ガソリンスタンドへの車両乗入口の傾斜⇒車体底部が路面に接触⇒通常有すべき安全性が争われた(否定事例)
名古屋高裁R3.2.26
<請求>
主位的に、
Y1(名古屋市)に対しては本家乗入口の管理の瑕疵があったとして国賠法2条1項に基づき、
Y2(本件ガソリンスタンドの所有者)に対しては不法行為に基づき、
予備的に、
Y2に対しては債務不履行(民法415条)に基づき、
物的損害賠償金(69万5595円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
・・・車両が本件道路から本件乗入口に正面から侵入する際には車両前部がいったん下がった後に急勾配のすりつけ部を超えなければならないため車両底面が接触してしまう構造になっている⇒本件乗入口は、車両侵入口として通常有すべき安全性を欠いている。
<解説 ・判断>
● 本件乗入口のような土地の工作物が通常有すべき安全性を欠いているために損害が発生した場合において、損害賠償責任を追求する根拠:
道路等の営造物⇒その設置又は管理の瑕疵を理由とする国賠法2条1項に基づく損害賠償
公の営造物以外⇒土地の工作物の設置又は保存の瑕疵を理由とする民法717条に基づく損害賠償請求
国賠法2条1項の「瑕疵」と民法717条1項の「瑕疵」は、通常有すべき安全性を欠いていることを意味する点で同じ。
本件乗入口は、Y2が設置(工事)したが、設置後は道路(歩道)の一部となる⇒本件事故当時、Y2は本件乗入口の占有者又は所有者ではないという考え?
本判決:Y2の不法行為責任の根拠条文を709条とし、瑕疵ある乗入口を設置したことについての過失責任を問うものと整理。
● 道路の設置又は管理に関する法令:道路法、道路法石膏令、道路構造令等
道路の設置又は管理の瑕疵の有無は、道路管理者がこれらの法令を遵守していたか否かによって決められるものではないが、一応の基準とはなり得るとされる。
X:本件乗入口の勾配が本件承認の条件において従うこととされていた構造図を3.3%以上上回っていた⇒通常有すべき安全性を欠く。
vs.
本判決が是認する原判決:
同構造図が依拠したY1の指針及び国土交通省の通知の趣旨は歩行者等の安全、とりわけ高齢者や身体障害者の安全への配慮⇒基準を3.3%上回ることのみから本件乗入口を通行する車両にとって直ちに通常有すべき安全性を欠くものとは認められない。
~
道路の構造等に関して一定の基準を定める法規あるいは行政規則(指針、通知等)は、それぞれ基準を定めた趣旨・目的がある⇒道路の構造が形式的に当該基準に反していることのみを根拠として瑕疵があるとはいえない。
● 本判決(及び原判決):
本件乗入口が車種、走行条件によっては車体底部が道路に接触し得る構造であることは否定していない。
公の営造物ないし土地の工作物に安全確保のための基準違反があるとはいえない場合に、瑕疵の有無を判断する手法として同様の事故が起こる頻度や生じる損害の程度を考慮するという方法を採用したものと思われる。
①本件乗入口は、それまで相当な期間にわたり様々な車種の車両が侵入・退出したが、本件のX車両以外に同様の事故が生じたことを示す証拠は提出されていない
②Y1への同様の苦情があったという事実も認められない
③本件のX車両の事故は車両底部に擦過痕を生じさせる程度の軽微なもの
⇒本件乗入口の瑕疵は認定されなかった。
● 原審:多くの車両運転者は相応の注意を払って本件のような事故を回避している
X:不可能な注意義務を課すものと批判
本判決:本件乗入口への侵入に際し道交法上の注意義務(=車両運転者は、本件乗入口から歩道を横断して本件スタンドに侵入する際、本件乗入口に入る直前で一時停止した上で当該車両のハンドル等を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないという義務(道交法17条2項、70条))を適切に履行すれば車体の接触が回避可能
本件乗入口が車種、走行等の条件によっては車体が接触し得る構造⇒その意味でそこに欠陥があったことを完全には否定できない。
but
それにより生ずることがある損害は軽微なものでしかなく、かつ、
多くの運転者が道交法乗の注意義務を適切に履行して、そういう損害の発生を回避できている
⇒
全体として瑕疵が否定される。
判例時報2519
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