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2022年7月 1日 (金)

近隣住人5人殺害で責任能力が争われた事案(心神耗弱)

大阪高裁R2.1.27

<事案>
近隣の住人5人を殺害した重大事案の控訴審判決。
責任能力が争われた。

<経緯>
1審でも、起訴前鑑定といわゆる50条鑑定(第1回公判前に実施した鑑定)を担当した2人の精神科医の供述が証拠に。
1審判決は、主として、50条鑑定を担当した精神科医の見解を採用。
but
控訴審において3度目の精神鑑定。
←弁護人の控訴趣意書で、1真の鑑定内容に相応の批判が加えられ、それを基礎に判断した1審判決にある程度の疑問が生じていた。

本判決:
本件犯行は、被告人の強い妄想が影響しているものと認められるところ、被告人の犯行時の精神状態について、原審で取り調べた精神科医の見立てで説明しきれるのか疑問の余地がないわけではない。

<解説・判断>
●控訴審における事実の取調べについては、控訴審が事後審であるという構造論からの制約。
裁判員裁判との関係では、控訴審が事実の取調べを行うのは例外的であり、取調べの必要性をかなり厳格に解釈すべきであるとの議論⇒そのような運用。
but
本件では、裁判員裁判の控訴審で、事実の取調べを行っている。

①1審の結論が死刑
②1審で取り調べた精神鑑定関係の証拠の信用性が、控訴趣意書で批判され、その当否を判断するには、さらに専門家の知見を得ることが必要であると判断された。
鑑定等の専門的知見や技術を活用する場合は、より新しい又はより高度な知見や技法によって、より客観的に真実に近づける場合も多い
⇒そのような場合には、事実の取調べは比較的認められやすい。

●責任能力の判断
被告人の抱いていた妄想が本件にどのような影響を与えていたかという、精神鑑定において最も重要な部分において、
妄想性障害にり患していた被告人につき、
経済的困窮等の環境的要因の悪化によるストレスが高じ、妄想的意味付けが活発化した点を、妄想性障害の悪化として捉えている。

1審:
被告人に妄想があること自体は認めつつも、被告人の世界観や被害者ら一家に対する悪感情など被告委任自身の正常心理の作用を認めて、本件に対する病気の影響は小さい。
vs.
本判決:本件の動機が被告人の妄想でしか説明できない⇒被告人の妄想が本件の決定的な原因であり、妄想の本件に対する影響は極めて大きかったとするのが論理的帰結。

◎責任能力を判断するために、妄想性障害の存在を前提に、犯行態様等(犯行動機、犯行前の行動、犯行態様、犯行後の行動)に、妄想性障害の影響がどの程度みられるか、反対から言えば、どの程度正常な精神作用が残されていたかという視点で、分析検討。

責任能力判断の指標となる7つの着眼点を意識しつつ、事案に即して、より直接的に責任能力の判断に踏み込む判断方法。

7つの着眼点:
①動機の了解可能性
②犯行の計画性
③行為の意味・性質、違法性の認識等
④自らの精神状態の理解、精神障害による免責可能性の認識
⑤犯行の人格異質性
⑥犯行の一貫性、合目的性
⑦犯行後の自己防御、危険回避行動

本判決:7つの着眼点を意識しつつも、これにとらわれない近時の責任能力判断の方法を実践。

◎被告人が最終的に犯行を決意した際の状況につき、
犯行前に自分の行為がどのくらいの刑になるのか調べたり、犯行直後、裁判になるのでもう会えないというメッセージを送ったり、臨場した警察官に対し、弁護士に来るまで話さないと述べたりしていることも踏まえ、
被告人は、たとえ処罰を受けることになっても、妄想性障害の強い影響を受けていたために、自己の復讐を果たすとともに、精神工学戦争の実在を明るみに出したいとの動機に基づき、そのような行為に出ることが正しいと認識して、規範障害を乗り越え本件に及んだとみるのが相当。

犯行を思いとどまる能力(制御能力)は、妄想のために著しく減退。
その結果、本来の人格からは相当解離のある残虐な殺害行為を、短時間のうちにためらいもなく、次々と行ったものであるが、
他面において、自己の行動が違法なものであることは理解していたし、殺害という行為以外に選択する余地がなかったかといえば、被害者らの殺害に直結するような命令性の幻覚等はなく、妄想の影響によって直接的に行為を支配されてはいなかった。

心神喪失ではなく、心神耗弱であった。

被告人の行動を、妄想性障害の影響の方向と、正常な精神作用によるものの方向との両方向から分析し、その上で総合評価した1事例。

判例時報2515

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