特殊詐欺の受け子から報告を受け、詐欺グループの上位者と思われる人物に報告するなどした被告人につき、正犯意思を否定し、共同正犯の成立を認めず、無罪とした事例
名古屋地裁R1.12.9
<事案>
Aが特殊詐欺の受け子として、氏名不詳者らと共謀の上、被害者から現金200万円をだまし取った事案につき共同正犯として起訴。
本判決:
被告人の詐欺の故意は認めたが、共同正犯の成立を否定し、幇助犯の成否についても更に審理をする必要はない⇒無罪。
<判断>
●共同正犯を否定した理由
①被告人がAが犯罪に及ぶことを認識・認容していたとしても、それだけで共同実行の意思が裏付けられるものではない。
②被告人に予定されていた役割は、本件詐欺を完遂させるために重要なものであったとは到底評価できない。
関西にいた被告人は、東京にいるAが主体的にした報告を聴き取ってEに報告できるにとどまり、被告人の関与態様は受け子の行動状況の管理・把握としては極めて不十分なもの。
・・・・
●被告人が実際に果たした役割からも、正犯意思は認められない。
●前記のいずれも、本件詐欺の遂行に重要なものであったと評価することはできない。
報酬の約束もなく、被告人が会社の業務の延長で本件に関与した可能性は排除できない。
被告人の言動にはAの行為を促進したかのように評価し得る部分はあるが、被告人に正犯意思があったと推認することはできず、被告人が本件詐欺を自己の犯罪としてAらと共同して実行したとは認められない。
<解説>
●最高裁:
特殊詐欺の送付型の受け子につき、故意が認められれば共謀が認められる⇒詐欺の共同正犯。
周辺関与者に対する裁判例では、共同正犯、ほう助犯その他が認められている。
共同正犯を認める要素としては、果たした役割の重要性や特殊詐欺グループとの関わりの深さ等が重視されているよう。
●実務上、共謀共同正犯の成立には、
非実行行為者において、
①実行行為者との間に犯罪行為の意思連絡があり、かつ、
②自己の犯罪として行う意思(正犯意思)を有していたこと、ないしは自己の犯罪として行ったことを要する。
正犯意思の有無又は自己の犯罪といえるかどうかは、
①非実行行為者の役割や寄与の程度
②関与の動機
③実行行為者との関係等の事情
から判断。
本判決:
実務の一般的な枠組みに従って正犯意思の有無を問い、これを否定して、
被告人が本件詐欺を自己の犯罪として行ったとは認められない。
●周辺関与者についても、詐欺の認識が認められれば共同正犯が肯定されることは少なくない
but
本判決は、被告人の役割その他の事情を慎重に検討して、これを否定した例。
幇助犯を検討する余地がある。
but
①被告人の役割がホ年詐欺の完遂に重要なものであったとはいえない
②正犯意思も認められない
⇒直ちに無罪を言い渡した。
判例時報2506・2507
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