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2022年9月 6日 (火)

墓地、埋葬等に関する法律10条1項に基づく経営許可の取消訴訟と周辺住民の原告適格(否定)

大阪地裁R3.5.20

<事案>
(1)大阪市長が墓地、埋葬等に関する法律10条1項に基づきA寺に対してした納骨堂経営許可処分について、付近に居住する者等であるXらが、法に定める納骨堂経営許可に係る基準を満たしておらず違法である⇒Y(大阪市)を相手に、本件許可処分の取消を求めるとともに、

(2)大阪市長が法10条2項に基づきA寺に対してした2件の納骨堂経営変更許可処分について、Xらのうちの一部の者が、違法な本件許可処分を前提とするものであって違法であるなどと主張し、Yを相手に、本件各変更許可処分の取消しを求めた

<判断>
● Xらに原告適格が認められない⇒いずれも却下。

行訴法9条1項の「法律上の利益を有する者」は、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
処分の相手方以外の者について前記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮する際には、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌すべきである。

以下の(1)~(5)など判示の事情の下においては、法及びこれと目的を共通にする本件細則が、納骨堂周辺に居住または勤務する者の
①生活環境に関する利益、②生命、身体の安全に関する利益、③納骨堂周辺に不動産を所有する者の財産的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない⇒Xらは原告適格を有しない。
(1)本件細則8条が保護しようとしている生活環境の具体的な内容をうかがわせる規定は存在せず、納骨堂の付近の良好な生活環境を確保するための具体的な構造設備基準を定めた規定も存在しない
(2)・・・従前の宗教的感情と適合した生活環境を享受する利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨をうかがわせる規定は存在しない。
(3)納骨堂が設置、経営されることに基因して周辺住民に社会通念上受忍すべき限度を超える精神的苦痛が生ずるということは困難
(4)・・・外部で発生した火災によって納骨堂に収蔵された焼骨が損傷等することを防止することにあると解される。
(5)・・・納骨堂周辺に不動産を所有する者が火災による所有権の侵害を免れる利益、当該不動産価格の下落を受けない利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。

<規定>
行訴法 第九条(原告適格)
 
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

<解説>
処分の取消の訴えにおける原告適格:処分の取消しの訴えにおいて、その処分の取消しを求めて出訴することのできる資格。
原告適格のない者が提起した処分の取消しの訴えは不適法⇒却下。

処分の相手方以外の第三者のうち、どのような者について、その処分の取消しの訴えの原告適格が認められるか?
行訴法9条2項
周辺住民等が墓地、納骨堂の経営許可の取消しを求める訴えについてその原告適格の有無が争われた判例・裁判例。

①墓地等の設置場所の基準等を定めた条例等の趣旨・目的を参照することができるか
②考慮されるべき利益の内容・性質と判断手法をどのように考えるべきか、
③条例等の趣旨・目的を参酌して墓地等の周辺住民等に個別的利益を保護する趣旨を含むと解されるか
などが問題とされている。

本判決:
行訴法9条2項、小田急訴訟大法廷判決等の判断枠組みを前提として、本件細則が「関係法令」に該当するとした上で、その考慮されるべき利益を個別的に分析して当てはめたもの。

判例時報2522

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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