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2022年9月

2022年9月21日 (水)

任意同行が実質的な逮捕に当たる⇒制限時間の不遵守⇒勾留請求等を却下

富山地裁R2.5.30

<事案>
被害者が遺体で発見⇒5月5日、発見番所近くのアパートで被害者と同居していた被疑者を警察署に任意同行。
その後、同月11日に被疑者を死体遺棄の被疑事実で通常逮捕するまでの間、捜査官は、被疑者を連日ホテルに宿泊させ、被疑者に付き添って警察署に任意同行して取調べを行った。
被疑者は逮捕後の同月13日から勾留されたが、同月26日、同勾留は(任意同行が実質的な逮捕に当たるとして)準抗告で取り消され、同月27日釈放。
被疑者は、同日、殺人の本件被疑事実により通常逮捕⇒勾留請求及び接見等禁止請求をいずれも却下⇒検察官が準抗告。

<判断>
準抗告棄却。
捜査官が手配したホテルに6夜にわたり被疑者を宿泊させ、捜査官がホテルの客室前に張り込んで被疑者の動静を監視し、警察署との往復時は捜査官が付き添い、その期間中、連日、長時間にわたり取調べが行われた⇒被疑者としては任意同行を拒んだり取調中に帰宅するなどできたとはいえず、実質的に逮捕と同時し得る状況。
その後死体遺棄の被疑事実による逮捕を経ているものの、
殺人の被疑事実との関連性や作成された捜査関係書類の内容等
⇒その実質的な逮捕の被疑事実には、死体遺棄だけでなく本件の被疑事実である殺人も含まれていたと評価できる。
本件勾留請求は、実質的な逮捕の時点から計算して制限時間不遵守の違法が認められる。

当初の実質的な逮捕の状態は、その後の死体遺棄の被疑事実による通常逮捕、勾留という経過を経て一旦解消されたという見方。
vs.
当初の実質的逮捕の被疑事実に殺人も含まれる⇒その後の殺人の被疑事実による通常逮捕は再逮捕といえる。
先行手続の違法性の重大さ⇒この再逮捕は違法。

<解説>
●任意同行と実質的逮捕
◎ 任意同行の形式がとられていても実質的に逮捕と評価すべき場合:
任意同行後の一定の時点を逮捕の始期と認定した上、
①その時点における逮捕の要件
②その時点から送致・勾留請求までの時間的制限の遵守
の点を検討して勾留の許否を判断(実務)。
◎ 身体の自由を拘束する強制処分を、現行犯逮捕の要件もないのに令状によらずに行っている⇒本来違法
but
実質的逮捕の時点で適法な逮捕が可能であり、しかも逮捕後の制限時間も超過していない場合は、警察官が法の執行方法の選択ないし捜査の手順を誤ったものにすぎず、令状主義の理念からして勾留を許さないほどに重大な瑕疵ではない、という評価。
but
①又は②が満たされない⇒そのような救済の余地はなく勾留請求は違法。
②の制限時間不順守を理由に勾留請求を却下した裁判例は相当数にのぼる。

◎ 任意同行が実質的逮捕に当たるか否かの判断:
被疑者の同行許否や退去希望の意思・態度、任意同行を求めた場所・時間、同行﨑までの距離、同行の方法、同行後の取調時間や被疑者に対する監視状況等を総合的に判断して行われる。

本件:
捜査官が手配したホテルに6夜にわたり被疑者を宿泊させ、その間、捜査官がホテルの客室前付近廊下に張り込んで被疑者の動静を監視した。

最高裁昭和59.2.29:高輪グリーンマンション・ホステス殺人事件は、あくまで任意捜査としての適法性が問題とされたもので、本件とは事案が異なる。

本件:
ホテルから警察署までの捜査官の付添い、
長時間の取調べ等に加え、
この客室前付近での張込みが行われていた点が重視され、
実質的な逮捕があたっと判断された。

●実質的逮捕の被疑事実
本件:
任意同行⇒いったん死体遺棄の被疑事実による通常逮捕・勾留⇒勾留取消し⇒殺人の被疑事実で通常逮捕。
実質的逮捕の被疑事実が死体遺棄に限定⇒死体遺棄の勾留を違法とするにとどまり、殺人の被疑事実による逮捕・勾留の適法性に影響しない。

任意同行が実質的逮捕に当たる場合の被疑事実は何か、という問題。

本判決:
①両事実が密接に関連
②任意同行時から既に被疑者に対して本件殺人の嫌疑がかけられていた
③任意同行中の取調べ等の捜査の内容
⇒実質的な逮捕の被疑事実には本件殺人も含まれていたと評価できる。
実質的逮捕の被疑事実に殺人も含まれる⇒死体期による逮捕・勾留を経てなされた本件殺人による通常逮捕は、同一事実による再逮捕。

本判決:
司法の廉潔性・違法捜査抑止の観点から、違法な再逮捕として許されない。
本件勾留請求に直接前置された殺人による通常逮捕が違法⇒本件勾留請求も違法
②任意同行開始後違法な身柄拘束が継続⇒制限時間不遵守の違法(本判決)

判例時報2523

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2022年9月20日 (火)

3名の共謀による強制わいせつ致傷で無罪の事案

千葉地裁R3.7.15

<事案>
3名の共謀による強制わいせつ致傷の事案
直接立証する証拠はQ(被害者)証言のみ。

<判断>
Q証言及びこれと対応する被告人ら3名の供述の概要を述べた上で、Q証言の信用性について詳細な検討。

Q証言の外部的事情:
Qの属性が事実と異なる話をすることに心理的抵抗が少ない人物
虚偽供述をする動機となり得る事情が複数想定される
⇒その信用性判断は慎重にしなければならない。

Q証言自体に関する点:
証言内容の具体性・一貫性につき、被害態様・被害場所・出来事の順序があいまいであり合理的に説明できない変遷がある
客観的事実との整合性につき、説明できない不整合がある。
⇒その信用性に疑問が残る。

被告人ら3名の公判供述の信用性:
事件当時の被告人らのメールのやり取りや捜査段階の供述からの変遷を考慮しても、概ねそれらは信用できる。

Q証言の信用性に疑問があり、被告人ら3名の弁解は概ね信用できる⇒無罪。

判例時報2523

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2022年9月19日 (月)

メルカリでの#原告の登録商標について、商標的使用に当たるとして差止請求が認容された事案

大阪地裁R3.9.27

<事案>
本件商標権を有する原告が、被告が「メルカリ」条に開設した被告サイトに表示した「#シャルマンとサック」(被告標章1)または「シャルマンとサック」(被告標章2)が本件商標と同一ないし類似し、被告サイトにおいて被告が販売する被告商品は本件商標権の指定商品と同一である⇒本件商標権に基づき、被告サイトにおける被告標章1または被告標章2の表示行為の差止め(商標法36条1項)を求めた。

<争点>
被告がメルカリ上に開設した被告サイトに表示した「#シャルマンとサック」(被告標章1)または「シャルマンとサック」(被告標章2)の商標的使用の有無

<判断>
被告サイトは、そこで被告商品を含む商品が表示され、販売されている⇒被告の商品に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するもの。
このような被告サイトに被告標章1を表示することは、商標の「使用」に当たる(商標法2条3項8号)

「メルカリ」における具体的取引状況
⇒被告サイトにおける被告標章1の表示行為は、メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより、被告サイトへ当該利用者を誘導し、当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる。
・・・・被告サイト中に「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することとなり、これには、「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当然に含まれ得る。
・・・・被告サイトにおける被告標章1の表示は、需要者にとって、出所識別標識および自他商品識別標識としての機能をはたしているものとみられ、商標的使用がされている⇒被告サイトにおける被告標章1の表示の差止めについて、原告の請求を認容

<解説>
メルカリ社:
メルカリサービスを利用して商品を販売しようとする利用者に対して、禁止されている出品物を規約に定めており、その中には知的財産権を侵害するものが、従来から規定されている。

令和2年9月1日付けの改定で、その具体的な違反行為の説明として、
・商品名や商品説明に、権利侵害の恐れがあるブランド名やキャラクター名を記載すること(××風、××系、××タイプなど)
・商品名や商品説明に、商品とは無関係のブランド名やキャラクター名(類似するブランド、キャラクターも含む)を記載すること
・事務局が特定のブランドを想起すると判断した商品
の3項目を追加。

プラットフォーム事業者としてのメルカリ社が正当な知的財産権利者から指摘を受けた際に、速やかに出品されている商品の削除や当該出品者のサービス利用制限措置が取れるようにも機能。

判例時報2523

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2022年9月15日 (木)

商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合と不正競争防止法の「商品等表示」該当性

東京地裁R4.3.11

<事案>
原告らが、被告商品は周知著名な原告表示と類似した商品等表示を使用した商品であり、被告商品の製造、販売及び販売のための展示は、原告商品と混同を生じさせるなど、不正競争防止法2条1項1号及び2号に掲げる不正競争に該当

不正競争法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造、販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに、
不正競争法4条に基づき、損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求めた。

<規定>
不正競争防止法 第二条(定義)
 
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

<争点>
原告表示が不正競争法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するか否か。

<判断>
●原告表示の商品等表示該当性
◎判断基準
商品の形態(色彩を含むものをいう。)が商品等表示に該当するか否かの判断基準につき、商品の形態は、
客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴「特別顕著性」)を有しており、かつ
②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知「周知性」、特別顕著性と併せて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、
不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。

商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合という場面設定をした上、当該表示の商品等表示該当性につき、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、前記商品に関する表示は、全体として不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。

◎原告表示の商品等表示該当性
①靴という商品において使用される会解離と・・・典型的な色彩の1つであり、靴底に赤色を付すことも通常の創作能力の発揮において行い得るものであって、このことはハイヒールの靴底であっても異なるところはない。
②・・・現在、一般的なデザインとなっているものといえる。

原告表示は、それ自体、特別顕著性を有するものとはいえない

日本における原告商品の販売期間は、約20年にとどまり、それほど長期間にわたり販売したものとはいえず、
原告会社は、いわゆるサンプルトラフィッキングを行うにとどまり、自ら広告宣伝費用を払ってテレビ、雑誌、ネット等による広告宣伝を行っていない事情等を踏まえても、極めて強力な宣伝広告が行われているとまではいえない。

原告表示は、周知性の要件を充足しない。
原告表示は、出所表示要件を充足するものとはいえず、不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当するものとはいえない。

原告表示は・・・原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付された唯一の色彩である原告赤色も、それ自体特別な色彩であるとはいえない
被告商品を含め、広範かつ多数の商品形態を含むもの。

原告商品の靴底は革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしている・・・いわばマニキュアのような光沢がある赤色
被告商品の靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため・・・光沢のない赤色

原告商品の形態と被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にする
少なくとも被告商品の形態は、原告商品が提供する高級ブランド品としての価値に鑑みると、原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない。
原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しない⇒原告表示は、全体として不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。


①取引の実状に加え、②原告商品と被告商品の各形態における靴底の光沢及び質感における顕著な相違
⇒原告商品と被告商品とは、需要者において出所の混同を生じさせるものと認めることはできず、
不正競争法2条1項1号にいう不正競争に明らかに該当しない。

<規定>
商標法 第三条(商標登録の要件)
 
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

2前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

<解説>
単一の色彩のみからなる商標につき、商標法3条2項該当性を否定した裁判例として知財高裁R2.8.19:
商品の色彩は、商品の特性⇒商標法3条1項3号所定の「その他の特徴」に該当。
商品の色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美感を高めるために適宜選択されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保するために必要とされるものもある⇒取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するもの⇒原則として何人も自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみからなる商標については、同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされることの趣旨が妥当する。

不正競争防止法2条1項1号又は2号についての判断にも、同様に妥当。

判例時報2523

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2022年9月14日 (水)

還付しすぎた住民税の返還を求める不当利得返還請求権への延滞金条例の適用(否定)

大阪地裁R3.10.13

<事案>
地方公共団体であるX(大阪府摂津市)は、住民であるYに対し、住民税の株式等譲渡所得割額及び配当割額の控除不足額を還付する差異、誤って一桁多い還付額を通知⇒最終的に本来の還付額よりも1502万円多い還付。

Xは、
主位的に、本件還付金の返還を求める不当利得返還請求権(「本件不当利得返還請求権」)は公法上の法律関係に基づいて発生する債権である⇒公法上の不当利得返還請求権に基づく本件過還付金の返還並びにY諸収入金に係る督促手数料及び延滞金に関する条例に基づく督促手数料及び延滞金等の支払を請求
予備的請求として、民法704条に基づき本件過還付金の返還及び利息の支払を請求

本件不当利得返還請求権によって返還される金銭は、地自法231条の3第2項を受け手定められた本件延滞金条例1条にいう分担金、使用料、加入料、手数料、過料その他の市の収入金(「諸収入金」)に当たる⇒本件延滞金条例に基づく督促手数料や延滞金(納期限の翌日から1月を経過する日までの期間については7.3%、以降は14.6%)の支払を求め、
Yは本件延滞金条例の適用を争った。

<判断>
●本件延滞金条例は、地自法231条の3第2項のいう条例に該当し、Xの諸収入金の督促並びに督促手数料及び延滞金の徴収に関して定めるもの。
同項は、普通地方公共団体の歳入のうち、公法上の債権については、特に公平かつ確実な徴収が必要になる⇒その徴収のための手数料や延滞金につき私法上の債権とは異なる取扱いを条例で定めることを許容。

●・・・その返還の請求は、単に本件債務が存在しないにもかかわらずその弁済として支払った金銭の返還を求める請求⇒その法律関係は、法律上の原因のない利得につき、公平の理念に基づいてその調整を図る関係、すなわち民事上の不当利得関係にほかならない。
地税法は・・・・地方公共団体が納税者に対して、還付しすぎた金銭の返還を求める請求権については何ら定めを設けていない⇒法令において、還付金の過誤払によって生じた不当利得返還請求権を特に公法上の債権として取り扱っているとは解されない。

①本件過還付は、地税法の定める住民税の徴収及び還付手続において法令上特にその場合の定めを置いていない、私人間でも生じ得るような偶発的な事情によって生じたもの
②本件過還付がなければ、適正な住民税の徴収及び還付をもって、地税法が予定する税徴収手続(公法上の法律関係)は終了したといえるのであり、本件過還付があったことによる清算関係は、前記全徴収手続の枠外にあるというべき
⇒・・・公法上の法律関係の一環と評価するのは相当ではない。
本件不当利得返還請求権について民法上の不当利得を別異の扱いをすべき合理的理由も見当たらない

本件不当利得返還請求権は公法上の債権ではなく、民法に基づく不当利得返還請求権と解すべき⇒本件不当利得返還請求権は公法上の債権ではなく、普通地方公共団体の歳入(諸収入金)に当たらない⇒本件延滞金条例の適用はない。

<解説>
● 国や地方公共団体が有する金銭債権が公法上の債権に当たるかについては、
公法上の債権の消滅時効を5年とする会計法30条や地自法236条1項の適用を受けるか否かとの論点で検討。
国の普通財産の売払いに係る代金債権につき、その法律関係は本質上私法関係というべきであり、その結果生じた代金債権もまた私法上の金銭債権であって、公法上の金銭債権ではないとして、会計法30条の適用を否定した最高裁判決
地方公共団体の公立病院における診療に関する債権につき、公立病院において行われている診療は、私立病院において行われている診療と本質的な差異はなく、その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべき⇒地自法236条1項の適用を否定した最高裁判決。

● 一般に国または地方公共団体と納税者の課税関係は、典型的な公法関係。
⇒その課税手続の裏返しともいえる納税者の国又は地方公共団体に対する還付請求権や過誤納金返還請求権については、公法上の債権と解する見解が多い。
(民法の不当利得に関する規定及び法理が適用されると説く見解(金子))
but
本件は、納税者に対する還付が過大であった場合にその一部返還を求めるという、還付請求や過誤納金返還請求をさらに裏返したものともいえる本件不当利得返還請求権の性質が問題。

本判決:
(1)XとYの関係が住民税の徴収関係にあることを認定しつつ、さらに本件不等利得返還請求権が発生した原因について具体的な認定事実を基に検討し、本件過還付の原因が、賦課、更正等の行政庁が税額を確定・変更させる処分ではなく、Xの職員の単純な過誤であることに着目⇒XとYの法律関係は民事上の不当利得関係と異なるものではない。
(2)還付請求権や過誤納付金返還請求と異なり、地税法が還付しすぎた金銭の返還請求について何ら定めを設けていない
本件不当利得返還請求権は私法上の法律関係に基づく債権。

判例時報2523

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2022年9月13日 (火)

伊方原発3号機についての運転差止めを求めた仮処分命令申立事件(抗告審決定の取消し)

広島高裁R3.3.18

<事案>
発電用原子炉施設である伊方発電所から34~46キロの距離に住む住民Xらが、本件発電所3号機の原子炉及びその附則施設は、地震、火山の噴火等に対する安全性を欠く⇒本件発電所を設置、運用する電力会社であるY(四国電力)を債務者として、人格権に基づいて本件原子炉の運転の差止めを命じる仮処分命令を申し立てた。

<抗告審>
人格権に基づく原子炉の運転差止請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立てにおいては、債権者の生命、身体等に対する侵害を生ずる具体的危険があることの主張・疎明責任は債権者にある。
but
債権者において、原子炉の安全性の欠如に起因する事故により、自己の生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けると想定される地域に居住していることを疎明
⇒原子炉の設置運転主体である債務者において、前記具体的危険が存在しないことについて、相当の根拠、資料に基づいて主張・疎明しない限り、前記具体的危険の存在が事実上推定される。


⇒Yが前記具体的危険の不存在についての主張・疎明を尽くしたとはいえないとして、本案訴訟の第1審判決の言渡しまでの間、本件原子炉の運転の差止めを命じた。

Yが異議申立て。

<判断>
●司法審査の在り方
規制委員会は、審査の結果、基準に適合するとの判断を行ったものであるところ、
原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については現在の科学的知見では具体的に予測できないことから、・・・・これらは、想定が極めて難しい将来予測に係るものであることもあって、科学的には、直ちに、いずれの見解が正しいともいえないのが現状。
このような現状の下では、独自の科学的知見を有しない裁判所において、いかに福島第一原発の事故による影響の甚大性等を考慮しても、本件原子炉の存在及びXらの居住状況から直ちにXらの生命等が侵害される具体的危険があると事実上推認することは相当でない。
現在の科学的知見からして、本件原子炉の運転期間中に本件原子炉の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生する可能性が具体的に高く、これによってXらの生命、身体ンまたは健康が侵害される具体的危険があると認められなければ、本件原子炉の運転差止めを命じるという法的判断はできず、この疎明責任はXらが負う。

●地震に対する安全性
・・・Yによる基準地震動の算定が不合理であるとは認められない。

●火山事象の影響に対する安全性
阿蘇が本件原子炉の運転期間中その安全性に影響を及ぼすような規模の噴火を引き起こす具体的危険の有無については、専門家の間でもそれぞれの分析結果等に基づいて意見が分かれている。
このような現在の科学的知見からして、阿蘇が前記のような噴火を引き起こす可能性が具体的に高いと認めることはできない。

<解説>
本件と同じく(人格権に基づいて)原子炉施設の運転差止めを求める仮処分申立てがされた事案について

福岡高裁宮崎支部:
運転の差止請求が認められるためには、原子炉施設が安全性に欠けるところがあり、その運転に起因する放射線被ばくにより、住民らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することを住民側において疎明する必要がある。
but
住民が一定の地域に居住等する場合には、むしろ債務者において、規制委員会の適合性審査における具体的審査基準に不合理な点のないこと、規制委員会の判断過程に看過し難い過誤欠落のないことの主張・疎明を行うべきであり、これが尽くされなければ基準の不合理・判断過程の過誤欠落が事実上推定される。

伊方最高裁判決(設置運転許可の取消し等を求める行政訴訟)の判断枠組みを民事訴訟・仮処分申立てに反映させたもの。
vs.
行政基準の違反により直ちに人格権侵害が認められるかは議論があり
「社会通念」や「現在の科学技術水準」によって、定立された司法審査基準が変容し、このような司法審査基準をとることには限界があるのではないかという批判。

判例時報2523

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2022年9月12日 (月)

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の合憲性(肯定)

最高裁R3.11.30

<事案>
性同一性障害者であるXが、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(「特例法」)3条1項に基づき、Xの性別の取扱いを男から女に変更する審判を求める申立てをした事案。
Xには未成年の子がいる⇒性別の取扱いの変更の審判の要件として「現に未成年の子がいないこと」を要求する特例法3条1項3号の規定の憲法13条、14条1項適合性が問題となった。

<原審>
3号要件は、現時点においては、合理性を欠くものとはいえない⇒国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項に違反するとはいえない。

<判断>
特例法3条1項3号の規定が憲法13条、14条1項に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである⇒特別抗告棄却。

<解説>
●個人単位の身分登録制度が採られている諸外国では、法的な性別変更について3号要件のような制度(子なし要件)を設けている立法例はみられない。

●平成19年両最決:
平成20年改正前の3号要件について、
現に子のある者について性別の取扱いの変更を認めた場合、家族秩序に混乱を生じさせ、子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえない⇒国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項に違反するものとはいえない。

●特別抗告理由:
3号要件は、
人が自己の心理的・社会的・身体的状況とは異なる法律上の地位に置かれている状態から是正・回復される自由ないし権利、又は
人が子を産み、育てる自由ないし権利、家族を形成する自由ないし権利
を侵害するものとして憲法13条に違反する。

3号要件は、未成年子を持つ性同一性障害者と未成年子を持たない性同一性障害者とを不合理に差別するものとして憲法14条に違反する。

南野監修:
法令上、性別が、基本的に生物学的な性別によって客観的に決定されるものであり、個人の意思によって左右されるべきものではない以上、その法的な取扱いとの関係において、憲法13条が「性別に関する自己決定権」などといったものまで権利として保障しているとはにわかに考えることはできない
一定の重要な私的事柄について公権力から干渉されることなく決定できることと、私的なものであるだけでなく公的な側面も持つ性別について、法的な変更を求めることには、やはり径庭があることが考慮されるべき⇒憲法13条違反はない。

●立法目的:
平成20年改正により「女である父」や「男である母」が生ずるようになったとしても、成年子の父・母の限度であって、それにより、未成熟子の養育ということで問題となる「女である、未成年子の父」や「男である、未成年子の母」が生ずるようになったものではなく、これが生ずることに対する家族秩序の混乱防止ということは一定程度残る。
また、未成年子にとっての家庭環境に係る家族秩序の維持は、子の福祉にも関連するものとみることもできる。

規制手段:
「子の福祉」の保護という立法目的を達成する規制手段としての合理性について、
子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえない
but
宇賀:未成年の子の福祉への配慮という立法目的を達成するための手段として合理性を欠いている。」

●宇賀裁判官反対意見:
人がその性別の実態とは異なる法律上の地位に置かれることなく自己同一性を保持する権利」が憲法13条により保障されている。
3号要件は同権利を侵害するものとして同条に違反する。

判例時報2523

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2022年9月11日 (日)

海賊版サイトについて、広告主を募り広告料を同サイトに提供する行為が、著作権(公衆送信権)侵害の過失による幇助行為に当たると認められた事例

東京地裁R3.12.21

<事案>
漫画家である原告が、インターネット上の漫画閲覧サイトにおいて、原告の著作物である漫画(原告漫画)が無断掲載されて原告漫画にに係る公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されているところ、インターネット広告を取る扱う被告らが本件ウェブサイトに掲載する広告主を募り、本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料を支払う行為は、同管理者に本件ウェブサイトの運営資金を提供して前記公衆送信権の侵害を幇助する行為に当たる
被告らに対し、幇助の共同不法行為(民法719条2項、709条)に基づき、本件ウェブサイト上に原告漫画が掲載されたことによって減少した原告漫画の売上げに対応する印紙税相当額の損害の連帯支払を求めた。

<争点>
①被告らの幇助による共同不法行為の成否
②被告らの故意または過失の有無

<判断>
●争点①
・・・・本件ウェブサイトに広告を出稿して運営者側に広告料を支払うことは、その構造上、本件ウェブサイトのほとんど唯一の資金源を提供することになり、原告漫画をはじめ、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)に該当し、
被告らによる本件ウェブサイトへの広告出稿を募り、広告料支払を遂行した点は、客観的にも、主観的にも、共同して原告漫画の公衆送信権の侵害行為を容易ならしめる不法行為に該当
かかる共同不法行為によって、原告漫画の公衆送信権の侵害行為が助長され容易となり、これに因って、原告に原告漫画の売上減少等の損害が生じたということができる。

●争点②
①本件ウェブサイトについては、そこに掲載される多数の漫画が著作権の対象となるものであるにもかかわらず、利用者から利用料等の対価を徴収せず、広告料収入をほぼ唯一の資金源として運営されていた。
②広告業界においては、従前から違法な海賊版サイトにおいて広告料収入が資金源とされていることに対して早急に対策を強化する必要があるとの認識が共有されており、政府においても、漫画の海賊版サイトの急拡大に対する措置を講じる必要性やその方針が示されている状況にあった。
③原告漫画は需要者層に相当程度浸透していたこと等。

被告らにおいて、原告漫画が本件ウェブサイトに無断掲載されて公衆送信権侵害がされていることを予見することが可能

被告らにおいて本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することが困難であったことをうかがわせる事情も見当たらず、公衆送信権侵害を助長することを回避することが可能であった。

被告らは、本件ウェブサイトの運得hさに対し、そこに掲載している漫画の著作物の利用許諾を得て掲載しているかどうかを調査した上で本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていた。
被告らは取引先に対して積極的に本件ウェブサイトへの広告掲載についての営業活動を行うなどして、前記の注意義務に違反した

被告らが本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は、前記注意義務に違反した過失により行われたもの。

<規定>
民法 第七一九条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

<解説>
民法上、不法行為を幇助した者も、共同不法行為者として、不法行為責任を負う(719条2項)。
「幇助」直接の不法行為を助長ないし容易ならしめる行為をいい、また、故意による幇助行為のみならず、過失による幇助行為も認められる(裁判例)。
幇助は、あらゆる形態の行為を理念上含む。

本判決:
被告らの行為の幇助該当性につき、
本件ウェブサイトが著作権者の許諾を得ずに違法に漫画等の著作物を複製して掲載し、これを利用者において無料で閲覧することができるようにして利用者数を飛躍的に伸ばし、一方で、本件ウェブサイトに出稿する広告事業者からの広告料をほぼ唯一の資金源として賄われているという実体を踏まえ得てこれを認めている。

本判決の判断は、
最高裁H13.3.2(カラオケ装置を引き渡す際の音楽著作物の著作権侵害に係る注意義務違反を認めた事例)の趣旨を踏まえたものであるように思われる。

判例時報2522

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2022年9月 9日 (金)

電話ボックス様の水槽に水を入れて金魚を泳がせた作品の著作物性(肯定)

大阪高裁R3.1.14

<事案>
Xは、Y作品はX作品を複製したものであり、Xの著作権及び著作者人格権を侵害
⇒差止め及び損害賠償請求を求める訴えを提起。

<1審>
X作品の基本的な特徴は2点。
(1)公衆電話ボックス様の造作物を設置した状態で金魚を及ばせていることについては、これ自体はアイデアにほかならず、表現それ自体ではない。
(2)金魚の育成環境を維持するために、公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであることについては、もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想であり、アイデアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなる
⇒創作性を否定。

創作性がない部分については、著作物の複製に当たらない⇒Xの請求を棄却。

<判断>
●X作品の創作性
X作品の外観のうち、本物の公衆電話ボックスと異なる4つの点について検討
第1:X作品の電話ボックスの多くの部分に水が満たされていること
電話ボックスを水槽に見立てるという斬新なアイデアを形にして表現したもの
but
表現の選択の幅は水の量の差異にすぎない
⇒電話ボックスに水が満たされているという表現だけを見れば、そこに創作性があるとはいい難い。

第2:X作品の電話ボックスの側面の4面とも、全面がアクリルガラスであること。
・・・当該蝶番はそれほど目立つものではなく、鑑賞者にとっても注意をひかれる部位とはいい難く、この縦長の蝶番が存在しないという表現にX作品の創作性が現れているとはいえない。

第3:赤色の金魚が泳いでおり、その数は展示毎に変動するが、50~150匹程度
斬新なアイデアを形にして表現したものであり、泳がせる金魚の色と組合せによって、様々な表現が可能
but
50~150匹程度という金魚の数だけを見ると、創作性が現れているとは言えない

第4:X作品の公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生していること。
人が使用していない受話器が水中に浮いた状態で固定されていること自体、非日常的な情景を表現しているといえるとし、
受話器から気泡が発生することも本来あり得ない。
この状態は、電話を掛け、電話先との間で、通話をしている状態がイメージされており、鑑賞者に強い印象を与える表現として、個性が発揮されている。
前記第1~第3の点のみでは創作性は認められないが、第4の点を加えることによって、Xの個性が発揮されており、創作性がある。

美術の著作物に該当する。

●著作権侵害
X作品のとY作品の共通点及び相違点を比較
・・・点については、X作品の表現上の創作性のある部分と重なり、Y作品はX作品の「表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる」⇒Y作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとは言えない。
Y作品の制作者について:
Y1協同組合が、・・Y作品を主体的に設置して展示を行っており、Y2はY1協同組合の意向に従ってY作品を創作⇒Y1協同組合が主体となって、Y2と共同してY作品を制作。
Yらは、Y作品を制作するにあたり、X作品に依拠した。

<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

<解説>
どこまでがアイデアとされる「思想または感情」部分であり、どこからが「表現」であるかといった線引きが困難な場合がある。

判例時報2522

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債務の存在を争いながらの弁済の受領の催告と弁済の提供

東京地裁R3.8.30

<事案>
Xが、債務名義に表示されたYの請求権の全額についてXにおいて弁済を行い、Yの請求権が消滅したことを理由として、同債務名義の執行力の排除を求めた請求異議の事案

Xは、Yに対して、本件控訴審判決の認容額に遅延損害金を付した額から既払金を控除した金額について弁済の受領を催告したがYが受領を拒否したとして、法務局に供託。
その後、上告棄却・上告不受理決定で確定。
⇒Xに対し、本件控訴審判決の認容額に本件控訴審判決確定日までの遅延損害金を加えた金額から既払金を控除した金額等の支払いを請求。

<争点>
Xによる供託及び弁済の提供の有効性
①Xが本件控訴審判決に対して上告及び上告受理申立てを行っていたこと等⇒債務の存在を争いつつ行う給付が債務の本旨に従った弁済の提供といえるか?
弁済の提供に当たって、Yが不合理かつ不当な条件を附していたといえるか?
口頭の提供の前提となるあらかじめの受領拒絶があるといえるか?

<判断>
●争点①について
損害賠償債務という金銭債務について弁済の提供の時点における遅延損害金を含めた債務の全額について弁済の受領を催告⇒弁済の提供は、債務の客観的内容に従ったものであるとし、Xが債務の存在を争っているからといって直ちに債務の本旨に従った弁済の提供に当たらない

●争点②③について
弁済の提供においては何らの条件も付されておらず、
弁済の提供に当たって原告が不合理・不当な条件を付していたものとはいえない。
⇒あらかじめの受領拒絶がある。

●本件では、債務の一部についてのみ争いがあるにすぎず、債務名義全体について執行力の排除を求める必要はないとして訴訟費用の負担についても争われた。
but
Yの主張を踏まえてもXに訴訟費用の一部を負担させるべきものとまではいえない。

<規定>
民法 第四九三条(弁済の提供の方法)
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

民訴法 第二六〇条(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
2本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。

<解説>
●弁済の提供
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない(民法493条)

債務の本旨に従っているか否かは、当事者の意思、法律の規定、さらに信義則に従って解釈され、それは弁済者・弁済受領者・弁済の物体・弁済の場所・弁済の時期が債務の内容にかなっているか否かによって決せられる。
給付が客観的に債務内容に適合するならば弁済であるとみられる「債務の存在を条件として」という留保を付して弁済したからといって弁済の効力に特に影響はなく、債権者は留保付きであることをもって弁済を拒絶し得ない

●上訴審で判決が変更されたときの弁済の効力
弁済額が債務の全額に満たないこととなった場合、最高裁H6.7.18(判時1506号)
弁済額が債務の全額を超過した場合、
民訴法260条2項等に基づいて決せられるものと解されるとしている。

弁済の提供にあたって不合理・不当な条件が付されたような場合には、債務の本旨に従ったものとはいい難い。(最高裁昭和31.11.27)
but
本件において、不合理・不当な条件が付されたとはいえない。

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2022年9月 7日 (水)

不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金への民法405条の(類推)適用(否定)

最高裁R4.1.18

<事案>
Y1の株主であったXが、Y1における新株発行及びその後の全部取得条項付株式の全部取得が違法であり、これによりXの保有株式の価値が低下して損害を被った⇒
Y1の代表取締役であるY2に対しては民法709条に基づき、
Y1に対しては会社法350条等に基づき、
損害賠償金7億8543万2784円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。

<争点>
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることができるか?

<規定>
民法 第四〇五条(利息の元本への組入れ)
利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。

<第1審>
本件新株発行について、Y1においてY2が主導して専らXをY1から排除する目的で行われたもの⇒Xの保有株式の価値を著しく毀損するものであった⇒不法行為が成立。
その際、民法405条に基づき遅延損害金を元本に組み入れる旨の判断。

<原審>
民法405条は不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について適用又は類推適用されず、遅延損害金を元本に組み入れることはできなうい。

<判断>
原審と同旨。

<解説>
●民法405条(法定重利):
①「利息」の1年分以上の延滞
②債権者による催告
③債務者による当該利息の不払い
④債権者による当該利息の元本組入れの意思表示

当該利息を元本に組み入れる。

同条は、組入れの対象を「利息」と規定⇒「遅延利息」(遅延損害金)がこれに含まれるか?について争い。
民法におけ「利息」という文言の意義については、条文によって広狭がある⇒「利息」の文理解釈だけで本件論点の結論を導くことができない。

●民法405条の立法趣旨
立法時の説明:
利息を支払わない怠慢な債務者を責め、債権者を保護することにある。

●潮見:
「遅延利息」は「元本使用対価」ではないため「利息」ではない⇒遅延利息に対する民法405条の直接適用を否定。
金銭消費貸借における返済遅延の場合の遅延損害金(遅延利息)と不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金(遅延利息)を区別し、
前者については、元本使用の対価としての実質面を捉えたときの金銭消費貸借における利息と遅延利息との同質性を考慮して同条の類推適用を肯定するが、
後者については、これを否定し、組入重利を認めるべきではない。


本判決:本件論点について否定説(民法405条の適用又は類推適用を否定する立場)

① 不法行為に基づく損害賠償債務は、貸金債務とは異なり、債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくない⇒債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって、一概に債務者を責めることはできない。
②不法行為に基づく損害賠償債務については、何らかの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており、遅延損害金の元本への組入れを認めたまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。
不法行為に基づく損害賠償義務の遅延損害金については民法405条の趣旨は妥当しない。

判例時報2522

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暴行被告事件で無罪確定⇒捜査段階で取得された指紋、DNA型、顔写真のデータ等の抹消請(一部認容事案)

名古屋地裁R4.1.l8

<事案>
甲事件:
X(無罪確定)が、
Y1(愛知県)に対し、警察官の本件暴行事件に係る現行犯人逮捕、捜索差押及び取調べに違法がある
Y2(国)に対し、検察官の本件暴行事件に係る勾留請求、勾留機関延長請求及び公訴の提起に違法がある
⇒それぞれ国賠請求を求めるとともに、
Y2に対し、捜査機関が本件暴行事件に係る捜査の際に取得したXの指紋、DNA型、顔写真及び携帯電話の各データの抹消を求めた。

乙事件:
Xが、Y3が本件暴行事件に関し虚偽の被害申告を行った等と主張し、Y3に対しては不法行為に基づき、Y4社に対しては使用者責任に基づき、損害賠償を求めた。

<判断>
●国賠請求・損害賠償請求は棄却。
本件各データの抹消請求については、Xの指紋、DNA型及び顔写真の各データ(「本件3データ」)の抹消の限度でこれを認容。その余(携帯電話のデータの抹消)を棄却。

●本件3データの抹消請求
捜査機関が捜査の過程で取得した被疑者の指紋、DNA型及び顔写真の保管・管理等に関し、警察法81条及び警察法施行令13条1項の委任を受けて国家公安委員会が定めた、指紋掌紋取扱規則、DNA型記録取扱規則及び被疑者写真の管理及び運用に関する規則(「指紋掌紋規則等」)について、次のような解釈論を展開。
指紋掌紋規則等によれば、捜査機関が捜査の過程で取得した被疑者の指紋、DNA型及び顔写真は、それぞれ指紋掌紋記録、被疑者DNA型記録、被疑者写真記録(「指紋掌紋記録等」)によって保管・管理されるところ、同規則は、指紋掌紋等を抹消しなければならない場合として
指紋掌紋記録等に係る者が死亡したときのほか
指紋掌紋記録等を保管する必要がなくなったときを掲げる。

指紋、DNA型及び容貌・姿態に係る被疑者写真をみだりに使用されない自由が保障される。
諸外国の立法例等も援用しながら、これらをデータベース化することで半永久的に保管し、使用することが国民に対する権利の侵害であると捉えられることを指摘。

指紋、DNA型及び被疑者写真を取得する前提となった被疑事実について、公判による審理を経て、犯罪の証明がないと確定した場合については、継続的保管を認めるに際して、データベース化の拡充の有用性という抽象的な理由をもって、犯罪捜査に資するには不十分であり、余罪の存在や再犯のおそれ等があるなど、少なくとも、当該被疑者との関係でより具体的な必要性が示されることを要するというべきであって、これが示されなければ、「保管する必要がなくなった」と解すべき。
本件の事実関係の下では、前記具体的な必要性についての立証がない。

前記「保管する必要がなくなった」の要件に該当する場合においては、人格権に基づく妨害排除請求として抹消を請求できる
⇒本件3データの抹消を肯定。

●携帯電話のデータの抹消請求
同データの保管は刑事確定訴訟記録法又は記録事務規定を根拠とするもの。
これらの規定による記録の保管が過去に行われた刑事裁判や捜査の記録を一定期間保管しておくことを目的とするもの
本件暴行事件の捜査のために携帯電話のデータを提供したことについてのXの承諾の範囲を超えて、同データの保管がなされているとはいい難い⇒同データの抹消を否定

<解説>
裁判例には、
判決が、国又は公共団体の保有する個人に関する情報の収集手続に違法があり、国または公共団体が当該情報の保管、利用を継続することが社会通念上許容されないと認められる場合には、当該個人は、人格権に基づき、当該情報の抹消を請求することができると解すべきである旨判示するもの(東京地裁)。
犯罪の証明がなかったことが確定した後にまで、本人の明示的な意思に反して、指紋及びDNA型並びに撮影した写真を保管して別の目的に使用することは、これらを保管して別の目的に使用することについて高度の必要性が認められ、かつ、社会通念上やむを得ないものとして是認される場合に当たらない限り、人格権に基づく妨害排除請求として、当該指掌紋記録等の抹消を請求することができる(東京高裁)。

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2022年9月 6日 (火)

墓地、埋葬等に関する法律10条1項に基づく経営許可の取消訴訟と周辺住民の原告適格(否定)

大阪地裁R3.5.20

<事案>
(1)大阪市長が墓地、埋葬等に関する法律10条1項に基づきA寺に対してした納骨堂経営許可処分について、付近に居住する者等であるXらが、法に定める納骨堂経営許可に係る基準を満たしておらず違法である⇒Y(大阪市)を相手に、本件許可処分の取消を求めるとともに、

(2)大阪市長が法10条2項に基づきA寺に対してした2件の納骨堂経営変更許可処分について、Xらのうちの一部の者が、違法な本件許可処分を前提とするものであって違法であるなどと主張し、Yを相手に、本件各変更許可処分の取消しを求めた

<判断>
● Xらに原告適格が認められない⇒いずれも却下。

行訴法9条1項の「法律上の利益を有する者」は、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
処分の相手方以外の者について前記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮する際には、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌すべきである。

以下の(1)~(5)など判示の事情の下においては、法及びこれと目的を共通にする本件細則が、納骨堂周辺に居住または勤務する者の
①生活環境に関する利益、②生命、身体の安全に関する利益、③納骨堂周辺に不動産を所有する者の財産的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない⇒Xらは原告適格を有しない。
(1)本件細則8条が保護しようとしている生活環境の具体的な内容をうかがわせる規定は存在せず、納骨堂の付近の良好な生活環境を確保するための具体的な構造設備基準を定めた規定も存在しない
(2)・・・従前の宗教的感情と適合した生活環境を享受する利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨をうかがわせる規定は存在しない。
(3)納骨堂が設置、経営されることに基因して周辺住民に社会通念上受忍すべき限度を超える精神的苦痛が生ずるということは困難
(4)・・・外部で発生した火災によって納骨堂に収蔵された焼骨が損傷等することを防止することにあると解される。
(5)・・・納骨堂周辺に不動産を所有する者が火災による所有権の侵害を免れる利益、当該不動産価格の下落を受けない利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。

<規定>
行訴法 第九条(原告適格)
 
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

<解説>
処分の取消の訴えにおける原告適格:処分の取消しの訴えにおいて、その処分の取消しを求めて出訴することのできる資格。
原告適格のない者が提起した処分の取消しの訴えは不適法⇒却下。

処分の相手方以外の第三者のうち、どのような者について、その処分の取消しの訴えの原告適格が認められるか?
行訴法9条2項
周辺住民等が墓地、納骨堂の経営許可の取消しを求める訴えについてその原告適格の有無が争われた判例・裁判例。

①墓地等の設置場所の基準等を定めた条例等の趣旨・目的を参照することができるか
②考慮されるべき利益の内容・性質と判断手法をどのように考えるべきか、
③条例等の趣旨・目的を参酌して墓地等の周辺住民等に個別的利益を保護する趣旨を含むと解されるか
などが問題とされている。

本判決:
行訴法9条2項、小田急訴訟大法廷判決等の判断枠組みを前提として、本件細則が「関係法令」に該当するとした上で、その考慮されるべき利益を個別的に分析して当てはめたもの。

判例時報2522

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被爆者援護法での放射線起因性の判断

大阪高裁R3.5.13

<事案>
Xが厚労大臣に対し、被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請を受けるため、心筋梗塞を申請疾病として原爆症認定申請⇒却下する旨の処分⇒Y(国)に対し、同却下処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償として慰謝料等の支払を求めた。

<判断>
放射線起因性を肯定し、また、要医療性も肯定して、原判決を取り消して、Xの請求を認容
(国賠請求部分については控訴を棄却)

●放射線起因性の判断手法について、
①当該被爆者の放射線への被ばくの程度
統計学的又は疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被ばくとの関連性の有無及びその程度とを中心的な考慮要素としつつ、これに
当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等
総合的に考慮して判断するという枠組み。


①(放射線被ばくの程度)について
当該申請者の被ばく状況、被爆後の行動・活動の内容、被爆後に生じた症状、健康状態等に照らし、様々な形態での外部被ばく及び内部被ばくの可能性の有無を十分に検討する必要がある旨を説示した原判決を引用しつつ、
Xが原爆投下から100時間以内に爆心地から約1.1~1.2㎞の地点に入って2日間滞在していたといった被ばく状況⇒残留放射線による外部被ばくのみならず、相当の内部被ばくをした可能性がある。
①・・・すり傷程度の怪我で化膿し、酷い場合にはその化膿が骨まで見えるほどに至っていた
②・・・結膜炎の治療を受けていた右眼を摘出され、義眼となっていたといった症状
③放射線被ばくが長期にわたり好中球等の機能低下を引き起こすことを示唆する複数の知見が存在
④被ばくによる好中球等の機能低下により免疫不全に陥ったこと以外に通常は生じることのない重篤な症状がXに繰り返し生じた原因が見当たらない

Xのこうした各症状は、放射線被ばくの影響により抵抗力(好中球機能)が低下したことにより生じたものと推認することできるとした上、Xが健康に影響を及ぼす程度の放射線被ばくを受けた。


②の統計学的又は疫学的知見等に基づく申請疾病等との関連性の有無及びその程度については、
疫学的知見に基づいて心筋梗塞と放射線被ばくとの関連性を肯定


③について、
Xの年齢、脂質異常症及びっ高血圧症の程度が高いといった危険因子が複数認められる
but
①これらの危険因子が相乗的に心筋梗塞発症の危険性を高めたこと自体は否定しがたいものの、加齢の程度や、脂質異常症及び高血圧症については放射線被ばくとの関連性を肯定する報告がいずれも複数存在
②被爆当時のXの年齢やXが健康に影響を及ぼする程度の線量の被ばくをしたこと

これらの危険因子は、放射線の影響がなくとも当該疾病が発症していたことを裏付けるものとまでいえるものではない。


⇒放射線起因性該当性を肯定

<解説>
放射線起因性の有無は、個別の考慮要素に係る事実認定の有無及びこれに対する評価によって個別具体的に判断されている。
放射線被ばくの程度に関する事情として被ばく後の急性症状、病歴等については、放射線の強い影響を示唆する症状等が認められることを1つの事情として放射線起因性を肯定した複数の裁判例。
・心筋梗塞を申請疾病とする被爆者について、年齢、喫煙歴、脂質異常症等の危険因子を考慮しても放射線起因性は否定しない(大阪地裁)
前記の各危険因子のほか糖尿、腎臓炎の危険因子が認められることを考慮して放射線起因性を否定(控訴審の大阪高裁)

判例時報2522

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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