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2022年9月 7日 (水)

暴行被告事件で無罪確定⇒捜査段階で取得された指紋、DNA型、顔写真のデータ等の抹消請(一部認容事案)

名古屋地裁R4.1.l8

<事案>
甲事件:
X(無罪確定)が、
Y1(愛知県)に対し、警察官の本件暴行事件に係る現行犯人逮捕、捜索差押及び取調べに違法がある
Y2(国)に対し、検察官の本件暴行事件に係る勾留請求、勾留機関延長請求及び公訴の提起に違法がある
⇒それぞれ国賠請求を求めるとともに、
Y2に対し、捜査機関が本件暴行事件に係る捜査の際に取得したXの指紋、DNA型、顔写真及び携帯電話の各データの抹消を求めた。

乙事件:
Xが、Y3が本件暴行事件に関し虚偽の被害申告を行った等と主張し、Y3に対しては不法行為に基づき、Y4社に対しては使用者責任に基づき、損害賠償を求めた。

<判断>
●国賠請求・損害賠償請求は棄却。
本件各データの抹消請求については、Xの指紋、DNA型及び顔写真の各データ(「本件3データ」)の抹消の限度でこれを認容。その余(携帯電話のデータの抹消)を棄却。

●本件3データの抹消請求
捜査機関が捜査の過程で取得した被疑者の指紋、DNA型及び顔写真の保管・管理等に関し、警察法81条及び警察法施行令13条1項の委任を受けて国家公安委員会が定めた、指紋掌紋取扱規則、DNA型記録取扱規則及び被疑者写真の管理及び運用に関する規則(「指紋掌紋規則等」)について、次のような解釈論を展開。
指紋掌紋規則等によれば、捜査機関が捜査の過程で取得した被疑者の指紋、DNA型及び顔写真は、それぞれ指紋掌紋記録、被疑者DNA型記録、被疑者写真記録(「指紋掌紋記録等」)によって保管・管理されるところ、同規則は、指紋掌紋等を抹消しなければならない場合として
指紋掌紋記録等に係る者が死亡したときのほか
指紋掌紋記録等を保管する必要がなくなったときを掲げる。

指紋、DNA型及び容貌・姿態に係る被疑者写真をみだりに使用されない自由が保障される。
諸外国の立法例等も援用しながら、これらをデータベース化することで半永久的に保管し、使用することが国民に対する権利の侵害であると捉えられることを指摘。

指紋、DNA型及び被疑者写真を取得する前提となった被疑事実について、公判による審理を経て、犯罪の証明がないと確定した場合については、継続的保管を認めるに際して、データベース化の拡充の有用性という抽象的な理由をもって、犯罪捜査に資するには不十分であり、余罪の存在や再犯のおそれ等があるなど、少なくとも、当該被疑者との関係でより具体的な必要性が示されることを要するというべきであって、これが示されなければ、「保管する必要がなくなった」と解すべき。
本件の事実関係の下では、前記具体的な必要性についての立証がない。

前記「保管する必要がなくなった」の要件に該当する場合においては、人格権に基づく妨害排除請求として抹消を請求できる
⇒本件3データの抹消を肯定。

●携帯電話のデータの抹消請求
同データの保管は刑事確定訴訟記録法又は記録事務規定を根拠とするもの。
これらの規定による記録の保管が過去に行われた刑事裁判や捜査の記録を一定期間保管しておくことを目的とするもの
本件暴行事件の捜査のために携帯電話のデータを提供したことについてのXの承諾の範囲を超えて、同データの保管がなされているとはいい難い⇒同データの抹消を否定

<解説>
裁判例には、
判決が、国又は公共団体の保有する個人に関する情報の収集手続に違法があり、国または公共団体が当該情報の保管、利用を継続することが社会通念上許容されないと認められる場合には、当該個人は、人格権に基づき、当該情報の抹消を請求することができると解すべきである旨判示するもの(東京地裁)。
犯罪の証明がなかったことが確定した後にまで、本人の明示的な意思に反して、指紋及びDNA型並びに撮影した写真を保管して別の目的に使用することは、これらを保管して別の目的に使用することについて高度の必要性が認められ、かつ、社会通念上やむを得ないものとして是認される場合に当たらない限り、人格権に基づく妨害排除請求として、当該指掌紋記録等の抹消を請求することができる(東京高裁)。

判例時報2522

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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