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2022年7月30日 (土)

障害基礎年金の支給停止処分が違法とされた事案

大阪地裁R3.5.17

<事案>
Xら8名は、Ⅰ型糖尿病にり患し、国年法30条2項による委任を受けた国年法施行令別表の定める障害等級2級に該当する程度の障害の状態にある⇒障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給⇒厚生労働大臣から、国年法36条2項本文の規定に基づく障害基礎年金の支給停止処分。
X9・・・・厚生労働大臣から支給停止処分⇒厚生労働大臣に対し、国年法施行規則35条1項本文に基づき、支給停止の解除の申請⇒支給停止を解除しない旨の処分。

Xら8名は、前記各支給停止処分の取消しを
X9は前件不解除処分の取消し及び支給停止を解除する処分の義務付けを
それぞれ求めて訴訟提起。

大阪地裁、
X8らの請求:行手法14条1項本文の理由提示の要件を欠き、違法⇒前件各支給停止処分を取り消し。
X9:前件不解除処分は行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠き、違法⇒前件不解除処分を取り消す。

厚労大臣は、再度、Xら8名に対し、支給停止処分をするとともに、X9に対し、支給停止を解除しない旨の処分

本件:
X9:支給停止を解除する処分の義務付けを求めるとともに、支給停止解除事由があるなどの理由により、本件不解除処分は違法⇒行訴法19条に基づき、本件不解除処分の取消しを求める訴えを、前記の義務付けの訴えに追加的に併合提起
Xら8名:本件各支給停止処分は支給停止事由を欠く⇒その取消しを求める事案。

<判断>
●支給停止処分の要件
国年法36条2項本文:
「障害基礎年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。」
支給停止処分をするためには、一定の時点において、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないことを要し、かつこれで足りる。

●糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害に該当するか否かの判断方法
国民年金・厚生年金保険障害認定基準(障害認定基準)

受給権者の糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害の状態に該当するか否かを判断するに当たっては、当該障害が少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であることを確認した上で、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況を中心に、その他合併症の有無及びその程度、代謝のコントロール状態、治療及び症状の経過等を総合考慮して、受給権者の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであり、換言すれば、必ずしも他人の助けを借りる必要はないものの、独力での日常生活が極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものに当たるか否かを認定判断すべきであるものと解される。

受給権者が従事し得る労働の内容及び程度には幅がある
「労働により収入を得ることができない」というのは、文字通り心身が労働に耐えられない場合に限定して解釈することは妥当ではない。
就労条件等に特段の配慮がされたことによって労働することができたといえる場合や、病状等に照らして労働を差し控えるのが相当であると考えられるのに就労しているとみられるような場合など、例外的な事情がある場合まで形式的に除外することは相当とは考え難い。

●Xらについての検討
X5の障害の状態は、2級に該当する程度に至っていなかったものとは認められない。
その余のX:2級に該当する程度の障害の状態にあるとは認められない。

判例時報2518

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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