「生活保護法による保護の基準」の改定が違法とされた事案
大阪地裁R3.2.22
<事案>
法の委任に基づいて厚生労働大臣が定めた「生活保護法による保護の基準」の数字の改定(本件改定)⇒所轄の福祉事務所長らからそれぞれ生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更決定(本件各決定)を受けた
⇒
本件改定は憲法25条、法8条等に違反する違憲、違法なものであるとして、
①Yらのうち国を除くY2~Y13(大阪市ほか各市)を相手に、本件各決定の取消しを求めるとともに、
②Y1(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。
<争点>
本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、本件改定が法3条、8条2項に違反するといえるか?
<判断>
●生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定の違法性について判示した最高裁判例の判断の枠組みを、(加算の廃止ではなく)基準生活費の減額という場面に即した表現に改めながら採用。
●(1)ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることについて
●(2)デフレ調整における物価指数を比較する年の選択について
●(3)デフレ調整における改定率の設定について
⇒本件改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的な生活水準を維持するものであるとした厚生労働大臣の判断には、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いている⇒最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある⇒本件改定は、法3条、8条2項の規定に違反し、違法。
<解説>
●平成24年2月最判及び平成24年4月最判は、 生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定の違法性について判示したものであるが、
当該判断枠組みを採用する理由として述べるところは、基準生活費の減額の場面にも基本的に当てはまる。
●
ゆがみ調整:基準部会という専門家による第三者機関が取りまとめた報告書(平成25年報告書)を踏まえてされたもの
デフレ調整:これとは別に厚生労働大臣が行ったもの
⇒
本件では、ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることの当否が争われた。
本判決:
ゆがみ調整と併せて、生活扶助基準の全体としての水準(高さ)を調整すること自体が不合理であるとはいえない
but
ゆがみ調整においては消費実態と生活扶助基準との間の平均的なかい離が解消されていないものと考える余地が否定できない
ゆがみ調整においてもちいられた指数がその性質上物価の影響を受け得るもの
デフレ調整における物価指数を比較する年の選択:
平成20年からの物価の下落を考慮した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く⇒その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある。
~
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査するという平成24年4月最判の判断枠組み。
デフレ調整における改定率の設定について、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く⇒その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある。
~
あくまで物価の動向を勘案するという厚生労働大臣の判断を前提に、その判断の過程及び手続に過誤、欠落があるかを、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性等について審査するという平成24年4月最判の判断枠組み。
●本判決:
本件改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的な生活水準を維持するものであるとした厚生労働大臣の判断には、「その余の点について判断するまでもなく」平成20年からの物価の下落を考慮し、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連線や専門的知見との整合性を欠いている⇒最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の逸脱又はその濫用がある。
判例時報2506・2507
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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