性を判断するものとしているところ、
TRIPP TRAPP事件判決:
当該判断手法を明示的に説示するものではないものの、実用目的にかなう一定の機能により表現の選択の幅が狭くなることを当然の前提として、当該狭い選択の幅の中に「美術の著作物」としての創作性を認める余地があるかどうかを検討すべきことを説示。

本判決:
ロゴタイプの著作物性につき、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合に限り著作物性が認められるとして、
応用美術について、創作性概念をその他の著作物と同一のものとした上、実用目的に必要な構成又は機能とは区別されたそれ自体の表現の選択の選択の幅において、創作性を判断するものであり、上記2判決の流れを踏襲。

本判決が「それ自体が独立して」という文言を採用したのは、実用目的に必要な機能とは、表現ではなくアイデアであると理解した上、アイデアを除く創作的表現部分をアイデアとは独立して判断する趣旨をいうものと推察されるされるところであり、応用美術の棲み分けの問題につき、アイデアと表現の二分法という原理原則から整理するもの。

判例時報2526

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2022年10月21日 (金)

高等学校の生徒募集停止での閉校⇒提携先事業者への債務不履行責任(肯定)

大阪地裁R3.7.16

<事案>
原告らは、本件学校を設置した株式会社と提携して広域通信制過程の教育支援施設を各地で営んでいたbut本件学校が生徒募集を停止して閉校
本件原告らは、 本件学校の設置会社に対して債務不履行等、その親会社に対して不法行為、親会社と設置会社の代表取締役に対して任務懈怠等、就学支援金を詐取したとして有罪判決を受けた親会社及び設置会社の元幹部従業員に対して不法行為に基づき、それぞれ損害賠償を求めた。
設置会社は、閉校に至った原因は本訴原告らにある⇒債務不履行に基づく損害賠償を求め反訴を提起。

<判断>
本訴について、設置会社の債務不履行責任及びその代表取締役の任務懈怠責任を認め、 その他の責任を否定。
反訴は、本訴原告らの責任を否定。

●設置会社の責任
設置会社は、本訴原告らと基本契約上、教育支援施設を運営できるように本件学校を運営すべき義務を負い、本件学校の生徒募集停止及び閉校により教育支援施設の運営をできなくしたことは債務不履行に当たる。
生徒数の増加に見合った教員体制を整備しないまま、法令に違反して本件学校において行うべきスクリーニング等を教育支援施設にゆだねていたことや、生徒募集に際しての就学支援金詐欺で強制捜査を受けたことが生徒募集停止及び閉校の主な要因となっており、そのいずれについても設置会社に帰責事由がないとはいえない。

●代表取締役の責任
設置会社の代表取締役は、就学支援金詐欺につながる不適切な生徒募集を認識していながら放置⇒これが取締役としての任務懈怠に当たる。
but
本件学校の教員体制や管理体制の問題については、監督官庁からの強い指導はなく、生徒募集停止及び閉校につながることは予見し難かった⇒重過失を否定し、任務懈怠を認めず。

●親会社の責任
親会社は、本件原告らと直接契約関係になく、就業支援金詐欺等の不祥事の発生を防げなかった要因として、親会社における内部統制システムの構築が不十分であったことを指摘できるとしても、親会社が本訴原告らに対する関係で内部統制システムを構築し運営すべき義務を負っていたと解することはできない⇒親会社の不法行為責任を否定

●元幹部従業員の責任
元幹部従業員の就学支援金詐欺等は、設置会社や親会社の業務そのものとして行われたとはいえず、本件原告らの権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるとはいえない
⇒元幹部従業員の不法行為責任を否定。

●損害
他校への乗換えに要した費用や営業損害の一部を本訴原告らの損害として認めた。
営業損害については、限界利益、すなわち、売上高からその増加に伴って増加する変動経費を控除したものを基礎としている。

他校への乗換えによる生徒1人当たりの収入の減少について:
本訴原告らの教育支援施設で行っていた業務の一部が本来法令上本件学校で行うべきものであった⇒実際の減収の3割の限度で損害と認めた。

他校への乗換えにより生徒が減少したことや、他校への乗換えによる減少:
他の要因の寄与も考えられる⇒減少した生徒の7割の限度で設置会社の債務不履行及び代表取締役の任務懈怠との相当因果関係を認めた。

<解説>
●責任について
本件原告らは、債務不履行に基づくのと選択的に不法行為に基づいても損害賠償を請求。
どちらの法律構成によるかは、弁護士費用の損害が認められるか否かの結果に影響し得る(参考文献)。

本判決:
本訴原告らが主張するのは、基本契約に基づく義務の履行によって初めて実現される利益が侵害されたということを超えるものではない⇒不法行為責任はない。
債務不履行責任と不法行為責任との関係は、古くて新しい問題(参考文献)。

●損害について
本訴原告らは、営業損害に関し、
本件学校の生徒募集停止及び閉校に伴い他校との提携に乗り換えたが、他校絵の乗換え後の生徒1人当たりの収入が減少。
信用が毀損⇒生徒が外部流出し、新入生徒も減少。
と主張。

本件学校の不祥事は大きく報道されている⇒、本件学校の教育支援施設を運営していた本訴原告らの信用が毀損されたことは推認できる、かつ、実際に生徒1人当たりの収入の減少や生徒の減少がン認められる。
but
それらが専ら本件学校の生徒募集停止及び閉校を原因とするものであると言い切ることは困難。

生徒1人当たりの収入の減少についてあも、生徒の減少についても、他の要因の寄与を指摘の上、それぞれ一律に一定割合に限り、設置会社の債務不履行及び代表取締役の任務懈怠との相当因果関係を認めた。

判例時報2526

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公立中学校で適応障害と診断された生徒への配慮の欠如⇒損害賠償(一部認容)

福岡高裁宮崎支部R3.2.10

<事案>
Y(鹿児島市)が設置する公立中学校に通っていた生徒であるX1とその両親であるX2及びX3が、X1が適応障害と診断されたとしてX1の所属する部活動(吹奏楽部)での練習の負担軽減等の配慮を求めたにもかかわらず、本件中学校の校長、教頭及び教諭らが配慮義務に違反⇒X1の症状が悪化して不登校となり、転校を余儀なくされるなどして精神的苦痛を被った

Yに対し、国賠法1条1項又は債務不履行に基づく損害賠償を求めた。
主張の主要な内容:
本件中学校の教諭らが、X1の適応障害に対する具体的対応を主治医やX2及びX3と十分協議せず、教諭間の情報共有も不十分であったため、X1の状態の観察を怠って負担の大きな活動に参加させ、X1が練習を欠席しづらい状況にして心身に負担を掛けるどした結果、その症状を悪化させ、X1が不登校になった後も十分な対応をとらなかった。

<1審>
いずれも配慮義務違反等の違法行為があたっとは認められない⇒請求棄却。

<判断>
X1の練習への参加状況等から適応障害が回復したものと判断し、治療継続中であることを伝えられた後も主治医やX2及びX3と協議して負担軽減措置を継続する対応を取ることなく、かえって部活動を遅刻、欠席しづらい状況を作り出し、X1に心身の負担をかけて精神疾患を悪化させた⇒本件中学校の教諭らには配慮義務違反の違法行為があった
⇒Yに対し、X1の精神的苦痛に対する慰謝料等として55万円の支払を命じた。
(X2及びX3の請求はいずれも棄却した。)

<解説>
X2が小児科及び精神科の専門医であり、X3が臨床発達心理士であった⇒教諭らとしては、専門的知見を有するX2及びX3が部活動への参加を認容していたことを重視し、主治医の意見を聴取することなく対応。

本判決:
主治医の診断書に部活動の負担軽減の必要性が具体的に記載されていた
X1が治療継続中であることや無理をして適応障害の症状を悪化させるおそれがあることをX3から伝えられていた

教諭らには、X2及びX3だけでなく主治医を含めた協議を行うなどの慎重な対応をすべき配慮義務があった。

判例時報2526

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2022年10月18日 (火)

住宅型有料老人ホームに入居の高齢者が居室から転落⇒損害賠償請求(否定)

福岡高裁宮崎支部R3.4.21

<事案>
Y1が開設、運営する住宅型有料老人ホーム(本件施設)に入居し、 本件施設の一部を賃借して介護事業所を開設するY2から訪問介護サービスの提供を受けていた亡Bが、居室の窓から転落して傷害を負い、その後死亡⇒亡Bの相続人である亡A及びXらが、Y1及びY2に対しては安全配慮義務違反の債務不履行又は共同不法行為に基づき、Y1に対しては工作物責任に基づき、損害賠償を求めた。
亡Bの配偶者である亡Aは訴訟係属後に死亡⇒相続人であるXらが訴訟承継。

<1審>
Yらの安全配慮義務について、
①亡BとY1との間の本件施設の入居契約は、本件施設及び本件居室の利用と健康管理及び食事等の生活支援サービスの提供を内容とするにすぎず、職員による居室への立入りは入居者の承諾を要するとされていた⇒Y1は、常に入居者の身体等の危険を予見、防止すべき注意義務を負うものではない。
②亡BとY2との間の訪問介護契約は、介護サービスの内容及び利用回数等に応じて料金が定められるもの⇒Y2は、本件施設に職員が常駐し24時間対応が可能であるとしても、介護サービス提供時以外を含めて常に利用者に対する安全配慮義務を負うものではない。
③Yらによる業務提携は、入居者の利便性を高めるものにすぎず、これによって本件施設の性質が変容しYらの責任を加重するものではない。

①亡Bが本件施設内を徘徊し、帰宅願望を示したことがあったが、窓から施設外に出ようとした様子はなかった。
②本件居室の出入口を施設職員が施錠したとは認められず、亡Bが出入り口から出られずに窓から出ようとして転落することを予見できたとはいえない
③本件居室の窓のストッパーが日常的に使用されていたとは認められない

Yらの安全配慮銀無違反を否定。
本件施設の職員がストッパーの鍵を管理していたことをもってYらがストッパーの適切な使用等についての黙示の委任契約や事務管理に基づく安全配慮義務を負っていたとするXらの主張を排斥。
本件居室の窓にストッパーが使用されていなかったことは工作物の瑕疵に当たらない。

<判断>
1審の判断は正当

判例時報2526

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支援措置の延長の申出をしたことがDVの加害者とされた元夫に対する不法行為に該当するとされた事案

名古屋高裁R3.4.22

<事案>
Xからの住民票等の写しの交付申請を拒否する措置が講じられ、その後も支援措置の延長が行われているところ、Y(元妻)が、支援措置の要件を欠くことを認識し又は認識し得たにもかかわらず、3回目及び4回目の支援措置の延長の申出をしたことはそれぞれ不法行為に該当し、Xの自尊感情及び社会的評価が毀損された⇒不法行為に基づき220万円の損害賠償を請求

<解説>
市長村長は、DV被害者についていえば、
申出者が配偶者暴力防止法1条2項に規定する被害者であり、
加害者からの更なる暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがある者に該当し、
加害者が、当該申出者の住所を探索する目的で、住民基本台帳の閲覧等を行うおそれがあるという支援の必要の要件を認めた場合に、
住民基本台帳の閲覧等を制限(拒否)する措置を講ずるとされている。

支援の必要性については、警察等の意見を聴取し、又はそれ以外の適切な方法により確認する。
支援措置の期間は1年間として、支援措置の延長の申出があった場合には、支援措置の申出の場合と同様に処理

<原判決>
①支援措置の制度が被害者を保護するための制度
②被害者が申立にあたって支援の必要性についての疎明をすることが求められていない

支援の必要性の要件である暴力を受けるおそれ等が存在しないことが客観的に明らかであって、申出者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず、あえて支援措置の申出をしたなど、その支援措置の申出が支援措置制度の趣旨に照らして、著しく相当性を欠く場合には、支援措置の申出をし、支援措置の決定を得たことが加害者とされる者に対する不法行為に該当する場合もあると解される」
3回目及び4回目の支援措置の延長の申出は、客観的には支援の必要性の要件を欠いていた。

前件訴訟の判決で、「被告が、本判決が確定した後になお支援措置の更新申出をした場合には、支援措置の要件を欠くことを知りながら支援措置の更新申出をしたものとして、原告に対する不法行為を構成する可能性がある」と指摘し、その後客観的事情の変化はなかった。

Yには、前件判決の注意喚起を踏まえ慎重な判断をすべき義務があったとし、Yが支援の必要性がないことを容易に知ることができたのにあえた各延長の申出をしたと認定し、それは、支援制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠く申立てであった⇒不法行為に該当

Xの損害額につき、
支援措置の実施により自尊感情が侵害された。
but
支援措置の内容は加害者とされた者が実質的な不利益を被ることは少ない措置。
支援措置の実施についての市長村長の判断は支援措置という制度内の判断にとどまる。
その実施状況は外部に公表されない⇒Xの外部的名誉が毀損されているとはいえない。

2回目の延長の申出につきそれぞれ、慰謝料5万円、弁護士費用5000円、合計11万円の限度で、損害賠償請求を認容。

<判断>
支援措置の申出が不法行為に該当する場合に関して述べた一般論の部分もっ含めて、原判決の判示部分を基本的に引用。
支援措置が加害者と扱われる者に一定の不利益を与えるものであることが否定できない⇒DV被害者が主観的に恐怖心を有するからといって、客観的に支援の必要性の存在が認められるものと解することはできない。

Xの損害額については、
支援措置の実施により支年措置上のDVの加害者であるという自己に関する誤った情報を是正することができないことにより人格的利益を害された。
but
支援措置の実施により現実に不利益を被ることは想定し難い
社会的評価としての外部的名誉が毀損されたとは認められない
Xが婚姻中にYに対して暴力を振るったこと事態は認められる
Yが支援措置の申出を行ったことに不正の目的があったと認められない

損害額を減額し、2回の延長の申出につきそれぞれ、
慰謝料2万円、弁護士費用5000円、合計5万円の限度で、損害賠償請求を認容

判例時報2526

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2022年10月17日 (月)

仮想通貨についての情報教材を販売する法人等に対する共通義務確認訴訟で「支配性」が否定された事案

東京高裁R3.12.22

<事案>
原告:特定適格消費者団体(X)。
被告:仮想通貨についての情報商教材を販売する法人(Y1)および債務を履行し販売勧誘を助長する事業者個人(Y2)。
Xは、Y1が販売した
①仮想通貨バイブルDVD5巻セット
②仮想通貨バイブルDVD5巻セット及びVIPクラス
③パルテノンコース
について、虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な降下を強調した説明をして本件各商品等を販売したことが不法行為に該当⇒支払われた売買代金相当額と本件の対象消費者がXに支払うべき報酬及び費用に相当する金銭の支払義務を負うことの確認を求めた。

<争点>
●訴訟要件
特例法による裁判手続きは、
第1段階で共通義務確認の訴えがあり、
共通義務が確認されれば、第2段階の簡易確定手続に移行し、
確定された債権について消費者の被害回復が図られる制度。
共通義務確定手では、
①多様性:相当多数の消費者が被害を受けた
②共通性:消費者に共通する事実上または法律上の原因によるもの
③支配性:簡易確定手続において債権の存否、内容を適切に判断できる
が必要。

支配性の要件
簡易確定手続において判断すべき個別の事情について、審理を適切かつ迅速に進めることが困難となるような場合には、本制度によって適切な判断や速やかな被害回復を図ることが難しい。

X:
本件各商品等の代金相当額およびXに支払うべき報酬および費用相当額が損害⇒その認定は簡易確定手続における書面審理で迅速にないうる。
・・・誇大な効果を強調したものであり、特定商取引法に違反し刑事罰の対象になり得るもので、その違法性は重大⇒このような違法性の極めて高い悪質な行為を行った者に利益を残す結果となるに等しく、過失相殺をすべきではない。
Y:多数性、支配性はない。
X主張の勧誘を否定し過失相殺を主張。

<1審>
本件各商品等の提供が一定程度認められる⇒過失相殺をすべきでないというほどYらの不法行為の違法性が重大であるとはいえない。
対象消費者の過失の有無や過失相殺割合については、対象消費者ごとに仮想通貨への投資を含む投資の知識、経験の有無及び程度、職務経歴、本件商品等の購入に至る経緯等諸般の事情を考慮して認定、判断する必要があり、対象消費者ごとに相当程度の審理を要する⇒簡易確定手続において対象債権の存否および内容を適切かつ迅速に判断することが困難⇒法3条4項に該当。

<判断>
DVDである仮想通貨バイブルをインターネットにより購入した場合の購入に至る経過は対象消費者に基本的に共通。
but
VIPクラスセットやパルテノンコースについては、購入に至る経過は消費者ごとに様々なものがあると想定され、陳述書等により類型的に判断することは困難⇒3条4項に該当。

<解説>
特例法は兵絵師28年10月1日に施行。
消費者庁による消費者裁判裁判手続等についての見直しの検討会の報告が作成。

支配性の要件については、
過度に厳格に運用することがあるとすればそれは相応ではなく、簡易確定手続における対象債権の存否及び内容についての審理が個別事情に係っている場合にあっても、そのことのみによって除外すべきではなく、簡易確定手続における審理の工夫等によっても、なお適切かつ迅速に判断することが困難であると認められる場合に限って支配性の要件に基づき制度の対象外とされるべき。
消費者事件については、勧誘方法が詐欺的な事例についても事業者側からは消費者側の過失・過失相殺が主張される⇒判断や制度の工夫が必要。

判例時報2526

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裁決後の事情を理由とする当該裁決の撤回の義務付けを求める訴えの事案

東京高裁R3.7.15

<事案>
(1)中国籍を有する外国人女性であるXは、・・在留資格を「日本人の配偶者等」とし、在留期間を1年とする上陸許可を受けて本法に上陸。
(2)Xの姪に在留資格を得させるために他者と共謀して虚偽の婚姻届けを提出⇒でき電磁的公正証書原本不実記録等の罪で有罪判決⇒H23.7.13に確定。
(3)Xは、入管法24条4号ロ(不法残留)に該当する旨の認定及びこれに誤りがない旨の判定⇒入管法29条1項に基づく異議の申し出⇒東京入国管理局長から異議の申出は理由がない旨の裁決(「本件裁決」)・東京入管主任審査官から、同条6項に基づき、退去強制令書の発付処分(「本件退去処分」)
(4)本件裁決及び本件退去処分の取消しを求める訴えを東京地裁に提起⇒請求棄却⇒確定
(5)Xは、平成24年3月28日から仮放免されており、本法に在留。
(6)Xが、本件裁決後の事情を理由として、Y(国)に対し、本件裁決の撤回の義務付けを求めるとともに、入管法50条1項の在留特別許可の義務付けを求める。

<判断>
(1)本件各訴えによってXが求める裁決の撤回及び在留特別許可の各処分は、いずれもその申請権が法令上規定されていない⇒本件各訴えは、いずれもいわゆる非申請型の義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)に当たる。
(2)本件各訴えについて、本件撤回義務付けの訴えは、本件裁決の撤回がされないことによってXに「重大な損害を生ずるおそれ」(行訴法37条の2第1項)があるとは認められない⇒その訴訟要件を欠く
(3)本件在特義務付けの訴えは、法務大臣等がXに対し在留特別許可をする法令上の権限を有しないにもかかわらず、その処分の義務付けを求めるもの。

いずれも不適法な訴え⇒控訴を棄却。

<解説>
●非申請型の義務付けの訴え
行政庁がその処分をすべきであることが、その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき(行訴法37条の2第5項)であることが必要であるが、
その前提として
①当該処分を行う権限が行政庁にあること
②原告において、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有すること(同条3項)
③一定の処分がされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」があり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができるものとされている(同条1項)

③の損害の重大性の要件は、非申請型の義務付けの訴えに固有の要件であり、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。

●「重大な損害を生ずるおそれ」の有無
いったん適法にされた行政処分も、その後の事情の変更によって、公益に適合しなくなったときは、将来に向かってこれを撤回又は変更することが許される(最高裁)。
いったん適法とされた行政処分について、その撤回等を求める訴えを提起することが可能でないとはいえない。
⇒本件撤回義務付けの訴えにおいて、Xには②の法律上の利益を認めることができる。

本判決:
訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たっては、当該裁決後に新たに生じた事情を基礎として検討すべきもので、
結果的に、Xが主張する各事情は、本件裁決後に生じた事情に当たらないと判断。

●本件在特義務付けの訴えにおける訴訟要件の有無について
非申請型の義務付けの訴えは、当該処分を行う権限が行政庁にあること(要件①)が必要。
本件在特義務付けの訴えについてはは、既に法務大臣による本件裁決が存在。

本判決:
本件在特義務付けの訴えは、本件裁決が無効であるか又は取消し若しくは撤回がされたことを条件として新たな在留特別許可の処分の義務付けを求めるもの。
⇒本件裁決の効力が失われない限り、法務大臣等がXについて在留特別許可をする法令上の権限を有しない。
←そう解しないと、相反する行政処分が併存することになってしまう。

判例時報2526

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2022年10月11日 (火)

頭髪指導⇒不適切な措置⇒国賠請求(一部認容)

大阪高裁R3.10.28

<事案>
Xは、大阪府立高校の第2学年に在籍していたが、頭髪指導として繰り返し頭髪の黒染を強要され、教室で授業を受けること等を禁止されて不登校となり、第3学年に進級後には生徒名簿から氏名を削除さえ教室から座席を撤去されるなど不適切な措置を受けたことなどにより、著しい精神的苦痛等を負った⇒A高校を設置管理する地方公共団体Y(大阪府)に対し、国賠法1条1項又は債務不履行(在学関係上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求訴訟を提起

<主張>
X:
①染髪等を禁止する校則は教育以外の目的で定められた不合理ばものであり、生徒指導方針も頭髪の染戻し後に色落ちしただけの生徒に4日毎に頭髪指導を行い、拒否すれば出席停止を課すという比例原則に反した著しく不合理なもの
②教員らは、・・・指導として目的、態様、方法等が著しく相当性を欠く不合理なもの
③Xが不登校になった後の各種措置は、Xの登校を妨げるものであり、Xに対する教育環境配慮義務に違反

<争点>
①本件校則及び生徒指導方針が違法か
②Xに対する一連の頭髪指導が違法か
③Xが不登校となった後のA高校の措置が違法か

<原審>
Xに対する頭髪指導について国賠法1条1項にいう違法又は債務不履行があるとは認められない
but
Xが不登校となった後の生徒名簿からの氏名の削除及び教室からのXの座席の撤去の措置について国賠法1条1項の違法がある
⇒慰謝料30万円及び弁護士費用3万円・遅延損害金を認容。

<判断>
● Xの控訴を棄却。

●本件校則・生徒指導方針の違法性の有無
2つの高校が合併してA高校が開校した際に問題行動をとる生徒が多かった⇒A高校は生徒指導に注力してきた。
本件校則は、生徒の関心を学習等に向けて非行を防止する目的の規定であり、染髪、脱色及び特異な髪形を規制するにとどまるものであり、
学教法等に照らして正当な目的のための社会通念上合理的な規制。
頭髪指導にかかる生徒指導方針について、染め戻した頭髪が色落ちし、それが看過できない場合に再度頭髪指導を行うこととしている点を含め、本件校則の目的を達成するための合理的なもの

本件校則及び生徒指導方針は規則制定権の裁量の範囲を逸脱していない適法なもの。

●本件校則に基づく頭髪指導の違法・在学関係上の安全配慮義務違反の有無
・・・
教員らがXに対して概ね4日毎に頭髪指導を繰り返し、さらに強制力の強い別室指導を選択したことに合理性がないとはいえず、教員らの頭髪指導に裁量の範囲の逸脱はない。

●Xが不登校となり第3学年に進級した後の措置
A高校は教室からXの座席を撤去し、生徒名簿に氏名を掲載しなかったものであり、A高校が前記各措置をXに説明等せず、Xが広義した後も教育庁から指導を受けるまで約5か月にわたりXに理由を説明しないまま継続。

Xの教育環境を整える目的でされたものではなく、Xの登校を困難にする措置であって合理性はなく、A高校には教育環境に配慮する義務における裁量の範囲を逸脱した違法がある。

● ・・・校則の指導が真に効果を上げるためには、その内容や必要性について生徒・保護者との間に共通理解を持つようにすることが重要である旨、文部科学省・生徒指導提要で指摘。
・・・各高校における学校教育においては・・資質・能力や成熟度等において多様な生徒に対していかなる理念や方針に従って教育指導を行っていくかについて、個別的、集団的な実情に応じて多様な教育指導が許容されるために広範な裁量が認められなければならず、この裁量を逸脱しない限り違法の問題は生じない

<解説>
●教員による個別の生徒指導に関する判例:
最高裁H21.4.28
公立小学校の教員が、悪ふざけをした2年生の男子を追い掛けて捕まえ、その胸元を右手でつかんで壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ。」と𠮟った行為について、個別指導の目的や態様等の事実を評価して、教員の生徒に対する教育的指導の範囲内か否かを判断するという枠組みを採用。
目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、学教法11条ただし書にいう体罰に該当せず、国賠法上違法とはいえない。

●生徒に対する頭髪規制及び頭髪指導等の違法性が争点となった事例:
最高裁H8.7.18:
普通自動車運転免許取得を制限し、パーマをかけることを禁止し、学校に無断で運転免許を取得したものに対しては退学勧告をする旨の校則を定めていた私立高等学校において、
校則を承知しして入学した生徒が、
学校に無断で普通自動車の運転免許を取得し、そのことが学校に発覚した際にも顕著な反省を示さず、3年生であることを特に考慮して学校が厳重に注意に付するにとどめたにもかかわらず、その後まもなく校則に違反してパーマをかけ、そのことが発覚した際にも反省がないとみられて仕方がない態度
生徒に対してされた自主退学の勧告に違法があるとはいえない。

公立中学校の教員らが女子生徒の頭髪を黒色に染色した行為について、教育的指導の範囲を逸脱したものとはいえず、学校教育法11条ただし書にいう体罰にも当たらない⇒中学校を設置管理する地方公共団体の国家賠償責任が否定。
(大阪地裁H23.3.28)

●文献:判タ

判例時報2524・2525

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東海第二原発運転差止請求事件第1審判決

水戸地裁R3.3.18

<事案>
茨城県東海村所在の東海第二発電所に関して、その周辺に居住する者等であるXらが、本件発電所を設置する電力会社であるY(日本原子力発電㈱)に対し、本件発電所の原子炉の運転により人格権が侵害される具体的危険がある⇒人格権に基づき、原子炉の運転の差止めを求めた。

<争点>
①核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律が違憲無効であることを理由とする差止めの可否
②人格権に基づく原子炉院展差止請求における要件等
③基準時地震動の策定
④耐震安全性
⑤津波に対する安全確保対策等
⑥火山(気中降下火砕物)に対する安全確保対策
⑦事故防止に係る安全確保対策等
⑧立地審査及び避難計画
⑨東海再処理施設との複合災害の危険性
⑩経理的基礎の要件の範囲及びその有無等

<判断>
前記②の争点について
①発電用原子炉施設が、原子炉の運転により人体に有害な放射性物質を多量に発生させることが不可避であり、これを封じ込め管理し続けることができなければ安全とはいえない⇒その設置者には、高度な科学技術により原子炉を制御し放射性物質を安全に管理することが求められる。
②原子炉運転中に事故の要因となる自然災害等の事象の発生に対する予測を確実に行うことはできず、いかなる事象が生じたとしても放射性物質が周辺の環境に絶対に放出されることのない絶対的安全性を確保することは、現在の科学技術水準においても達成困難⇒IAEAは、深層防護の考え方を採用。
③わが国の原子力基本法は、原子力利用の安全の確保について確立された国際的な基準を踏まえるものとし、原子力規制委員会も、この考え方を踏まえ、設置許可基準規制において第1から第4までの防護レベルに相当する安全対策を規定し、避難計画等の第5の防護レベルに相当する安全対策については、災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法によって講じるものとしている。

深層防護の第1から第5までの防護レベルのいずれかが欠落し又は不十分な場合には、当該発電用原子炉施設は安全とはいえず、周辺住民の生命、身体が害される具体的危険がある。

第1から第4までの防護レベルに相当する事項:
原子力規制委員会設置法及び原子炉等規制法により、原子力利用における安全確保に係る施策を一元的につかさどり、専門的知見に基づき、中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会の許認可が必要とされており、同委員会の専門的技術的裁量に委ねられていると解される

発電用原子炉施設の設置(変更)許可等の許認可がされている場合には、具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該発電用原子炉施設の設置(変更)許可等の申請が同審査基準に適合するとした同委員会の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められない限りは、当該許認可の要件に係る安全性が備わっているものと認めるのが相当。

第5の防護レベル:
原子力災害特別措置法に基づき定められた原子力災害対策指針がその中核を成している。

・・・そのような自然現象による原子力災害を想定した上で、実現可能な避難計画が策定され、これを実行し得る体制が整っていなければ、PAZ及びUPZ内の住民との関係で、第5の防護レベルが達成されているとはいえず、人格権侵害の具体的危険がある。

・・・・大規模地震等の自然災害を前提として実行可能な避難計画が策定されているとはいえない状況にある。

原子力災害対策指針の想定する段階的避難等の防護措置が実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態にあり、Xらのうち、PAZ及びUPZ内の住民である者については、人格権侵害の具体的危険がある。

<解説>
●原子力発電所に係る運転差止請求の要件等
原子炉設置許可処分の取消訴訟において
最高裁H4.10.29:
原子力委員会(当時)等が調査審議に用いた具体的審査基準に不合理な点があるか、あるいは当該原子炉施設が前記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会等の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がある⇒それに依拠してなされた行政庁の同処分は違法
その立証責任は、本来原告が負うべき
but
行政庁において、前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、行政庁がこれを尽くさない場合には、行政庁の判断に不合理な点があることが事実上推認される。

人格権に基づく原子炉運転差止請求の要件である「具体的危険」の内容について、
深層防護の各防護レベルのいずれかに不十分な点があることと解釈して、第5の防護レベルに位置付けられる避難計画や立地審査の問題について、具体的危険を左右する問題の1つとして明確に取り上げた。

● 避難計画
避難計画にについて、原子力災害対策指針の想定する段階的避難が実現可能な避難計画が策定され、それを実行し得る体制が整っていなければならない。

判例時報2524・2525

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