後遺障害の認定
札幌高裁R3.2.2
<事案>
Xは、自転車を運転して、交差点を横断。
Y1の運転する自動車が同交差点を左折しようとしたところ、同自動車の左前部がXの右半身及び自転車の前輪部分に衝突する交通事故。
Y1はY2の従業員。
Xは、本件事故によって、高次脳機能障害、腹圧性尿失禁及び神経因性膀胱、PTSD(外傷後ストレス障害)並びに低髄液圧症候群の各後遺障害が生じた⇒
Y1に対しては民法709条に基づき、
Y2に対しては民法715条1項又は自賠法3条に基づき、
損害賠償金8933万1109円及び遅延損害金の支払を求めた。
<争点>
後遺障害の有無及び程度
<1審>
①尿失禁の発症時期について、本件事故直後とは認められず、本件事故の2か月弱後頃と認定し、本件事故における衝撃から約2か月を経て尿失禁を発症する機序を裏付ける知見がない
②症状の経過について、一度症状が消失し、その期間が2か月程度に及んでいると認定した上で、物理的損傷により生じた障害は回復しなければ不可逆的となることと相容れない
⇒Xの尿失禁の症状が本件事故による後遺障害とは認められない。
X:本件事故により鼻骨骨折を生じ、尾骨近くの仙骨に衝撃が加わり陰部神経に障害が生じて神経因性膀胱を発症
vs.
尾骨骨折を裏付ける証拠がない。
<判断>
●
①泌尿器科の医師がXの症状について、基本的に切迫性尿失禁であり、腹圧性尿失禁も見られるとの診断
②切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁にそぞれぞ適応する薬剤の服用を中止すると症状が悪化し、再開すると改善することを繰り返した
⇒Xに切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁が発症していることを認定。
Xが本件事故の際に尻もちをつく形で転倒し、少なくとも尾骨骨折が疑われていた⇒尾骨付近に衝撃を受けたことが認められる⇒尾骨から仙骨に衝撃が伝わり、下部尿路を支配する神経を損傷した可能性や骨盤内の膀胱尿道支持組織に異常を与えた可能性がある。
加齢による尿失禁の可能性:
本件事故当時のXの年齢(36歳)や本件事故前に尿失禁の症状があったことをうかがわせる事情がない⇒否定。
心因反応による尿失禁の可能性:
①超音波検査等の結果、膀胱容量の低下が認められる
②Xの症状が尿失禁に適応する薬剤の服用中止と再開に対応した反応をしている
⇒否定。
⇒
Xの尿失禁の症状は、本件事故による外傷によって下部尿路を支配する神経損傷や骨盤内の膀胱尿道支持組織の損傷等による異常がもたらされ、
器質的な病変は特定できないものの、
これらに起因して生じた高度の蓋然がある
⇒本件事故との間に相当因果関係を認めた。
①尿失禁の発症時期:
本判決は、Xは本件事故から1か月経過した頃に本件事故以降排尿に違和感があったことを自覚⇒本件事故を契機として比較的急に発症したものと認め
②一度症状が消失したこと
本判決:Xの担当医は、尿失禁の症状は見られたが、軽微と思われたために一旦治療を終了
butその後も症状がみられたため治療が継続
⇒症状の消失は認められない。
● Xの尿失禁の程度について、
Xによる尿漏れの記録や尿漏れパッドの使用状況を考慮して、
「常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの」に相当
⇒別表第2の11級10号の「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」に相当する。
判例時報2509
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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