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2022年3月18日 (金)

過労死で、一部の取締役の会社法429条1項の責任も認められた事例

東京高裁R3.1.21

<事案>
亡A(昭和35年生の男性)は、Y1社の従業員であり、B支社に勤務。
Aは平成23年8月6日に脳出血を発症し死亡。

X1はAの妻、X2、X3はその間の子。
Y2~Y4は、亡A死亡当時、Y1社の取締役。
Xらが、亡Aが脳出血を発症して死亡したのはY1社から長時間の時間外労働を強いられたことによるもの

Y1社には債務不履行(安全配慮義務違反)が、
Y2ないしY4には悪意又は重過失による任務懈怠がそれぞれあった

Y1社に対しては民法415条に基づき、
Y2ないしY4に対しては会社法429条1項に基づき、
総損害額からXらの自認する損益相殺をした後の残額及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。

<1審>
亡Aの死亡はY1社での長時間の時間外労働によるもの⇒Y1社の債務不履行責任を肯定。

その取締役であるY2ないしY4については、
B支社の工場長であえり、亡Aの直属の上司であったY4に限って軽過失あったにとどまり、
Y2ないしY4のいずれにも悪意又は重過失があったとは認められない⇒民法429条1項の責任を否定。

弁護士費用以外の損害額について、
亡Aの身体的素因等を理由とする過失相殺の類推適用⇒7割を減じた額をXらが相続、損益相殺をした後の残額に弁護士費用を加算した額と遅延損害金の限度で一部認容。

<判断>
亡Aの直属の上司であった取締役Y4について、
B支社に専務取締役工場長として常駐し、B支社における実質的な代表者というべき地位にあり、残業時間の集計結果の報告を受けて亡Aに過労死のおそれがあることを容易に認識することができ、実際にもかかるおそれがあることを認識していた
but
従前行っていた一般的な対応にとどまり、亡Aの業務量を適切に調整するための具体的な措置を講ずることはなかった。

亡Aの過労死のおそれを認識しながら、従前の一般的な対応に終始し、亡Aの業務量を適切に調整ために実効性のある措置を講じていなかった⇒Y4の重過失による任務懈怠を肯定し、会社法429条1甲所定の責任を肯定。

Y1社における業務とは無関係に脳出血の発症につながる要因を有していた亡A自身も、Y1に高血圧につき治療中である旨の虚偽申告を複数年にわたってしなければならないほど、自らの高血圧の症状が医師による治療を要する重篤なものである旨を十分認識していた。
亡Aが営業技術係の係長として同係の人員に業務を割り振ることができる裁量を有していたのに、自らの仕事を割り振らずに抱え込んでいたことがあるとしても、
会社としては自らの健康状態を十分に省みることなくその職責を果たそうとする職務に熱心な労働者が存在することも考慮した職務環境を構築すべき
⇒亡Aによる業務遂行方法に健康管理の観点から見て相当ではない点があったとしても、これを過失相殺の類推適用の考慮要素として過大評価すべきではない。

過失割合を5割とした。

<解説>
会社従業員が長時間労働により疾病を発症し、悪化し、又は死亡した場合に会社の債務不履行責任(又は不法行為責任)のみならず取締役の会社法429条1項(旧商法266条の3)所定の責任を認めた高裁の裁判例。

労災事故による損害賠償請求においても被害者に対する加害行為と加害行為前から存した被害者の疾患とが共に原因となった損害が発生⇒損害賠償の額を定めるに当たっては過失相殺の類推適用を肯定するのが判例。
近時の裁判例は、労働者側に損害の発生や拡大の要因が認められる場合であっても、使用者の安全配慮義務違反等を比較的緩やかに認めた上で、労働者側の事情を損害の公平な分担の観点から使用者側の損害賠償額を減額する場面(過失相殺の類推適用ないし訴因減額)で考慮する傾向。

判例時報2505

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