レストランでの長時間労働⇒劇症型心筋炎を発症して死亡した事例での因果関係(肯定)
大阪高裁R3・3・25
<事案>
Y1社(代表者Y2)が経営していたレストランの調理師P1は、約1年にわたり時間外労働が1箇月当たり約250時間に及ぶ長時間労働に従事、睡眠時間が毎日5時間未満⇒体力・免疫力低下⇒ウイルス性急性心筋炎を発症し、その悪化により劇症型急性心筋炎を発症し、手術で補助人工心臓を装着したが、最終的に脳出血により死亡。
P1の相続人であるXらが、
①Y1対しては会社法350条又は安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、
②Y2に対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき、
治療費、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等の損害賠償請求。
<争点>
Y2の注意義務違反とP1の長時間労働、ウイルス性急性心筋炎は症、劇症化、死亡という一連の経過についての事実的因果関係の有無
<原審>
判例時報2452号
<判断>
Y2は、Y1社の労働者であるP1に対し、業務の遂行に伴う疲労等の過度の蓄積により、その心身の健康を損なうことがないように注意する義務があるところ、
P1の長時間労働・睡眠不足の状態を認識しながら、それらにまったく関心を払わず、P1の負担を軽減させるための措置を一切講じないなど注意義務違反があることは明らか。
P1は、
(1)約1年間における1箇月の平均時間外労働時間が約250時間に及び、睡眠時間は定休日以外の日は1日当たり5時間以下であり、継続的に長時間労働と睡眠不足の状態にあり
(2)口内炎が約1箇月も治癒せず、ウイルス感染症を発症し、ウイルス性心筋炎の前駆症状を呈していたが、
(3)前記の長時間労働・睡眠不足により体力意を奪われ、生体防御能を低下させ、
(4)ウイルスの増殖を食い止めることができず、急性心筋炎を発症及び劇症化させ、
(5)その影響で最終的には死亡するに至ったもの
⇒
一連の経過から、
①継続的な長期労働・睡眠不足の事実と②P1の死亡との間には、①が②を招来したことについて高度の蓋然性があることが証明されたと評価することができる。
<解説>
本件は、労災における業務起因性の認定との関係でも訴訟に。
P1の生前の配偶者(本件のX1)は、労働基準監督署に対して遺族補償年金等不支給処分取消訴訟を提起。
大阪高裁R2.10.1(判例時報2493号)は、業務起因性を否定:
X1による、過重業務が原因で免疫力が低下し、その結果劇症型心筋炎を発症し、P1が死亡した旨の主張については、
①過重業務による免疫力の低下が心筋炎を発症させるウイルス感染を生じさせた事情の1つとなった可能性は否定できないが、その他の事情を総合すると、P1の免疫力が低下していたものとまでは認め難い。
②過剰業務によりウイルス性心筋炎を発症し劇症化するとの経験則が存在するとも認めることができない
⇒業務起因性が認められるとする主張は採用できない。
過剰業務により治療機会を喪失したために劇症型心筋炎を発症し、死亡した旨の主張については、
そもそも治療機会を喪失したとは認められないし、
より早い時期に治療が開始されたとしても、劇症型心筋炎の発症を防ぎ得たと認めることはできない
⇒業務起因性が認められるとする主張は認められない。
労災法に基づく労災認定と使用者に対する不法行為等に基づく損害賠償請求とでは、法制度の趣旨が異なる⇒業務起因性の判断と相当因果関係の判断を直ちに同視することには問題。
←
因果関係の存否は、労災認定においては、業務に内在する危険が現実化したか否かという、いわゆる「業務起因性」の枠組みの中で問題となるもの。
but
本件で結論を異にする正当性?
判例時報2519
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