詐欺罪と補助金等不正受交付罪との関係
最高裁R3.6.23
<事案>
人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起⇒当該行為が補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪に該当するときに、刑法246条1項を適用することの可否が問題。
<解説>
補助金等適正化法29条1項:
「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
同法32条には両罰規定。
補助金等不正受交付罪の対象となるのは国庫金を財源とする給付に限られており、未遂犯の処罰規定はない。
補助金等不正受交付罪は不正の手段と因果関係のある受交付額について成立。
<一審・原審>
(1)補助金等不正受交付罪は、
①「偽りその他不正の手段」の範囲が詐欺罪の欺く行為より広く、
②相手方の錯誤も不要とされている一方、
③犯罪が成立する受交付金額の範囲は不正の手段と因果関係にあるものに限定されており、
両罪の構成要件は一方が他方を包摂する関係にない。
(2)補助金等不正受交付罪の立法経緯等を踏まえても、詐欺罪の構成要件を充足する場合に、重い詐欺罪の適用を否定する趣旨まで含まれているとは解されない、
(3)仮に補助金等不正受交付罪を詐欺罪の特別規定と解すると、国の補助金を不正に受給する行為は、補助金等不正受交付罪の対象とならない地方公共団体の給付金の不正受給よりも軽く処罰され、未遂罪も処罰されないことになるが、この不均衡を合理的に説明することは困難。
⇒
最高裁と同旨。
<判断>
人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起された場合、当該行為が補助金等不正受交付罪に該当するとしても、裁判所は当該事実について刑法246条1項を適用することができる旨職権判示。
<解説>
A:立案担当者:
補助金等不正受交付罪は詐欺罪の特別規定(減刑類型)であり、詐欺罪の規定に優先して適用される
←
①補助金等不正受交付罪は補助金に関して詐欺罪の構成要件を包摂している
②「刑法に正条があるときは、刑法による」旨のただし書が置かれていない
③詐欺罪の要件を満たす場合であっても、罰金刑を選択し、両罰規定を適用できるようにする必要がある
④構成要件や保護法益の類似する租税犯罪と同様に考えるべき
vs.
①補助金について詐欺罪が適用できないとすれば、地方公共団体独自の財源による給付金について詐欺罪が適用され、未遂犯が成立し得ることと均衡を失する
②補助金等不正受交付罪と詐欺罪の構成要件は一方が他方を包摂する関係になく、一部が重なり合うにとどまっている
③行政刑罰法規に 「刑法に正条があるときは、刑法による」旨の規定がない場合であっても刑法が適用される場合はある
④詐欺罪を適用することができる一方、補助金等不正受交付罪を適用することもできると解すればよく、罰金刑選択や両罰規定適用の余地を残しておくために両罪を特別関係と解する必要はない
⑤ほ脱犯等の租税犯罪について詐欺罪が成立しない理由は、租税の性格、租税法固有の体系や仕組みにある
⇒
B:詐欺罪の適用は排除されない。
判例時報2517
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