仮想通貨の取引用アカウントに第三者が不正にアクセスして行った取引の効力
東京地裁R2.3.2
<事案>
Xは、
主位的に、
Yとの間ではビットコインを寄託の目的物とする混蔵寄託契約が成立⇒YはXに対して帰宅されていたビットコインの返還義務を負う。
Yが本件各取引に応じた結果、同返還義務は履行不能となった⇒債務不履行に基づく損害賠償請求
予備的に、
不正取引である本件各取引の効力がXに及ぶことはなく、Xが本件各取引に供されたビットコインを引き続き保有していることを前提に、
(a)Xが本件訴訟係属中に前記ビットコインをYに売却する旨の注文を提示したことによってその旨の売買契約が成立⇒同売買契約に基づく代金を請求(予備的請求①)
(b)Yが前記注文定時に応じなかったことについて債務不履行に基づく損害賠償を請求(予備的請求②)
(c)本件利用契約に基づき、前記ビットコインについて電子情報処理組織を用いたXへの権利移転手続を請求(予備的請求③)
(d)Xが前記ビットコインを保有していることの確認を請求(予備的請求④)
<判断>
●主位的請求:
寄託物契約は物の保管を目的とする契約であるところ、民法上、物とは有体物のことをいい、有体物とは、空間の一部を占める有形的な存在のものをいう。
ビットコインを含む仮想通貨は、電子的法保うにより記録される財産的価値にすぎない⇒有体物とはいえない⇒仮想通貨を寄託の目的物とする寄託契約は成立し得ない。
●予備的主張①②:
本件利用契約における利用規約中の、登録ユーザーはYが定める方法に従って仮想通貨の売却の注文及び購入の注文を提示することができる旨の定めは、Yの承諾なくして登録ユーザーの提示内容に従った売買契約が成立することや、登録ユーザーによる仮想通貨の売買注文の提示に対してYが承諾する義務を負うことを定めるものと解することはできない。
⇒Xが主張する売買契約に基づく代金請求を認めず、同契約に基づく債務不履行責任も否定。
●予備的請求③:
Xの指定する送付先に対するビットコインの送付手続を求めるものと理解することができる⇒訴訟上の請求としては特定されている。
・・・本件利用契約における利用規約には、パスワード等の管理不十分や第三者の盗用等による損害が生じたことの責任は登録ユーザーが負う旨の定め⇒本件各取引の効力はXに及び、その結果、Xは、本件アカウントにおいて保有していたビットコインを喪失。
⇒
同ビットコインについて電子情報処理組織を用いた権利移転手続請求権を有するとは認められない。
●予備的請求④:
Xは、ビットコインの権利移転手続を求める給付の訴えを提起することで権利関係全体に関する紛争を抜本的に解決することが可能⇒確認の利益を欠く。
<解説>
東京地裁:
仮想通貨交換業者が仮想通貨の流出事故を受けて金銭の払戻しを停止する措置を取ったことが、顧客に対する債務不履行に当たらないとした事例。
東京地裁:
仮想通貨交換業者に預託していた金銭が何者かによって不正にビットコインに交換され、これが外部のビットコインアドレスに送付されたことについて、前記業者には不正アクセス者による機密取得および不正取引防止のためのシステム構築義務違反は認められないとされた事例。
本判決:
Xの仮想通貨の取引用アカウントに第三者が不正にアクセスして取引を行ったという事案について、不正アクセスの原因はXのパスワード管理が不十分であったことであると認定して、
Yの提供する仮想通貨取引サービスの利用規約の定めにより、前記取引の効力がXに及ぶと判断したもの。
判例時報2509
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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