性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の合憲性(肯定)
最高裁R3.11.30
<事案>
性同一性障害者であるXが、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(「特例法」)3条1項に基づき、Xの性別の取扱いを男から女に変更する審判を求める申立てをした事案。
Xには未成年の子がいる⇒性別の取扱いの変更の審判の要件として「現に未成年の子がいないこと」を要求する特例法3条1項3号の規定の憲法13条、14条1項適合性が問題となった。
<原審>
3号要件は、現時点においては、合理性を欠くものとはいえない⇒国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項に違反するとはいえない。
<判断>
特例法3条1項3号の規定が憲法13条、14条1項に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである⇒特別抗告棄却。
<解説>
●個人単位の身分登録制度が採られている諸外国では、法的な性別変更について3号要件のような制度(子なし要件)を設けている立法例はみられない。
●平成19年両最決:
平成20年改正前の3号要件について、
現に子のある者について性別の取扱いの変更を認めた場合、家族秩序に混乱を生じさせ、子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえない⇒国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項に違反するものとはいえない。
●特別抗告理由:
3号要件は、
人が自己の心理的・社会的・身体的状況とは異なる法律上の地位に置かれている状態から是正・回復される自由ないし権利、又は
人が子を産み、育てる自由ないし権利、家族を形成する自由ないし権利
を侵害するものとして憲法13条に違反する。
3号要件は、未成年子を持つ性同一性障害者と未成年子を持たない性同一性障害者とを不合理に差別するものとして憲法14条に違反する。
南野監修:
法令上、性別が、基本的に生物学的な性別によって客観的に決定されるものであり、個人の意思によって左右されるべきものではない以上、その法的な取扱いとの関係において、憲法13条が「性別に関する自己決定権」などといったものまで権利として保障しているとはにわかに考えることはできない。
一定の重要な私的事柄について公権力から干渉されることなく決定できることと、私的なものであるだけでなく公的な側面も持つ性別について、法的な変更を求めることには、やはり径庭があることが考慮されるべき⇒憲法13条違反はない。
●立法目的:
平成20年改正により「女である父」や「男である母」が生ずるようになったとしても、成年子の父・母の限度であって、それにより、未成熟子の養育ということで問題となる「女である、未成年子の父」や「男である、未成年子の母」が生ずるようになったものではなく、これが生ずることに対する家族秩序の混乱防止ということは一定程度残る。
また、未成年子にとっての家庭環境に係る家族秩序の維持は、子の福祉にも関連するものとみることもできる。
規制手段:
「子の福祉」の保護という立法目的を達成する規制手段としての合理性について、
「子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえない。
but
宇賀:未成年の子の福祉への配慮という立法目的を達成するための手段として合理性を欠いている。」
●宇賀裁判官反対意見:
「人がその性別の実態とは異なる法律上の地位に置かれることなく自己同一性を保持する権利」が憲法13条により保障されている。
3号要件は同権利を侵害するものとして同条に違反する。
判例時報2523
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