« 主観的追加的併合の可否が争われた事例 | トップページ | 自筆証書遺言で遺言者の押印が否定された事案 »

2022年4月 3日 (日)

行政処分の職権取消しの可否が問題となった事案

最高裁R3.6.4

<事案>
被災者生活再建支援法所定の被災者生活再建支援金に関し、これを支給した被災者生活再建支援法人とその支給を受けた世帯主らとの間で、その返済の要否が争われた。
Yは、平成23年9月から同年12月末までの間絵に、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとして、本件世帯主らに対し、支援法3条所定の金額(37万5000円~150万円)の支援金を支給する旨の決定をし、その後これを支給。
・・・・
Yは、平成25年4月、本件世帯主らに対し、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとの認定に誤りがある⇒本件各支給決定を取り消す旨の決定。
本件 Xら(47名)が、本件各支給決定を取り消すことや許されないとして、Yを相手に、本件各取消決定の取消しを求める一方(本訴)、
Yが、本件各取消決定により本件各支援金を保持する法律上の原因が失われたとして、Xらに対し、本件各支援金に相当する額の不当利得返還を求めた(反訴)

Y:公益財団法人都道府県センター:宮城県から支援金の請求に関する事務の委託を受けた支援法人

<争点>
①本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するか
②支給要件の認定の誤りを理由に本件各請求決定を取り消すことが許されるか

<原審>
争点①について:大規模半壊世帯に該当するとは認められない

争点②について
A:本件各支給決定の効果を維持することによる公益上の不利益(=基金の健全性に支障を生じさせ、支援金の請求に関し不公平感を生じさせる可能性があること)が、
B:本件各支給決定の取消しによって生ずる不利益(=本件証明書の内容が事後に変更されるリスクは事務処理上の利益を享受しているYが負担すべきであり、その被害認定を事後に覆すことは支援金の使用をちゅうちょさせるなど支援法の趣旨に沿わない事態を生じさせかねないこと等)を上回らない

本件各支給決定を取り消すことは許されない。

本訴請求を認容するとともに反訴請求を棄却

<判断>
争点①に対する原審の判断を前提として、
争点②について、本件各支給決定を取り消すことは許される

<解説>
●行政処分の職権取消しの適否に関する判基準
本件各取消決定は、本件各支給決定に原始的な瑕疵(支給要件の認定の誤りという違法)があることを理由として、その効力を遡って失わせるものであり、行政処分の職権取消しに当たる。

職権取消し:法令又は公益(行政目的)に違反している状態の是正を目的とするものであり、明文の規定がなくてもすることができる。
but
各名宛人に利益を付与する処分(授益的処分)の職権取消しは、名宛人に不利益をもたらすおそれがある⇒一定の制約を受ける(取消権の制限)。

最高裁判例:
授益的処分の取消しは、
A処分の取消しによって生ずる不利益と
B処分の効果を維持することによる不利益
とを比較衡量し、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められるときにすることができる。

具体的な利益状況が事案ごとに異なる⇒処分に係る法律の仕組みに即して、その取消しによる不利益や瑕疵の原因等を具体的に考慮するのが相当。

前記の利益衡量における考慮要素:
(1)処分の瑕疵(違法)の原因、内容及び程度
(2)処分の取消しにより名宛人その他の者が被る不利益の性質、内容及び程度
(3)処分の効果を維持することにより害される公共の利益の性質、内容及び程度
(4)処分の取消しの時期
が中心に。

(3)について、社会保障の分野での取扱いを参考にすると、
①支給の適法性及び平等原則の確保による制度の安定的運用
②財政規律の確保
③多数の者が迅速な給付を受ける利益
を挙げることができる。

●本件について
支援法は、その目的、内容(支援金の支給要件である「被災世帯」の意義、支援金の額の決定方法等)等⇒
自然災害による住宅の被害が所定の程度以上に達している世帯のみを対象として、その被害を慰謝する見舞金の趣旨で支援金を支給する立法政策を採用し、
支給要件の認定を迅速に行うことを求めつつ、
公平性を担保するため、
その認定を的確に行うことを求めている。

上記の利益衡量:
本件マンションの被害の程度は客観的には一部損壊にとどまる⇒本件各支給決定の誤りは支援金の支給要件の根幹に関わる。

本件各支給決定の効果を維持すると、被害を受けた極めて多数の世帯の間で公平性が確保されず、税金その他の貴重な財源(補助金等に係る代さんの執行の適正化に関する法律3条1項)を害し、また、今後、罹災証明書の認定を誤らないようにするため市町村に過度に慎重かつ詳細な調査等を促しかねず(誤って支給された支援金が返金されない⇒損失を被った支援法人や国が誤った認定をした市町村に対して損害賠償等を求める可能性を否定できず、これを回避したい市町村にとって過度に慎重な調査を行う動機がある)、かえって支援金の支給の迅速性が害されるおそれがある等の不利益⇒支援法の目的の実現が困難になりかねない。

本件世帯主らは、本件各支給決定の取消しにより本件各支援金を返還させられることになる
butその利益を享受できる法的地位をおよそ有していない以上やむを得ない。

本件各支給決定の取消しまでの期間が不当に長いとも言い難い。

本件各支給決定の効果を維持することによる不利益>これを取り消すことによる不利益
であり、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要がある。

●職権取消しの適否を決するための利益衡量においては、法律による行政の原理を回復するという職権取消しの目的をふまえ、処分の瑕疵の原因、内容及び程度を検討することが重要であることを示唆。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 主観的追加的併合の可否が争われた事例 | トップページ | 自筆証書遺言で遺言者の押印が否定された事案 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 主観的追加的併合の可否が争われた事例 | トップページ | 自筆証書遺言で遺言者の押印が否定された事案 »