被爆者援護法での放射線起因性の判断
大阪高裁R3.5.13
<事案>
Xが厚労大臣に対し、被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請を受けるため、心筋梗塞を申請疾病として原爆症認定申請⇒却下する旨の処分⇒Y(国)に対し、同却下処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償として慰謝料等の支払を求めた。
<判断>
●放射線起因性を肯定し、また、要医療性も肯定して、原判決を取り消して、Xの請求を認容。
(国賠請求部分については控訴を棄却)
●放射線起因性の判断手法について、
①当該被爆者の放射線への被ばくの程度と
②統計学的又は疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被ばくとの関連性の有無及びその程度とを中心的な考慮要素としつつ、これに
③当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を
総合的に考慮して判断するという枠組み。
●
①(放射線被ばくの程度)について
当該申請者の被ばく状況、被爆後の行動・活動の内容、被爆後に生じた症状、健康状態等に照らし、様々な形態での外部被ばく及び内部被ばくの可能性の有無を十分に検討する必要がある旨を説示した原判決を引用しつつ、
Xが原爆投下から100時間以内に爆心地から約1.1~1.2㎞の地点に入って2日間滞在していたといった被ばく状況⇒残留放射線による外部被ばくのみならず、相当の内部被ばくをした可能性がある。
①・・・すり傷程度の怪我で化膿し、酷い場合にはその化膿が骨まで見えるほどに至っていた
②・・・結膜炎の治療を受けていた右眼を摘出され、義眼となっていたといった症状
③放射線被ばくが長期にわたり好中球等の機能低下を引き起こすことを示唆する複数の知見が存在
④被ばくによる好中球等の機能低下により免疫不全に陥ったこと以外に通常は生じることのない重篤な症状がXに繰り返し生じた原因が見当たらない
⇒
Xのこうした各症状は、放射線被ばくの影響により抵抗力(好中球機能)が低下したことにより生じたものと推認することできるとした上、Xが健康に影響を及ぼす程度の放射線被ばくを受けた。
●
②の統計学的又は疫学的知見等に基づく申請疾病等との関連性の有無及びその程度については、
疫学的知見に基づいて心筋梗塞と放射線被ばくとの関連性を肯定。
●
③について、
Xの年齢、脂質異常症及びっ高血圧症の程度が高いといった危険因子が複数認められる
but
①これらの危険因子が相乗的に心筋梗塞発症の危険性を高めたこと自体は否定しがたいものの、加齢の程度や、脂質異常症及び高血圧症については放射線被ばくとの関連性を肯定する報告がいずれも複数存在
②被爆当時のXの年齢やXが健康に影響を及ぼする程度の線量の被ばくをしたこと
⇒
これらの危険因子は、放射線の影響がなくとも当該疾病が発症していたことを裏付けるものとまでいえるものではない。
●
⇒放射線起因性該当性を肯定
<解説>
放射線起因性の有無は、個別の考慮要素に係る事実認定の有無及びこれに対する評価によって個別具体的に判断されている。
・放射線被ばくの程度に関する事情として被ばく後の急性症状、病歴等については、放射線の強い影響を示唆する症状等が認められることを1つの事情として放射線起因性を肯定した複数の裁判例。
・心筋梗塞を申請疾病とする被爆者について、年齢、喫煙歴、脂質異常症等の危険因子を考慮しても放射線起因性は否定しない(大阪地裁)
前記の各危険因子のほか糖尿、腎臓炎の危険因子が認められることを考慮して放射線起因性を否定(控訴審の大阪高裁)
判例時報2522
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