「黒い雨」訴訟控訴審判決
広島高裁R3.7.14
<事案>
被爆者健康手帳の交付を申請した者らが、原爆投下後に発生した雨(「黒い雨」)に遭ったことをもって、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(「被爆者援護法」)1条3号の「原資爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」(「本件被爆者要件」)に当たる⇒広島市長又は広島県知事に対し、被爆者援護法2条1項に基づく被爆者健康手帳等の各交付申請⇒いずれも却下⇒広島県及び広島市に対し、被爆者健康手帳交付申請の各却下処分の取消しと被爆者健康手帳交付の義務付けを求めた。
原審:広島県及び広島市の申立てに基づき、厚生労働大臣を広島県及び広島市のために訴訟参加させた。
<原審>
本件申請者らの請求を認容
<判断>
原判決を維持し、控訴人らの控訴を棄却。
被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義は、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解され、これに該当すると認められるためには、
その者が特定の放射線のばく露態様の基にあったこと、そして当該ばく露態様が「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」を立証することで足りる。
「広島原爆の投下後の黒い雨に遭った」というばく露態様は、黒い雨に放射性降下物が含まれていた可能性があった⇒外部被ばく又は内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があるものであったこと、すなわち「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」が認められ・・・・被爆者援護法1条3号の「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当する。
・・・いずれかの時点で、当該黒い雨降雨域に所在していたと認められる⇒広島原爆の投下後の黒い雨に遭ったと認められ、本件申請者らの各請求はいずれも理由がある。
<解説>
控訴人ら:本件被ばく者要件に該当するかの判断基準として、具体的な科学的根拠に基づく高度の蓋然性が必要であることを主張し、これを被爆者認定のための主たる争点に挙げた。
vs.
本判決:
本件被爆者要件と同一の規定をもつ原爆医療法が、人道上の見地から、未だ健康被害が生じていない被爆者に対する健康管理と既に健康被害が生じている被爆者に対する治療に遺憾なきようにするために、政治的な観点から制定されることとなった法律であり、それが具体的科学的根拠や科学的知見のみに依って立つものでなかったことは明らか。
本件被ばく者要件の意義:
「原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者」と解するのが相当。
ここでいう「可能性がある」を換言すれば、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解され、これに該当すると認められるためには、その者が特定の放射線のばく露態様の下にあったこと、そして当該ばく露態様が「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」を立証することで足りる。
「広島原爆の投下後の黒い雨に遭った」というばく露態様は、黒い雨に放射性降下物が含まれていた可能性があったことから、たとえ黒い雨に打たれていなくても、当時黒い雨降雨域に在住していれば、放射性微粒子を体内に取り込むことで、内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があるものであったこと、すなわち、間接被爆者についても「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」が認められる。
判例時報2521
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