特許権の共有と特許法102条での覆滅
知財高裁R2.9.30
<事案>
「光照射装置」と称する特許(本件特許)の特許権者であるXが、Yの製造販売する被告各製品の製造販売等の差止め等、損害賠償(予備的に不当利得返還)を求めた。
本件特許については、2度にわたり訂正請求がされ、確定しているところ、
被告各製品が、2度目の訂正後の(本件特許の請求項1に係る)発明(本件再訂正発明)の構成要件を充足することに争いはなく、
訂正要件違反による無効の抗弁等の抗弁と、損害額が主たる争点。
<判断>
● 侵害論に係るYの抗弁を全て排斥し、被告各製品の限界利益の形成に対する本件再訂正発明の寄与割合を原審からさらに引き下げた。
● 特許権が共有に係るときは、各共有者は、別段の定めのある場合を除き、自己の持分割合にかかわらず、無制限に特許発明を実施することができる(特許法73条2項)。
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例えば2名の共有者の一方が単独で特許法102条2項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合、侵害者が侵害行為により受けた利益は、一方の共有者の共有持分権の侵害のみならず、他方の共有者の共有持分権の侵害によるものであるといえる
⇒
前記利益の額のうち、他方の共有者の共有持分権の侵害に係る損害額に相当する部分については、一方の共有者の受けた損害額との間に相当因果関係はない
⇒
侵害者が、特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したときは、同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され、
また、侵害者が、他の共有者が特許発明を実施していることを主張立証したときは、
同条2項による推定は他の共有者の実施の程度(共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額の限度で覆滅される。
本件では、他の共有者の共有持分割合による実施料相当額の限度で推定の覆滅を認めた。
● 判決時には他の共有者との共有関係が解消し、共有関係を基礎とする密接な関係にはない
⇒連帯債権説を斥けた。
<解説>
特許権が共有である場合の特許法102条2項による損害額の算定について、
A:新会社の利益額を持分割合による按分するべき
B:共有者の売上額で按分すべき
C:共有者の利益額で按分すべき
D:原則として共有者の利益額で按分するべきであるが、利益額が明らかにならないときは持分割合により按分することもありうる
E: 原則として共有者の利益額で按分するべきであるが、当事者の同意があるときは持分割合でも差し支えない
共有者の1人のみが特許発明を実施していた場合:
①実施共有者の逸失利益相当損害賠償請求権と
②不実施共有者の共有持分割合による実施料相当損害賠償請求権
の関係が問題。
両者を認容すると、単独保有の場合に比べ、侵害者の負担が過大に
⇒実施共有者の逸失利益から、不実施共有者の共有持分割合による実施料相当損害額を控除するとの見解が有力。
不真正連帯債権であるとする見解
←
①実施共有者のみが原告となって判決がされた後、不実施共有者が後に提起した訴訟では、実施料相当損害額について異なる判断がされる可能性がある
②特許権の共有は共同研究によって生まれた成果である場合など、共有者の一体性が強い
判例時報2508
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