滞納処分による配当金の充当関係
最高裁R3.6.22
<事案>
Y(北海道稚内市)の市長は、Xの市民税及び道民税のうち平成21年度分から同23年度分までのもの並びにその延滞金等につき、滞納処分により徴収。
その後、本件市道民税の税額を減少させる各賦課決定をするとともに、
Xに対し、これによる過納金の還付及び還付加算金の支払をした。
Xが、市長による前記過納金の額の計算に誤り⇒Yに対し、不足分の過納金の還付及び還付加算金の支払を求めるとともに、国賠法に基づく損害賠償を求めた。
<主張>
X:本件各対応処分において差押えに係る地方税に配当された金銭であって、本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されたものについては、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の市道民税に充当されるべきであり、その充当後の滞納税額を基礎として延滞金の額を計算すべき。
<判断>
複数年度分の普通徴収に係る個人の市町村民税及び道府県民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の個人住民税に充当されていたものは、その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の個人住民税が存在する場合には、民法489条の規定に従って当該個人住民税に充当される。
<解説>
● 本件指導民税については、賦課決定により一旦確定した税額が、本件各減額賦課決定により減額されており、この減額賦課決定は、従前の負荷決定の一部取消し(講学上の職権取消し)に相当。
処分に当初から瑕疵があったことを前提とする職権取消しの効果は遡及的に生ずるものと解するのが一般的。
本件各減額賦課決定も、当初から賦課決定に瑕疵(税額等の計算の誤り)があったことを理由とする⇒その効力は遡及的に生じる⇒本件市道民税のうち、本件各減額賦課決定により減少した税額に係る部分は、当初から存在しなかったこととなる。
本件の争点:
本件各滞納処分(複数年度分の市道民税を差押えに係る地方税とするもの)において、差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものの帰すう。
市長:
当該金銭は直ちに過納金となり、そのままXに還付すべきものとした。
X:
当該金銭は、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の指導民税に充当されるべき。
●配当金の充当に関する規律
◎ 民事執行について、昭和62年最判は、
担保不動産競売の手続における同一の担保権者に対する配当金がその担保権者の有する数個の被担保債権の全てを消滅させるんじ足りない⇒その配当金は当該数個の債権について改正前民法489条ないし491条の規定に従った弁済充当(法定充当)がされるべきものであって、債権者による指定充当は許されない。
←
担保不動産競売の手続は執行機関がその職責において遂行するものであって、配当による弁済に債務者又は債権者の意思表示を予定しないものであって、
同一債権者が数個の債権について配当を受ける場合には、画一的に最も公平、妥当な充当方法である法定充当によることが、競売制度の趣旨に合致。
以上の趣旨は、強制執行における配当にも及ぶものと解されている。
◎ 滞納処分における配当金:
いわゆる本税優先の原則(税徴法129条6項、地税法14条の5第1項)が規定
but
法令上の規定も最高裁判例も存在しない。
滞納処分は租税債権者が自ら租税債権の強制的実現を図る手段⇒租税債権者(税務署長等)がその裁量により前記の充当の順序を決めることができると説明されてきた。
but
税徴方基本通達第129条関係19は、
徴収の基因となった国税が複数ある場合、本税と本税の相互間は、民法488条4項2号及び3号(改正前民法489条2号及び3号)の規定に準じて処理するものとし、参考判例として昭和62年最判を掲げている。
●本判決の判断
遡及効肯定。
複数の地方税を差押さに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭は、当該複数の地方税のいずれかに滞納分が存在する限り、法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく、当該滞納分に充当されるべきもの。
滞納処分制度が地方税等の滞納状態の解消を目的とするもの⇒前記のように当初の充当が効力を有しないこととなった配当金についても同様に妥当し、当該配当金は、その配当時において差押えに係る地方税法のうちに他に滞納分が存在する場合には、これに充当されるべきもの。
滞納処分制度が設けられている趣旨⇒当初の充当が効力を有しないこととなった配当金について他に充当されるべき差押えに係る地方税が存在する場合には、債務の充当に係る画一的かつ最も公平、妥当な充当方法である改正前民法489条の規定に従った充当(法定充当)がされるものと介すべき。
● 過納金は還付加算金が付されて還付されるが(地税法17条の4第1項)、延滞金の利率は還付加算金の利率よりも原則として年7.3%も高い⇒当該配当金がそのまま過納金として還付されて他の滞納分に充当されないとすると、納税者は、当初から瑕疵のない賦課決定に基づく徴収がされた場合と比べて、この還付加算金と延滞金との差に相当する負担を強いられる結果となる。
判例時報2508
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