覚せい剤輸入で、間接事実を推認しての故意の認定等が否定された事案
東京高裁R3.3.17
<事案>
被告人が、分離前の相被告人A及び氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、中国の郵便局から、14キログラムを超える覚せい剤を段ボール箱1箱に隠匿収納して国際スピード郵便物として被告人の居室宛てに発送し、日本国内に持ち込んで密輸した⇒覚せい剤営利目的輸入等の共謀共同正犯として起訴。
<原審>
主に被告人の公判供述により前提となる事実関係を認定⇒複数の推認⇒被告人の捜査段階の自白の信用性を検討するまでもなく、被告人が、本件郵便物が発送されるまでの間に、本件郵便物の中に覚せい剤を含む人体に有害で違法な薬物が含まれている可能性を認識していたと推認。
<判断>
● 被告人の認識を間接事実により推認する場合、その推認は確実なものであることを要する。
but
一審判決において、
Aが反社会勢力から覚せい剤を入手していることを被告人が想定していたとする推論
+
Aが北朝鮮産の覚せい剤の譲渡単価について発言したことを被告人が伝え聞いた
⇒Aが海外から覚せい剤を輸入することを被告人が想定していたと推認
は大きな飛躍。
vs.
特定の外国で製造された覚せい剤の譲渡単価の知識は、密輸入を自ら行ったことにより得たものではなく、当該外国産の覚せい剤を譲り受けた際などに得られた可能性もある。
その後の推論は成り立たない以上、本件郵便物に隠匿された覚せい剤について、被告人の未必的な認識を推認することはできない。
一審判決では事実認定の基礎としなかった自白の信用性についての検討を行い、
録音録画記録媒体による取調べ状況や、ADHD(注意欠如・多動性障害)等と診断されている被告人の発達障害等が及ぼした影響等も踏まえた上で、結論として、自白の信用性を肯定
⇒被告人は本件郵便物の中に覚せい剤を含む違法な薬物等が入っている可能性があると認識していた。
● 被告人の営利目的について:
被告人は、Aが違法薬物の密売による利益を目的に本件郵便物を輸入しようとしている可能性を認識していたとする一審判決の推論は合理的。
but
①Aの密輸による利益が被告人にとっても経済的利益となる面があったといえること
②何らの利得も期待せずに受取役というリスクのある役割を引き受けるとは考え難い
という推論を加えることで、被告人の営利目的を認めた一審判決の判断は是認できない。
<解説>
● 事実認定において、主要な直接証拠が自白、目撃供述等の供述証拠であるとき、
直接証拠を除外して間接証拠等の情況証拠によってどのような内容の事実が」認定できるのかなどを見極め、
その結果認定された事実を踏まえ、それまで除外していた直接証拠の任意性、信用性の判断を行うなどして直接証拠による事実認定を行うといった、
情況証拠を重視し、供述証拠に依拠することをできるだけ避ける方法による事実認定をする運用。
~
事実認定の客観化に資する。
間接事実から要証事実を推認する場合、間接事実の推認力を検討する必要。
その際、反対仮説の可能性が残れば残るほど推認力は弱くなる
⇒反対仮説の成立可能性を検討することが重要に。
(最高裁H19.10.16)
● 営利目的には、
自ら利得を得ようとする自利目的と、
他人に利得を得させようとする利他目的
がある。
判例時報2508
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