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2022年5月 8日 (日)

破産法162条2項2号の悪意の推定⇒会社法429条1項の悪意の認定

東京地裁R2.1.20

<事案>
破産者C1㈱の破産管財人Xが、Y1㈱の代表者Y2は、C1が支払不能であることを知りながらY1のC1に対する貸金債権につき弁済期前に弁済等を受けた⇒Y1に対し、破産法162条1項1号イによる不当利得返還請求権に基づく前記弁済等の額の支払いを求めるなどし、
Y2に対しては、破産法の規定に違反して弁済期前に弁済等を受けるなどしたことが代表取締役としての任務懈怠に当たる⇒それにより生じた前記弁済等の額に相当する額の損害賠償(会社法429条1項に基づく損害賠償))を求めた。

<規定>
破産法 第一六二条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
・・・

2前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。

・・・
二 前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合

<判断>
● Y1は、破産者C1が支払不能になった後、そのことを知りながら本件支払を受けたこととなる⇒Y1の支払った2800万円のうち本件貸金元本に相当する2760万円については、破産法162条1項1号イによる否認権行使の要件を満たす。
(当該支払は既存の債務の消滅に関する行為であってその時期が破産者の義務に属しないもの⇒Y1は破産者が支払い不能であったことを知っていたものと推定される(法162条2項2号)を前提)
本件支払のうち40万円については、利息制限法に違反する無効な弁済⇒不当利得として返還義務あり。

●Y2の会社法429条1項に基づく損害賠償責任
①否認権行使の対象となる行為をすることは、破産者の他の債権者との関係では、破産法の規律に違反する行為であるとの評価を否定することができないことに加え、否認権行使により不当利得として返還を求められることとなれば、訴訟などの対応のための費用を要するだけでなく、悪意の受益者として法定利息の支払をも余儀なくされるY1の取締役であるY2としては、Y1をして否認権行使の対象となる行為をさせないようにすべき善管注意義務を負っていた
利息制限法に違反する無効な弁済であり、不当利得として返還を余儀なくされることが明らかな支払についても、Y2としては、同様に、このような支払を受けないようにすべき法令遵守義務ないし善管注意義務を負っていた。
but
Y2はY1をして本件支払を受けさせた⇒利息制限法に違反する40万円の弁済額を除く2760万円についても、その後のXの否認権行使により効力を生じないものとされるに至った以上、支払を受けた2800万円全額について法令遵守義務ないし善管注意義務に違反し、任務懈怠があった。

会社法429条1項の悪意又は重過失の要件について:
本件では、Y2の本人尋問を行うことができなかった⇒Y2の内心は証拠上明らかでない。
but
Y2が悪意又は重過失により任務懈怠に及んだという場合の悪意又は重過失対象とは、本件支払のうち2760万円との関係では、Y1をして否認権行使の対象となる行為をさせたこと、すなわち本件支払が否認権行使の対象となることであり、その実質は、破産者が支払不能であったことの認識にかかっている
同項の悪意の対象は、破産法162条2項2号により推定された悪意の対象と実質的には同一

同号による悪意の推定の効力は、自由心証主義を背景とした事実上の効力として、会社法429条1項の悪意にも及ぶ。
40万円との関係でも、利息制限法違反を基礎づける事実関係についてはY2においても認識していた利息制限法に違反する内容の本件貸金契約を締結し、これに対する弁済として過払を受けた以上、40万円の弁済が無効となり得ることについてY2に悪意又は重過失があったことは明らか。

● X:Yらに対して、破産法の規定に違反して期限前弁済を受けるなどしたことが共同不法行為に当たる⇒不法行為による損害賠償請求もした。
vs.
債権者においてその権利を濫用し、他の債権者を害する意図でことさらに期限前弁済を受けたというような特段の事情がある場合を除けば、弁済を受けたこと自体が即座に不法行為を構成すると解することは相当ではない

XのY1に対する不当利得返還請求及びXのY2に対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求を認容。
両請求は、その重なり合う限度で不真正連帯債務の関係に立つ。

<解説>
貸金の期限前弁済の事案について、破産者より弁済を受けた債権者(株式会社)が、破産法162条2項2号の推定規定が適用されることを前提に、破産管財人による否認権行使が同条1項1号イの要件を満たすとされた上に、
同債権者の代表取締役についても、その職務を行うについて悪意又は重過失があったとされ、破産管財人に対する損害賠償義務が認められた例。

判例時報2510

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