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2022年5月19日 (木)

都市計画決定から相当期間経過で、事業認可の違法性判断の枠組み基準を示した事案

静岡地裁R2.12.24

<事案>
国土交通大臣から権限の委任を受けた中部地区整備局長及び静岡県知事が、訴外A(JR東海)沼津駅付近の鉄道高架化に関して、平成15年に決定された都市計画の事業計画の変更認可
⇒事業地内又はその周辺において、土地を所有するなどしているXら28名が、Y1(国)及びY2(静岡県)を相手に、本件各変更認可の違法を主張して、
平成20年の各変更認可については無効確認を
令和1年の各変更認可については取消しを求める。

Xら:
Xら全員に原告適格が認められるとした上で、本件各変更認可の違法性について、
①都市計画事業は、事業の内容が都市計画に適合することが認可の要件とされている(都計法61条1号)ところ、本件都市計画決定は、Y2がその裁量を逸脱濫用していたものであるから違法であり、それに基づいてされた本件各変更認可も違法
本件都市計画の変更後に都計法21条1項に基づく都市計画の変更をすべき事情が存したにもかかわらず、これが変更されないままになされた本件各変更認可は違法

<判断>
最高裁H17.12.7(小田急線高架化事件)を参照した上で、
本件高架化事業は、環境影響評価法及び静岡県環境影響評価条例が定める環境影響評価等の対象事業には該当せず、本件高架化事業の規模が大きく、かつ、環境に与える影響の程度が著しいものとなるおそれがあるものとは認められない
事業地の周辺に居住等する者が、本件高架化事業が実施されることにより、騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるとは認められない。

Xらのうち、事業地周辺に居住等するにすぎない者、すなわち、事業地内において現に不動暖を所有するか、又は居住するか、若しくは事業地内の土地について収用裁決を受けた者以外の者の原告適格を否定してその訴えを却下。

争点①:
本件都市計画は、その決定時点において、必要性、合理性が認められ、Y2がその裁量を逸脱濫用したとは認められない。

争点②:
その後の社会・経済情勢の変化のあった本件各変更認可の時点においても、本件都市計画の必要性や合理性が失われたとはいいがたく、本件都市計画を変更すべきことが明白とはいえない⇒本件各変更認可は適法

<解説>
●事業認可の取消訴訟等では、その前提となる都市計画決定の違法性が争点となることが多い。

本判決:
事業認可の違法性を判断するに際して都市計画の違法性を判断する場合の基準時について、都市計画決定時と解する立場。

行政処分の違法性の判断基準時を当該行政処分時と解する通説的な立場に依拠。
but
都市計画の事業認可の取消訴訟においては、往々にして都市計画から事業認可までの時間的間隔が大きく、その間に社会・経済情勢が少なからず変化⇒これを一切考慮することなく事業認可の違法性を判断することに疑義が生ずる場合もある。

裁判例の中には、都市計画決定後の事情の変化が事業認可の違法性に影響を及ぼす余地を残すものが散見

●本判決:
争点②の判示部分で、
都市計画決定後に相当の長期間を経過し、当該都市計画の基礎とされた社会・経済情勢に著しい変化があったこと等により、当該都市計画の必要性や合理性がおよそ失われ、都計法21条1項に基づき当該都市計画を変更すべきことが明白であるといえる事情が存するにもかかわらず、これが変更されないまま事業認可申請に至ったものであることが一見して明らかであるなどの特段の事情がある場合に限り、事業認可が違法となる旨判示。

都計法21条1項が、都市計画の決定権者たる都道府県又は市町村は、都計法6条1項又は2項により都道府県がおおむね5年ごとに行うこととされている都市計画に関する基礎調査あるいは都計法13条1項20号に規定される政府が法律に基づき行う調査の結果、都市計画を変更する必要が明らかとなる等の事情が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨規定。
都市計画後の事情により、事業認可が違法となる余地を認めた。

本判決:
①都計法21条1項の文言が「調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったとき」となっており、都市計画を経納する必要の明白性を要求
②事業認可の認可権者は、事業の内容が都市計画に適合していることを審査すれば足りるのであって(都計法61条1号)、それを超えて都市計画の内容を審査することまでは想定されておらず、かえって都市計画の具体的な内容にわたって審査を行うことは、都市計画の決定権者たる地方公共団体への不当な干渉となってしまう場合がある。

都市計画を変更すべき事情が外部からも一見して認識できる程度のものである必要がある。
都計法21条1項の趣旨に照らして違法として取消しを認めることは、実質的に都市計画決定権者に対して同項に基づく都市計画の変更を迫ることになる
その違法となる場合の要件は、行訴法37条の2に規定される非申請型義務付け訴訟の訴訟要件及び本案勝訴要件に準ずる程度の要件を要求すべきと解される(たとえば、当該都市計画に基づく事業が実施された場合に原告に重大な損害を生じ、その損害を避けるために都市計画の変更をする以外に適当な方法がないという事情は、都市計画を変更すべきといえる一事情になろう。)。

判例時報2511

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