主観的追加的併合の可否が争われた事例
福岡高裁R2.11.27
<事案>
原告であるX1、X2が福岡地裁に国賠訴訟を提起。
基本事件の被告であるY(国)が、基本事件の普通裁判籍及び特別裁判籍(民訴法4条1項、2項、6項および5条1号)がいずれも福岡県外にあり、基本事件が福岡地裁の管轄に属しない
⇒民訴法16条1項に基づき、これを管轄裁判所に移送するよう求めた。
X1、X2:
既に福岡地裁に係属しているYを被告とする国賠訴訟(先行事件。基本事件とは原告を異にするもの)と基本事件とが、民訴法38条の「訴訟の目的である権利又は義務が・・・同一の事実上及び法律上の原因に基づく」といえる関係にある
⇒
民訴法7条の類推適用により福岡地裁に管轄が認められるべき。
<規定>
民訴法 第三八条(共同訴訟の要件)
訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
第七条(併合請求における管轄)
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
<原審>
基本事件と先行事件における権利又は義務が同一の事実上及び法律上の原因に基づく
⇒民訴法38条前段の要件を満たす。
民訴法7条を類推適用⇒基本事件を先行事件に併合する旨の決定。
<判断>
①いわゆる訴えの主観的追加的併合を認めるのは相当ではなく、本件併合上申によって先行事件と基本事件とが当然に併合される効果を生ずるものとはいえない
②土地管轄は、民訴法上の裁判籍の定め(民訴法4条、5条)により決せられる法定管轄の一種であり、法定管轄が数種複数の裁判所間の裁判権行使についての分担の定め
⇒その存否が当事者の併合上申の有無によって左右されると解するのは相当ではない
本件併合上申がされたことに基づいて、民訴法7条を類推適用して基本事件が福岡地裁の管轄に属することになったということもできない。
③被告は応訴管轄等が生じた場合を除き、法定管轄のある裁判所において裁判を受ける正当な利益を有しているところ、この被告の利益は、裁判所が口頭弁論の併合をする前提として、その要件とは独立に検討されるべきであり、裁判所が、民訴法16条2項本文のようにその裁量判断によって本来の法廷管轄外の事件について審理及び裁判をすることができる旨の法律の規定もないのに、弁論併合決定により被告の前記利益を失わせることは許されない。
⇒
本件併合決定がされたとしても、民訴法7条の類推適用によって福岡地裁に基本事件の管轄が生ずることにはならない。
⇒
Yの移送申立てを認容。
<解説>
訴訟係属中に、第三者の当事者に対する請求又は当事者の第三者に対する請求の併合審判を求めることを訴えの主観的追加的併合をいう。
本件は、第三者はが原告の共同訴訟人となる場合の明文の規定のない主観的追加的併合の事案。
判例:原告が係属中の訴訟につき第三者に対する請求を追加した事案につき、主観的追加的併合を認めず、現行の民訴法においても、その立法化はされなかった。
⇒
当事者は、別訴を提起した上で弁論の併合を求めることになる。
but
弁論の併合は、同一官署としての同一裁判所に係属する事件の間でのみ可能。
学説:
A:本件のように第三者が原告の共同訴訟人となるために別訴を提起した場合で、審理の進行状況によっては当事者の利益が害されずかつ紛争の統一的解決が期待できる場合も存在する。
⇒主観的追加的併合の可能性を全面的に否定すべきではないとして、弁論の併合の前提として、民訴法7条の類推適用により別訴について土地管轄を拡張することが許される(伊藤眞)。
B:原告が新たに被告を追加する場合に民訴法7条を類推適用することは被告の手続保障の見地から問題がある⇒第三者が原告の共同訴訟人となる場合も含めて主観的追加的併合を適法とすることには「慎重な見解。
判例時報2508
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