宅建業法の趣旨に反する名義貸し合意とこれと一体としてされた利益分配合意の効力
最高裁R3.6.20
<事案>
・・・
Xが、Yに対し、本件合意に基づいてXに支払われるべき金員の残額として1319万円余りの支払を求めるなどするもの。
本件反訴:Yが、Xに対する1000万円の支払は法律上の原因のないものであったと主張して、その返還等を求めるもの。
<判断>
宅建業法3条1項の免許を受けない者(「無免許者」)が宅地建物取引業を営むために免許を受けて宅地建物取引業を営むもの(宅建業者)からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、宅建業法12条1項及び13条1項の趣旨に反する⇒公序良俗に反し、無効である。
事実関係等によれば、本件合意は前記各条項の趣旨に反するものである疑いがあり、
Yから本件合意の内容は宅建業法に違反する旨の主張もされていたところ、同主張について審理判断することなく本件合意の効力を認めた原審の判断には、明らかな法令違反がある。
⇒
原判決中、Yの敗訴部分を破棄し、本件合意の効力等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。
<解説>
● 宅建業法:
宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用しして、
欠格要件に該当する者には免許を付与しないものとし、
無免許の営業及び宅建業者による名義貸しを禁止し、
これらの違反について刑事罰を定めている。
● 行政法規違反の法律行為の私法上の効力:
A:通説:
行政法規を
①事実としての行為を命じたり禁止したりすることを目的とするいわゆる取締法規と、
②法律行為としての効力を規制することを目的とする強硬法規とに区別し(二元論)、
取締法規違反(①)にとどまる場合には、原則として法律行為を有効としつつ、例外的に、立法の趣旨、違反行為に対する社会の倫理的非難の程度、一般取引に及ぼす影響、当事者間の信義・公正等を総合的に考慮して、その効力を無効とすべきか否かを決定。
B:取締法規と強行法規との区別をしない見解(一元論)
B1:行政法規を警察法令と経済法令との分け、
前者に違反する法律行為については司法上の効力に謙抑的であるべきであるが、
後者に違反する法律行為については積極的にその効力を否定すべき
(取引的公序論)
B2:民法90条が私的自治・契約自由を制限する規定
⇒同条を適用して法律行為を無効とするためには、
①法令の目的が法律行為を無効とすることを正当化するに足りるだけの重要性をもつこと、
②その法令の目的を実現するために法律行為を無効とすることが必要不可欠といえることを要する
とする憲法的公序論
判例:
行政法規に反する法律行為の効力については、そのことを理由に直ちに無効であるとするものは少なく、原則としてこれを有効としつつ、個々の事例ごとに公序良俗違反となるか否かを判断しているものが多い。
行政法規によって許可制度や免許制度が採用されるなど、一定の資格がある者に限って一定の取引等をすることができるとされている場合において、その法規違反となる名義貸しを内容とする合意がされた場合:
A総合判断説:
法律がとくに厳格な標準で一定の資格のある者に限って一定の企業ないし取引をすることができるとしている場合に、その名義を貸与する契約は、法律がその企業ないし取引をする者を監督しようとしている趣旨に反する⇒無効
B2:
そうした契約を無効としないかぎり、許可を得ていない者がその名義を利用して営業するのを少なくとも法形式上放任してしまうことになり、審査を経て許可を受けた者にのみ営業を許すという許可制の目的と相いれない⇒無効。
<規定>
宅建業法 第一二条(無免許事業等の禁止)
第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
宅建業法 第一三条(名義貸しの禁止)
宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
●名義貸しが宅建業法13条1項違反となるためには、「他人」が「宅地建物取引業を営」むことを要する⇒名義借り人が営利の目的で反復継続して行う意思の下に宅建業法2条2号所定の行為をすることが必要。
仮に、本件合意が公序良俗違反により無効⇒反訴請求については、1000万円の支払が不法原因給付に当たるか否かが問題。
公序良俗違反により無効となるのは、名義貸し人と名義借り人との間の内部的な合意、すなわち名義貸し合意とこれと一体としてされた利益分配合意であって、名義を借りてされた外部者との取引行為自体が無効となるものではない。
●本判決:
行政法規である宅建業法の趣旨に反する名義貸し合意とこれと一体としてされた利益分配合意が、公序良俗に反し、無効であるとの法理判断を最高裁において初めて示したもの。
判例時報2515
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