座間(9人殺害)事件
東京地裁立川支部R2.12.15
<判断>
●承諾殺人の主張
●責任能力に関する主張
●死刑を選択した理由
<解説>
●被告人質問先行型の審理
被告人は、弁護方針に反発し、検察官ら弁護人以外の者からの質問には答えるというパフォーマンス。
検察官からの質問に答えた被告人の供述が、有力な証拠となって、事実認定が行われた。
かつて:
被告人の捜査段階の供述(自白調書など)があれば、被告人質問に先行してその取調べが行われ、その後に各当事者からの被告人に対する質問が行われる。
but
最近:
直接主義、法廷中心主義を標ぼうする裁判員裁判の影響⇒被告人質問を先行させる例が増えてきている。
被告人質問終了後、それによって審理が尽くされたと考えれば、検察官は、被告人の供述調書を証拠として請求しないか、請求を撤回。
本件でも、
検察官は数多くの被告人の供述調書の取調べを請求し、弁護側から、不同意の意見が述べられたが、公判全整理手続の段階では、その採否はいったん留保され、公判で被告人質問。
⇒検察官は、立証は尽くされたとして被告人の供述調書全部の請求を撤回。
but
被告人の供述が公判廷のものであるからといって、すべてが信用できるとは限らない。
場合によっては、逆に、捜査段階の供述の変遷などが公判供述の信用性判断のために必要となってくることも考えられる。
本件:
弁護人側が、捜査段階の供述調書の一部を公判供述の信用性を減じる弾劾証拠として請求し、採用された。
被告人が諦めの気持ちから速やかに審理を終わらせたいと望んでいるような場合には、検察官に迎合して事実に反して不利益な事実を供述することもあり得る⇒十分に配慮した審理が必要。
●刑事弁護人の任務
弁護人の説得に関わらず、被告人が弁護人の審理方針を拒絶した場合?
A:被告人の「正当な利益」になるような弁護であればそれを遂行することこそが、その任務に適う
B:むしろ、被告人の意向に沿うことが、弁護人の任務に適うと考えるべき
but
本件のように死刑が想定される事件に関しては、例外的ではあるが、弁護人が後見的役割を発揮せざるをえない場面に該当⇒被告人本人の意向に反してでも、自ら最善と思われる弁護を遂行することこそがその職務に適うと考えるべき。
その場合、裁判所は、被告人の過剰なパフォーマンスを引き出し、正常な事実審理をゆがめることがないかを注意深く見守る必要がある。
●承諾殺人罪における「承諾」の意義
本判決:
殺害の「承諾」について
犯行時におけるものに限定した上、
「承諾」は黙示的なものでもよいが、「承諾」があったと認めるには、その「承諾」が被害者の真意と合致する必要があり、それから外れるものは「承諾」から排除するというアプローチ。
「命を絶つタイミングやその方法」に着目すれば、いきなり襲い掛かられて失神させられたという点において、被害者の真意から外れている⇒黙示的なものであっても承諾があったとはいえない。
but
「承諾」は、明示的であれ、犯行の前に存在するのが普通であり、細かい点までは決まっていなくても、ある程度の具体性があり、いわゆる希死念慮と真摯性が認められれば、それに該当するものと考えられてきた。
事前の「承諾」から、現実の殺人行為に至るまでに、時間が経過したり、事情の変動が生じたり⇒承諾と現実の殺人の間に因果関係があるといえるかが問われる(大塚)。
●精神鑑定(いわゆる50条鑑定)の採否
弁護人は、被告人の責任能力を争い、公判前整理手続において、精神鑑定(いわゆる50条鑑定)を請求。
but
裁判所は認めず。
A:裁判員裁判においては、複数鑑定はできる限り避けるべき⇒50条鑑定を実施する時の条件を厳格に絞ろうとする見解。
本件では、被告人が鑑定に拒否的⇒弁護人が私的鑑定等によって、新たな鑑定の必要性を提示することも難しかった。
but
鑑定人の資質に問題があるとか、鑑定内容によほど不都合な点が見つかったということでもなければ、50条鑑定を認めないというのであれば、そのハードルは非常に高くなる。
相模原殺傷事件:
起訴前鑑定が行われていたが、50条鑑定も実施された。
同事件では、50条鑑定と弁護人の提出した私的鑑定とが公判において比較対照されるという進行。
心斎橋通り魔事件:
複数の鑑定につき取調べが行われた。
判例時報2509
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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