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2022年8月14日 (日)

令和3年10月の衆議院小選挙区選出議員選挙についての1票の格差訴訟

大阪高裁R4.2.3

<事案>
令和3年10月31日の衆議院小選挙区選出議員選挙で、関西2府4県の各選挙区の選挙人であるXらが、小選挙区選挙の選挙区割りに関する公選法の規定が憲法に違反し無効⇒Xらの各選挙区における選挙も無効⇒公選法204条に基づき提起した選挙無効訴訟

<解説>
● 平成26年施行の選挙(最大較差1対2.129)について、最高裁H27.11.25は、選挙区割りについて憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(いわゆる違憲状態)にあったと判示したが、
本件選挙と同様に、平成29年改正法に基づく前回選挙は合憲であると判断。

● 判断の枠組み
◎ ア:選挙当時の公選法の定める選挙区割りの規定が、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか
最高裁(平成30年大法廷判決等):
憲法は投票価値の平等を要求しているものと解されるところ、憲法上、選挙制度の仕組みの決定については、国会に広範な裁量が認められている旨、
憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許されている旨、
選挙制度の合憲性は、これらの諸事情の総合的に考慮した上で、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されるべき旨
を判示。

◎ イ:合理的期間内において是正がされなかったといえるか

◎ ウ:事情判決の法理の適用が認められるか

<主張>
ア:憲法(56条2項、1条、前文)は、統治構造として、「人口比例選挙」であることを認めており、合理的に実施可能ないし技術的に可能な限り、較差が1倍に近い状態を求めるものであり、本件選挙の較差の状態は、違憲状態である。
イ:前記アに照らし、憲法に違反し、そうでないとしても、本件選挙の時点では、合理的期間は既に経過している。
ウ:比例代表制が並列し、全選挙区で選挙無効訴訟が提起されている本件選挙について、事情判決の前提を欠く。

<判断>
● アについて:
公選法の定める選挙区割りの規定の憲法適合性の枠組みについては、平成30年大法廷判決の示したところによるのが相当で、合理的に実施可能ないし技術的に可能な限り、較差が1倍に近い状態が求められる旨のXらの主張は採用できない。
議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることが最も重要かつ基本的な基準⇒相当数の選挙区において、ある選挙区の2票の投票価値が別の選挙区の1票の投票価値に及ばないという較差が生じていることは、従前の定数不均衡是正の経緯に照らしてもなお、国会の合理的な裁量の範囲の限界を超える。
⇒本件選挙時典での選挙区割りの規定は、憲法の投票価値の平等の要求に反する、是正すべき状態にある。

● イについて:
国会において、前記状態が認識し得るようになったのは、令和2年大規模国勢調査の結果が判明した以降であり、その時期から本件選挙の日までにその是正をすることは事実上不可能
⇒本件選挙時点での選挙区割りの規定につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったということはできない。

<解説>
東京高裁R4.2.2:
①平成29年改正法による選挙区割りの規定において前回選挙時において較差が2倍以上となった選挙区は存在しなくなった
②令和2年以降においてアダムズ方式によりいわゆる1人別枠方式の下における定数配分の影響を解消させる立法措置が講じられ、選挙区間の最大格差が2倍未満となることが見込まれた
③以上の事情は、平成30年大法廷判決が判示するものであるところ、本件選挙において選挙区間の較差が2倍を超えたのは、平成29年改正法が前提とした見込人口と異なる人口異動に基因するもの
⇒本件選挙区当時、選挙区割りの規定は憲法に適合する状態であった(合憲)。

国会の裁量権の限界を判断する事情についての評価の違いにより違憲状態と判断するかどうかの結果が分かれた。

本判決:
選挙制度の安定性を考慮したとしても、相当数の選挙区間で2倍を超える較差が生じている状態は、やはり憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあると判断するに足りるほどの不平等。
②については、本件選挙時点において違憲状態だえるとの判断を否定するものではない。

判例時報2520

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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