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2022年6月20日 (月)

家賃保証業者の契約条項と消費者契約法8条1項3号、10条違反(否定)

大阪高裁R3.3.5

<事案>
Yは、家屋(住居)を賃借しようとする賃借人から保証委託契約の申込みを受けてこれを締結し、賃貸人と保証契約を締結する事業(家賃債務保証業)を営む事業者であり、不特定かつ多数の消費者である賃借人等との間で家賃債務保証等に係る消費者契約(本件契約)を締結。
消費者契約法2条4項所定の適格消費者団体であるXが、Yに対し、本件契約に含まれる各条項は同法8条1項3号又は10条に規定する消費者契約の条項に該当⇒同法12条3項に基づき、各条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求めた。

<規定>
第八条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

第一二条(差止請求権)
3適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第一号又は第二号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない。

<契約内容>
(1)本件契約13条1項
ア:家賃債務保証受託者であるYに賃貸借契約(原契約)を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項(13条1項前段)
イ:Yが原契約の無催告解除件を行使することについて、賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項(13条1項後段)

(2)
ア:賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、Yにおいて合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有しようとしない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき⇒賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限をYに付与する条項(18条2項2号)
イ:Yが前記アの条項に基づき賃借物件の明渡しがあったものとみなす場合⇒Yが賃借物件内等に残置する賃借人の動産類を任意に搬出・保管することに賃借人が異議を述べないとする条項(18条3項)
ウ:Yが前記アの条項に基づき賃借物件の明渡しがあったものとみなし、前記イの条項に基づき賃借物件内等に残置する賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において、賃借人が当該搬出の日から1か月以内に引き取らない⇒賃借人は当該動産類全部の所有権を放棄し、以後、Yが随意にこれを処分することに異議を述べないとする条項(19条1項)
エ:Yが前記アの条項に基づき賃借物件の明渡しがあったものとみなし、前記イの条項に基づき賃借物件内等に残置する賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において、Yが搬出して保管している賃借人の動産類について、賃借人が、その保管料として月額1万円をYに支払うほか、当該動産類の搬出・処分に要したYに支払うとする条項(19条2項)

<判断>
いずれも消費者契約法8条1項3号又は10条に該当しない⇒Xの請求をすべて棄却。

<解説>
●本件契約13条1項
◎本件契約13条1項前段の文言⇒賃借人が支払いを怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したときという要件のみをもってYによる原契約の無催告解除を許容する趣旨とみる余地がないではない。
but
家屋賃貸借契約における賃料の遅滞の場合の無催告解除特約当該契約を解除するに当たり催告をしなくても不合理とは認められない事情が存する場合に無催告での解除権の行使を許す旨を定めた約条として有効であると判例法理や
賃料の不払に対し賃貸人からの催告があったにもかかわらず、なお賃料が支払われない場合であっても、当事者間の信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情があるときは、債務不履行による賃貸借契約の解除は認められないものとする判例理論は、
現時点において賃貸借契約を規律する実体法規範の一部を成しており、本件契約にも適用される。

本件契約13条1項前段は、民法542条1項の定める事由以外の事由がある場合にも民法541条の履行の催告なく原契約を解除することを認める⇒任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するもの。
but
賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達するという事態は、それ自体が、賃貸借契約の基礎を成す当事者間の信頼関係を大きく損なう事情というべき。
契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に、原契約の解除前に履行の催告を受けられないという賃借人の不利益の程度はさして大きくない
信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものとはいえない

X:消費者契約法12条に基づく差止訴訟においては、個別具体的な紛争を前提とする通常の訴訟(個別訴訟)の場合とは異なり、限定的な解釈をすべきではない。
vs.
本判決:
消費者契約法12条に基づく差止請求訴訟においては文言を基礎とした解釈が優先されるべき。
but
前記判例法理は現時点で賃貸借契約を規律する実体法規範の一部を成しているということができる⇒前記結論。

前記判例法理による無催告解除特約等の限定的な解釈は、個々の契約について個別具体的な事情に基づき限定的な解釈がされる場合とは異なり、規範としての一般的ないし汎用性を有し、少なくとも裁判実務において広く安定的に適用されていることを重視。

◎本件契約13条1項前段が原契約の直接の当事者でないYに原契約の解除権を付与している点が、消費者契約法10条に該当するか?
本判決:
①解除権は・・・通常は契約当事者に認めれば足り、民法もこれを当然の前提としている。
②原契約の解除権をYにも付与すると、賃借人にとっては、解除事由が発生した場合に契約を終了させられる事態を避けるために交渉し、理解を得るなどしなければならない相手が増えて交渉等が困難となり、契約を終了させられる可能性が増す。
任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限する側面を有するというべき余地がある。

Yに原契約の解除権を付与している点が信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものといえるかが問題。

本件契約の内容:
①賃貸人は、原契約が継続している限り、賃料等を概ね確実に全額受領することができる地位を取得する反面、Yは、賃貸人に対して賃料等の不払を補填し、かつ、賃借人から求償債務の支払を受けられないリスクを負担。その負担は債務不履行の継続に伴い限度なく増大するおそれ。
②本件契約13条1項前段の趣旨は、このような本件契約をめぐる賃貸人とYとの利害状況に鑑み、民法の原則を修正して、賃借人による債務不履行のうち、特にYの負う経済的負担が拡大していく危険の高い賃料等の不払が一定の範囲を超えた場合に、原契約の解除権をYにも付与し、もって、原契約が継続することによりYの経済的負担が限度なく増大していく事態をY自らが解消することができるようにしたもの。⇒13条1項前段の趣旨・目的には、相応の合理性がある。
同条項の定める無催告解除の要件を満たす場合にYが解除権を行使し得るものとすることによって賃借人が受ける不利益の限度は限定的なものにとどまる。

Yに原契約の解除権を付与している点をもって信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものに当たるということはできない。
尚、Y:解除事由が存する以上、解除権を行使するのが賃貸人ではなく、Yであったとしても、賃借人には具体的な不利益が発生するわけではない旨主張。

◎13条1項後段について、
同項の文言を素直に読めば、同項後段は、同項前段によってYに解除権が付与されたことを前提に、Yがこれを行使することについて、賃借人を含む他の契約当事者に異議がないことを確認する趣旨にすぎない
同項前段の要件を満たさないにもかかわらず、Yが解除権を行使した場合に、賃借人がYに対して取得する損害賠償請求権等の法的権利を放棄させたり、そのそも無効と解されるべきYの解除権の行使について、これを争う利益を放棄させたりするとの趣旨を読み取ることはできない。
⇒消費者契約法8条1項3号又は10条に該当しない。

●18条2項2号等について
◎ 1審:
18条2項2号は、同条3項及び19条1項の内容と相まって、原契約が終了しておらず、賃借人がいまだ賃借物件の占有を失っていない場合であってもYに自力で賃借物件の占有を取得させることを認めるものにほかならず、これは自力救済行為として不法行為に該当ものであるのに、賃借人に対し、同行為を理由とするYに対する損害賠償請求権を放棄させる内容を含む⇒消費者契約法8条1項3号に該当。

判断:
これらの条項は、いずれもYに各条項所定の一定の権限を付与し、賃借人がYによる権限行使に異議を述べないことなどを規定したものであり、それを超えて、Yが、本件契約18条2項2号の要件を満たさないにもかかわらず賃借物件の明渡しがあったものとみなして同条3項、19条1項により付与された権限を行使したり、あるいは、これらの権限を行使するに際し故意または過失により賃借人に損害を与えたりしたような場合にまで、これによりYが賃借人に対して負うこととなる不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する趣旨を読み取ることはできない⇒法8条1項3号に該当するとはいえない。

契約で付与された権限を契約当事者が行使することについて相手方当事者が異議を述べない旨の条項があるからといって、当該権限の行使に関する不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する趣旨まで含むものと解するのは、一般的に困難。

◎X:本件契約18条2項2号はYによる自力救済を正当化する条項として消費者契約法10条に該当。
一般に、私力の行使は、原則として法の禁止するところであり、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される(最高裁)とされており、
賃借人が契約の終了後も任意に賃借物件の明渡しを履行せずにその占有を継続している場合に、賃貸人等がこれを自力で執行する自力救済は原則として許容されない。
このような本来は許容されないはずの自力救済について、一定の要件の下でこれを認める旨の条項をあらかじめ契約に定めることが直ちに許容されないか?

最高裁:所有権留保の自動車月賦販売において、割賦金不払による解除により自動車の引揚げをあらかじめ約諾することは公序良俗に反しない。
but
自力救済が原則として禁止されるのが社会秩序の維持を理由とする⇒前記のような条項をあらかじめ契約に定めたからといって、無限定に自力救済が許容されるとは考え難い。

本判決:
同条項は、賃借人が賃借物件について占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)ものと認められるための要件をその充足の有無を容易かつ的確に判断することができるような文言で可能な限り網羅的に規定しようとした条項。
同条項は、賃借人から明渡しがされたとは認められないものの、所定の要件を満たすことにより、賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において、賃借人が明示的に異議を述べない限り、Yに対し、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与すると解するのが相当。

同条項が賃借物件について賃借人の占有が残っている場合にまでYによる自力救済としてその占有を解くことを目的とする条項であるとするXの主張は採用できない。

◎本件契約18条2項2号やこれに基づき明渡しがあったものとみなされた後のYによる賃借物件内の残置動産の搬出等を許容する同条3項等の条項が消費者契約法10条に該当するか?
任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものであるが、信義則に反してその利益を一方的に害するものということはできない。

①賃借人が受ける不利益が賃借物件内の動産類を搬出・保管ないし処分され得るという点に限られ、むしろ現実の明渡しをする債務を免れ、賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受ける
②賃借人は明示的に異議を述べさえすればYによる権限の行使を阻止することができる
③賃貸人やYが受ける利益が大きい
消費者契約法の適用範囲に関し、同法は、消費者契約の条項が同法10条により無効とされるか否かを、合理的な解釈により確定される当該条項の客観的規範内容それ自体が同条の要件に該当するか否かによって判断すべきものとしているのであって、
当該条項の内容が事業者の誤った運用を招来するおそれがありそれによって消費者が不利益を受けるおそれがあることを理由に当該条項を無効とすることは、同法の予定しないところであると解すべき。

判例時報2514
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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