交番襲撃事件
富山地裁R3.3.5
<事案>
被告人が、交番勤務中の警察官を殺害してけん銃を奪い、そのけん銃で交番付近にいた警備員を射撃して殺害するなどした事案
<解説・判断>
●Eに対する殺人の実行行為終了前に被告人がけん銃を奪う意思を有していたか
公判廷で被告人が黙秘⇒公判供述が存在しない。
but
逮捕後に被告人の供述調書が作成され、警察官を殺害してけん銃を奪うために奥田交番に行ったことや奪ったけん銃で警察官を殺し回ろうと思っていたという内容が記載。
①被告人が奥田交番で警察官と戦うこと(=被告人が持っている武器よりも強い武器であるけん銃を持っている人間との戦い)を考え始めてから1時間に満たない時間で実行に移し、交番襲撃後の行動も半ば行き当たりばったりなものであった
②逮捕前に行われた弁護人による事情聴取では、交番襲撃前にはけん銃を奪い次の警察官を狙ることまでは考えておらず、Eとの戦いが終わり、自分が生き残った時点で初めて武器を確保する必要が生じてけん銃をとったという趣旨の供述をしていた
③供述調書作成の前提となった取調べにおけるけん銃を奪う意思に関する被告人の供述(公判廷では取調べの音声のみが採用された。)は曖昧で揺れている
④その後の取調べでGを射殺しようとした理由を説明できなかった
⇒
被告人は、ともかく警察官と戦う意思で交番に赴き、Eと戦って生き残り次の戦いの準備の必要が生じた時点で初めて目の前にあったけん銃を取ることを決めた可能性が考えられ、Eに対する殺人の実行行為終了後にけん銃をとる意思が生じた可能性が排斥できない。
●量刑(死刑選択の当否)について
①本件の経緯や動機形成の点に自閉症スペクトラム障害(「ASD」)の影響が色濃く現れていること
②計画性が高いとはいえない
⇒死刑を選択することがやむを得ないとまではいえない。
最高裁:
裁判例の集積から見出される考慮要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を出発点として総合的な評価を行い、死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて、究極の刑罰である死刑の適用は慎重に行わなければならないという観点及び公平性の確保の観点をも踏まえて議論を深める必要がある。
本件:
医師による精神鑑定及び同鑑定結果を前提とした心理学の専門家による検討を踏まえて、被告人のASDが犯行の経緯や動機にいかなる影響を与えたかについて認定。
その上で、ASDによって責任能力が低下していたことを否定し、ASDの影響を大きく斟酌することはできない。
but
①本件の経緯や動機の形成過程の様々な点にASDの影響が表れていること
②ASDが本人の努力では如何ともし難い先天性の脳機能障害に起因する発達障害
⇒ASDの影響を被告人に対する避難可能性の点で一定の限度で酌むべき事情であるとして、犯情評価の点で考慮し、死刑の選択を回避した根拠の1つとしている。
平成27年最判:
早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し、これに沿って準備を整えて実行した場合には、生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく、行為に対する非難が高まる。
かかる計画性があたっといえなえければ、これらの観点からの非難が一定程度弱まる。
判例時報2515
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