任意同行が実質的な逮捕に当たる⇒制限時間の不遵守⇒勾留請求等を却下
富山地裁R2.5.30
<事案>
被害者が遺体で発見⇒5月5日、発見番所近くのアパートで被害者と同居していた被疑者を警察署に任意同行。
その後、同月11日に被疑者を死体遺棄の被疑事実で通常逮捕するまでの間、捜査官は、被疑者を連日ホテルに宿泊させ、被疑者に付き添って警察署に任意同行して取調べを行った。
被疑者は逮捕後の同月13日から勾留されたが、同月26日、同勾留は(任意同行が実質的な逮捕に当たるとして)準抗告で取り消され、同月27日釈放。
被疑者は、同日、殺人の本件被疑事実により通常逮捕⇒勾留請求及び接見等禁止請求をいずれも却下⇒検察官が準抗告。
<判断>
準抗告棄却。
捜査官が手配したホテルに6夜にわたり被疑者を宿泊させ、捜査官がホテルの客室前に張り込んで被疑者の動静を監視し、警察署との往復時は捜査官が付き添い、その期間中、連日、長時間にわたり取調べが行われた⇒被疑者としては任意同行を拒んだり取調中に帰宅するなどできたとはいえず、実質的に逮捕と同時し得る状況。
その後死体遺棄の被疑事実による逮捕を経ているものの、
殺人の被疑事実との関連性や作成された捜査関係書類の内容等
⇒その実質的な逮捕の被疑事実には、死体遺棄だけでなく本件の被疑事実である殺人も含まれていたと評価できる。
⇒本件勾留請求は、実質的な逮捕の時点から計算して制限時間不遵守の違法が認められる。
当初の実質的な逮捕の状態は、その後の死体遺棄の被疑事実による通常逮捕、勾留という経過を経て一旦解消されたという見方。
vs.
当初の実質的逮捕の被疑事実に殺人も含まれる⇒その後の殺人の被疑事実による通常逮捕は再逮捕といえる。
先行手続の違法性の重大さ⇒この再逮捕は違法。
<解説>
●任意同行と実質的逮捕
◎ 任意同行の形式がとられていても実質的に逮捕と評価すべき場合:
任意同行後の一定の時点を逮捕の始期と認定した上、
①その時点における逮捕の要件
②その時点から送致・勾留請求までの時間的制限の遵守
の点を検討して勾留の許否を判断(実務)。
◎ 身体の自由を拘束する強制処分を、現行犯逮捕の要件もないのに令状によらずに行っている⇒本来違法
but
実質的逮捕の時点で適法な逮捕が可能であり、しかも逮捕後の制限時間も超過していない場合は、警察官が法の執行方法の選択ないし捜査の手順を誤ったものにすぎず、令状主義の理念からして勾留を許さないほどに重大な瑕疵ではない、という評価。
but
①又は②が満たされない⇒そのような救済の余地はなく勾留請求は違法。
②の制限時間不順守を理由に勾留請求を却下した裁判例は相当数にのぼる。
◎ 任意同行が実質的逮捕に当たるか否かの判断:
被疑者の同行許否や退去希望の意思・態度、任意同行を求めた場所・時間、同行﨑までの距離、同行の方法、同行後の取調時間や被疑者に対する監視状況等を総合的に判断して行われる。
本件:
捜査官が手配したホテルに6夜にわたり被疑者を宿泊させ、その間、捜査官がホテルの客室前付近廊下に張り込んで被疑者の動静を監視した。
最高裁昭和59.2.29:高輪グリーンマンション・ホステス殺人事件は、あくまで任意捜査としての適法性が問題とされたもので、本件とは事案が異なる。
本件:
ホテルから警察署までの捜査官の付添い、
長時間の取調べ等に加え、
この客室前付近での張込みが行われていた点が重視され、
実質的な逮捕があたっと判断された。
●実質的逮捕の被疑事実
本件:
任意同行⇒いったん死体遺棄の被疑事実による通常逮捕・勾留⇒勾留取消し⇒殺人の被疑事実で通常逮捕。
実質的逮捕の被疑事実が死体遺棄に限定⇒死体遺棄の勾留を違法とするにとどまり、殺人の被疑事実による逮捕・勾留の適法性に影響しない。
⇒
任意同行が実質的逮捕に当たる場合の被疑事実は何か、という問題。
本判決:
①両事実が密接に関連
②任意同行時から既に被疑者に対して本件殺人の嫌疑がかけられていた
③任意同行中の取調べ等の捜査の内容
⇒実質的な逮捕の被疑事実には本件殺人も含まれていたと評価できる。
実質的逮捕の被疑事実に殺人も含まれる⇒死体期による逮捕・勾留を経てなされた本件殺人による通常逮捕は、同一事実による再逮捕。
本判決:
司法の廉潔性・違法捜査抑止の観点から、違法な再逮捕として許されない。
①本件勾留請求に直接前置された殺人による通常逮捕が違法⇒本件勾留請求も違法
②任意同行開始後違法な身柄拘束が継続⇒制限時間不遵守の違法(本判決)
判例時報2523
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