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2022年7月21日 (木)

刑事施設に収容中にうけた診療に関する個人情報開示(肯定)

大阪高裁R3.4.8

<事案>
大阪刑務所収容中のXは、自己の健康状態を知るため、行政個人情報保護法に基づき、大阪矯正管区長に対し、収容中にXが受けた診療録に記載されている保有個人情報の開示を請求。
⇒大阪矯正管区長が、本件情報は同法45条1項により開示請求の対象から除外されているとして、その全部を開示しない旨の決定(「本件決定」)⇒XがY(国)を相手として、本件決定の取消しを求めた。

<一審>
行政個人情報保護法45条1項が、同項所定の保有個人情報につき同法第4章の規定を適用しないこととしたのは、当該保有個人情報が、個人の前科、逮捕歴、勾留歴等を示す情報を含んでおり、開示請求の対象とすると、例えば、雇用主が採用予定者の前科の有無等をチェックする目的で採用予定者本人に開示請求をさせること等により前科等が明らかになる危険があるなど、本人の社会復帰の妨げとなるなどの弊害が生じることにある
⇒本件情報は同法45条1項により開示請求の対象外。

<判断>
本件情報は、形式的には行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に該当する。
but
その立法趣旨を達成するために診療に関する情報という有用かつ必要な情報を開示請求の対象から除外することは、規制目的と規制手段との合理的均衡を欠き、個人情報保護法制の基本理念と整合しない。
⇒本件情報には同項が適用されないと解釈すべき。

<解説>
R3.6.15最高裁判決:
刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらず、開示請求の対象となる。

立法経緯。
行政個人情報保護法45条1項は、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律の全部改正によって設けられた規定。
旧法13条1項は、個人情報の開示を原則としつつ、例外として、同項ただし書で、
①学校における成績の評価等
②病院等における診療に関する事項
③刑事事件や刑の執行等に関する事項
につき開示請求の対象から除外。
but
行政個人情報保護法45条1項は、
刑事裁判等関係事項を開示請求の対象から除外したが、
診療関係事項については開示請求の対象から除外する旨の規定を設けなかった。

(1)行政機関が保有する個人情報の開示を受ける国民の利益の重要性に鑑み、開示の範囲を可能な限り広げる観点から、医療行為に関するインフォームド・コンセントの理念等の浸透を背景とする国民の意見、要望等を踏まえ、診療関係事項の保有個人情報を開示請求の対象とすることにある。
(2)同法45条1項の制定過程でも、被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、同法第4章の規定を適用しないものとすることが具体的に検討されたことはうかがわれない。

被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は、同法45条1項所定の保有個人情報に当たらない。

判例時報2517

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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