出生届未了の子が母(フィリピン国籍)の元夫である相手方(日本国籍)に対して申立て嫡出否認の調停⇒合意に相当する審判の事例。
東京家裁R3.1.4
<事案>
申立人の母:フィリピン国籍
相手方:日本国籍
<規定>
法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
<判断・解説>
●嫡出否認調停を子の側から申し立てることの可否
申立人は、相手方の本国法である日本法において、民法772条によって相手方の子と推定される。
日本法では、嫡出であることを否認できるのは、父のみであり(民法774条)、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによってなされる(民法775条)。
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなくてはならない(民法777条)。
but
子からの申立てによる嫡出否認の調停において合意に相当する審判をすることを肯定した裁判例(札幌家裁)があり、学説上も、子又は親権を行う母にも申立権を認める見解。
本審判:「合意に相当する審判は当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していることが要件とされており(家事事件手続法27条1項1号)、人事訴訟において嫡出否認が大なわれる場合とは異なって、相手方においても嫡出否認を求める意向を有していなければ行えないものである」と説示し、子からの嫡出否認を認める札幌家裁と同様の結論。
●フィリピン法における嫡出否認
◎フィリピン法の概要
◎フィリピン法における嫡出否認訴訟の否認権者、否認権行使期間
法適用通則法28条は、嫡出否認の問題にも適用されるとされており、嫡出の否認が許されるか否か、否認権者、嫡出否認の方法、否認権の喪失、否認権の行使期間などは、いずれも同条が定める準拠法による。
⇒否認権者や否認権行使期間についても検討すべき。
◎フィリピン法で出訴権者とされていない子から夫への嫡出否認調停の可否
一般に渉外的な実親子関係の成立に関する事件について、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合には、合意に相当する審判の可否は手続上の問題ととらえ、「手続は法廷地法による」の原則により、法廷地法である日本法に基づいて調停において合意に相当する審判ができると解されている。
外国法が準拠法となる事案において、当該準拠法が嫡出否認の否認権者を夫に限定している場合において、日本法と同様に、子から夫に対して申し立てられた嫡出否認の調停において合意に相当する審判を行えるか?
これを肯定したもの(東京家裁)
本審判:
フィリピン法上否認権者とされていない子からの申立てであることについて、「手続は法廷地法による」との国際私法上の原則により、相手方において申立人が嫡出子であることを否認することを希望する意思を示している本件では、この要件も満たされているというべき。
判例時報2518
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