« 滞納処分による配当金の充当関係 | トップページ | 主観的追加的併合の可否が争われた事例 »

2022年4月 2日 (土)

水産動植物の採捕に係る許可に関する知事の判断が裁量権の逸脱とされた事案

最高裁R3.7.6

<事案>
普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面埋立てをめぐる国と沖縄県との間の紛争に関、最高裁が判決を言い渡した3件目の事案。

沖縄防衛局:
本件埋立承認の願書の記載された設計の概要に含まれない内容の地盤改良工事を追加
X(沖縄県j知事)に対し、大浦湾側に生息する造礁さんご類を埋立区域外の近隣の水域に移植することの許可を求める2件の申請

X:申請内容の必要性及び妥当性の有無を判断できない⇒標準処理期間(45日)が経過した後も何らの処分もしなかった。

Y(農林水産大臣):漁業法及び水産資源保護法を所管する大臣として、令和2年2月28日付けで、本件各申請を許可する旨の処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号に違反⇒沖縄県に対し、地自法245条の7第1項に基づき、本件各許可処分をするよう求める是正の指示(「本件指示」)

X:本件指示が違法な国の関与に当たる⇒地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、その取消しを求める。

<法令等>
漁業法65条2項1号等:
都道府県知事は、漁業取締りその他漁業調整又は水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止に関して、規則を定めることができる旨を規定。
漁業法65条2項1号等により都道府県が処理することとされている事務は、法定受託事務(漁業法137条の3第1項1号、水産資源保護法35条)。

<争点>
本件指示が地自法245条の7第1項の要件を充足するか、より具体的には、本件指示の時点で本件各許可処分をしていないXの対応が、同項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当するか。

<原審>
本件各許可処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項の1号等に違反⇒本件指示は地自法245条の7第1項の要件を充足。
⇒上告受理の申立。

<判断>
本件を受理した上、上告を棄却。

<解説>
●本件規則に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断と地自法245条の7第1項所定の法令違反

◎ 問題となっている法定受託事務の処理が不作為である場合には、指示の内容は、
A一定の期間内に何らかの措置を講ずべきというもの(措置の内容までは特定しないもの)と
B一定の期間内に特定の措置を講ずべきというもの(措置の内容を特定するもの)
の2通り。
本件指示はB。

Aの類型:「相当の期間」の経過があれば足りる(不作為の違法確認の訴えに関する行訴法3条5項、普通地方公共団体の不作為に関する国の訴えに関する地自法251条の7第1項参照)

Bの類型:これに加えて、
①特定の措置を講ずべきことがその根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は
②当該措置を講じないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められること
が必要。(義務付けの訴えに関する行訴法37条の2第5項、37条の3第5項参照)

◎ 「法令」の文言は、刑訴法335条1項のように、地方公共団体が制定する条例及び規則を含むものとして使用される場合もあるが、
地自法245条の7第1項にいう「法令」は、法律又はこれに基づく政令をいうと解されている。
漁業法65条1項1号等は、都道府県知事に規則の制定を授権する規定であって、その文言を形式的に当てはめると、当該規則に基づく個別具体的な措置に瑕疵があることから直ちに、「法令」である漁業法65条2項1号等に違反するとまではいい難いようにも思われる。
but
漁業法65条2項1号等は、都道府県知事の定める規則のみではなく、当該規則及びこれに基づく行政庁の個別具体的な措置(裁量判断)の双方により、漁業法及び水産資源保護法の目的を達成しようとする趣旨の規定。

・・・・

漁業法65条2項1号等は、都道府県知事による規則の制定に当たり、専門技術的な事情に即した妥当な措置がされることを確保するため、当該措置を個別の事案ごとの行政庁の裁量判断に委ねることを当然に予定。

本判決:
漁業法65条1項1号趣旨を踏まえ、本件規則41条1項に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合には、
地自法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当。

●本件申請の必要性を認めなかった県知事の判断の適否
◎ 判断枠組み:
特別採捕許可に関する県知事の判断(作為)は、裁量判断

これが裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠く場合、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めるのが相当(最高裁H18.2.7)。

特別採捕許可の申請に対して応答しない県知事の不作為についても、これが裁量権の行使に基づくものである場合には、前記の作為と別異に解すべき理由はない。
(義務付けの訴えに関する行訴法37条の2第5項、37条の3第5項参照)

行手法5条に基づいて審査基準が定められ公にされている⇒審査基準の定める要件の充足が認められる場合には、申請を認容しない県知事の対応は、これを相当と認めるべき特段の事情がない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると解すべき(行手法12条処分の基準に関する最高裁H27.3.3)。

◎ 本件各申請は、本件さんご類を本件埋立事業から避難させることを目的
⇒本件指示の時点で、本件地盤工事を追加して行う必要があるとされていた本件埋立事業について、沖縄防衛局において、本件さんご類の生息場所及びその近辺で予定されている本件護岸工事を適法に行うことができたかが問題。

公有水面埋立法上、国の官庁は、都道府県知事の承認を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ると解されており(最高裁R2.3.26)、変更後の設計の概要による埋立てについても同様に解するのが相当。
but
同法上、当初の承認を受けた後に設計の概要を変更する必要が生じた場合に、当該承認に基づく工事を中断すべき旨の規定はない⇒当該官庁は、当該変更の承認を受けていない段階でも、当該変更 に含まれない範囲の工事については、特段の事情のない限り、当初の願書に記載された設計の概要に基づいて適法に実施し得ると解される。
⇒沖縄防衛局は、本件埋立承認に係る設計の概要に基づき、本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していた。

X:さんご類の移植後の生存率が高くない(移植から4年後の生存率が20%以下というデータもある。)⇒本件各申請の内容に必要性があると認められるには、本件さんご類の一定割合の死滅を正当かし得る事情として本件埋立事業の目的達成の見込みがあることを要する。
but
埋立区域の相当部分に本件地盤工事の実施が必要であり、本件指示の時点でこの工事を追加する旨の本件変更申請すらされていなかった
⇒前記見込みを認めることはできない⇒前記必要性を認めることはできない。

◎判断:
Xの前記判断について、
当然考慮すべき事項を十分に考慮していない一方で考慮すべきでない事項を考慮⇒社会通念にてらし著しく妥当性を欠いたものとして、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。
水産資源の保護培養を図るなどの漁業法及び水産資源保護法の目的を実現するには、本件護岸工事により死滅するおそれのある本件さんご類を避難させる必要があった。
本件埋立承認及びその出願の内容等に照らすと、当該出願の転付図書に適合する妥当な環境保全措置が採られる限り、本件護岸工事の実施は、前記目的に沿う。

Xの前記判断は、この工事を適法に実施し得る沖縄防衛局の地位を侵害するという不合理な結果を招来する。

反対意見:
本件地盤工事の対象となっている水域(本件軟弱区域)が広範囲に及んでいて本件護岸工事のみを実施することに意味はない
⇒本件各申請を審査するに当たっては、本件埋立事業の目的が達成される見込み(具体的には本件変更申請が承認される蓋然性)の有無や程度等が考慮すべき事項に含まれる
⇒Xの前記判断が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めることはできない。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 滞納処分による配当金の充当関係 | トップページ | 主観的追加的併合の可否が争われた事例 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 滞納処分による配当金の充当関係 | トップページ | 主観的追加的併合の可否が争われた事例 »