米子ホテル強盗殺人差戻審判決
広島高裁H31.1.24
鳥取地裁R2.11.30
<事案>
被告人が、約2週間前まで店長を務めていたホテルの事務所で金員を物色中、支配人Cに発見された⇒金員を強取しようと考え、殺意をもってCの頭部を壁面に衝突させ、頸部をひも様のもpので締め付けるなどして犯行を抑圧し、現金約43万2910円を強取し、その際、前記暴行により、Cに遷延性意識障害を伴う右側頭骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫等の傷害を負わせ、6年後に死亡させて殺害した強盗殺人の事案で、犯人性が争われた。
第1次上告審判決によって破棄された第一次控訴審判決(第一次一審判決の有罪部分を破棄して被告人を無罪とした)の差戻後の広島高裁の①事件判決(差戻後控訴審判決)と、同判決によって差し戻された鳥取地裁の②事件判決(第2次一審判決)
①事件判決は第一次一審判決の有罪部分(殺人罪及び窃盗罪による懲役18年)を破棄して鳥取地裁に本件を差し戻し、
②事件判決はこれを受けて強盗殺人罪の成立を認めて被告人を無期懲役に処した
●①事件判決(差戻後控訴審判決)
◎弁護人の事実誤認の主張
第一次一審判決が有罪の根拠として間接事実の認定及びその間接事実の総合判断としての有罪認定には論理則・経験則等に照らし不合理な点はない。
間接事実:
①被告人は犯行現場であるホテルの店長を務めていたことがあるところ、犯行現場の事務室は部外者には容易には分からない場所にある
②被告人は犯行時間帯に犯行現場近くに居た
③犯人は事務所から二百数十枚の千円札を持ち去っているところ、被告人は事件の翌日に自己の預金口座に230枚の千円札を入金し、かつその原資についての供述が信用し難い
④被告人は事件後に逃走するかの如き行動をしている
◎検察官の事実誤認の主張
第一次一審判決:
強盗殺人の公訴事実に対し、被告人の犯人性は肯定。
but
Cが犯行場所である事務室に入ったのは被告人の入室よりも前(=被告人はCの居る事務室に侵入したのであって、C不在時の物色行為はない)
⇒何らかの事情でそこに居たCを殺害しその後に金員を盗取した⇒殺人罪と窃盗罪が成立。
判断:被告人の侵入時刻を午後9時34分頃、Cの帰室時刻を午後9時40分以降と判断⇒被告人の物色中にCが帰室したと認定。
⇒
第一次一審判決には事実誤認があるとして、
①事件判決は、第一次一審判決の有罪部分を破棄し、鳥取地裁に差し戻した。
●②事件判決(第2次1審判決)
◎破棄判決の拘束力(夕食終了時刻の認定)
①事件判決が破棄した点は、夕食終了時刻に関する3のつの証拠(㋐従業員の証言、㋑コンピュータ記録からの推定、㋒従業員の救急隊員に対する時刻の説明)の評価の誤り。
㋑㋒については、その後の証拠調べや弁護人の主張に照らしても差戻後控訴審判決段階と実質的変動は生じていないからその判断に拘束される。
検討不十分とされた㋐の証拠と合わせて、夕食終了時刻を判断し、9時40分頃と認定。
◎被告人の犯人性
被告人を犯人と認定し、強盗殺人罪の成立を認めた。
<解説>
第一次上告審が第一次控訴審無罪判決を破棄したのは、
①被告人が事件の翌日に被害品と同種の230枚の千円札を所持していたのに、
②その千円札の入手経路に関する被告人の説明の信用性の検討が不十分であり、かつ、
③犯行時刻前後に被告人が犯行場所付近に居たことを含めた総合評価の仕方に問題あり。
「情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討」(最高裁H30.7.13)
より一般的な問題として、
被告人に不利益な間接事実についての被告人自身の説明に虚偽があると認められたときの「一定の推認力」については、形式的には一定の推認力といいながら、実質的には「決め手」となり、心証形成上のなだれ現象を引き起こすひきがねになりかねないとの指摘。
判例時報2505
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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