マイナンバー制度の憲法違反が問題なった事案
仙台高裁R3.5.27
<事案>
国のマイナンバー制度により憲法13条の保障するプライバシー権が侵害される⇒プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求として個人番号の収集、保存、利用及び提供の差止めと個人番号の削除を求めるとともに、国賠法1条1項に基づき慰謝料10万円と弁護士費用の損害賠償を求めた。
<判断>
マイナンバー制度によって、Xらが、憲法13条によって保障された「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を侵害され、又はその自由が侵害される具体的な危険があるとは認められない⇒国がマイナンバー制度によりXらの個人番号及び特定個人情報を収集、保存、利用及び提供する行為が違法であるとは認められない。
マイナンバー制度により、個人番号や得意亭個人情報が情報システムで管理及び利用されることにより、個人情報が集積、集約されて個人の人物像を勝手に形成されるデータマッチングの危険性や個人情報が漏えいする危険性を一概に否定はできない。
but
制度の運用に伴う個人情報の不正な利用や情報漏洩の危険を防ぐため、個人番号や特定個人情報の提供が、法令の根拠に基づき正当な行政目的の範囲内で行われ、かつ、個人番号や特定の個人情報が目的外に提供され、システム技術上の不備によって漏えいしないように法制度上及びシステム技術上の措置が講じられている。
⇒
個人情報の不正な利用や情報漏洩の危険性が一般的抽象的には認められるとしても、国がマイナンバー制度の運用によりXらの個人番号及び特定個人情報を収集、保存、利用及び提供することが、Xらの個人情報がみだりに第三者に開示又は公表されるという具体的な危険を生じさせる行為とはいえない。
自己情報コントロール権については、同意なく個人番号や特定個人情報を第三者に提供することが、すべて自己情報コントロール権の侵害となり、憲法13条の保障するプライバシー権の侵害にあたるという趣旨の主張であるとすれば、そのような意味内容を有する自己情報コントロール権は、憲法13条の保証するプライバシー権としては認められない。
<解説>
● 住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していないとしても、憲法13条が保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではないと判断した最高裁H20.3.6。
● 自己情報コントロール権について、
情報化社会において「プライバシーの権利」を「自己に関する情報をコントロールする権利」として把握すべきであると主張した佐藤幸治教授も、
「コントロール権」はあまりに広汎で曖昧にすぎるという批判については考慮すべき重要な問題が含まれていると述べている。
自己情報コントロール権が提唱される趣旨は、判例にいう「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」の解釈として考慮できる一方、その概念が個別の結論に直結するとはいえないであろう。
● 本判決:
特定個人情報が提供される場合を規定する番号利用法19条14号(現15号)の委任規定にいう「その他政令で定める公益上の必要があるとき」とは、
同号列挙の手続に準ずるような審理判断のための事実の調査や情報収集の手続として重要性を有する公益上の必要がある場合であって、その事実の調査や情報収集が法令に基づいて行われるものに限定して政令に規定を委任したものと解している。
判例時報2516
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