都市計画を変更しないまま、公園の計画区域内に一般廃棄物処理施設への運搬車両のための専用道路を設置⇒市長が損害賠償義務を負う。
東京地裁R2.11.12
<事案>
東京都日野市の住人であるXらが提起した住民訴訟の事案
本件各契約の締結が違法⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Y(日野市の執行機関である日野市長)を相手に、A視聴に対して損害賠償請求をすることを求めた。
<争点>
本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか否か
Xら:都市計画の変更をせずにされた本件通行路の設置は都計法21条をはじめとする関係各法令に違反し、本件各契約の締結は財務会計法規上違法
Y:本件通行路は、新クリーンセンターの稼働期間である30年間に限り暫定的に利用されるもの⇒その設置は都市計画の変更を要するものではない⇒本件各契約の締結に財務会計法規上の違法はない
<判断>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか?
いったん決定された都市計画につき、これを変更しないまま、当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置することは、その設置が当該都市計画の実質的な変更と評価されるものである場合には、都市計画法上違法の評価を免れない。
本件通行路は、廃棄物を運搬する車両のための専用道路であり、その設置が都市公園の効用を有するものとはおよそ認め難いところ、本件通行路が暫定的な利用に供されるものであるといえず、本件通行路の設置は本件都市計画の実質的な変更と評価すべきもの
⇒
本件都市計画と異なる都市施設である本件通行路をその計画区域に設置することは、都市計画法上違法。
●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか?
本件各契約の締結に係るA市長の判断は、その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となるものであることが明らかであり、地方公共団体の事務につき不必要な経費を負担させるものとして地自法2条14項及び地方財政法4条1項に違反
⇒A市長がその職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものと評価されるべき。
<解説>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか
◎ 都市計画は、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であり、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられている(最高裁H18.11.2)。
都市計画の変更について、都計法21条1項は、都道府県又は市町村は、都市計画を変更する必要が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨を規定するところ、都市計画の変更についても同様。
都市計画の変更に関する訴訟:
①都市計画を変更したことやその内容が争われることが典型的であるが、
②都市計画に係る事業を実施しない状態が長期間継続しているにもかかわらず、都市計画が変更又は廃止されないこと(不作為)について争われることもある。
本件は、①②のいずれの類型にも位置付けることができないもの。
●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか
◎ 住民訴訟の対象は、地自法242条1項所定の財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものであり(最高裁昭和53.3.30)、住民訴訟で住民が主張し得る財務会計行為の違法は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁H4.12.15)。
「財務会計法規」は手続上、技術的な狭義の財務会計法規のみを意味するものではなく、これらを含むところの当該職員が職務上負担する行為規範一般を意味すると考えられており、
非財務会計行為上の原因行為における一般行政上の違法との区別を明確にする趣旨の概念であるとされる。
道路を整備するという判断そのものは、財務会計行為に当たらない。
本件各通行路の設置のための本件各契約の締結が財務会計行為として本件の対象とされているところ、本件通行路の設置の判断に係る都計法違反が、契約締結に係る財務会計法規の違反を直ちに基礎付けるものとはいえないと考えられる。
本判決:
A市長は、日野市の執行機関として、本件都市計画の変更の手続を行うことにより本件通行路の設置に係る都市計画法上の違法を是正する権限を有していた。それにもかかわらず、A市長は、その権限を行使せず、上記の違法を是正しないまま、都市計画法上許されない本件通行路の設置をするため、債務負担行為である本件各契約の締結をしたことが、財務会計法規である地自法2条14項及び地財法4条1項に違反する。
◎財務会計法規上の義務違反について
・・・原因行為たる行政処分を取り消し得る権限を有している場合には、当該行政処分が違法なものであれば、長はこれを取り消すべきものと解され、これを取り消すことなく、当該行政処分を前提とする財務会計上の行為をすれば、長は財務会計法規上の義務に違反する。
◎財務会計法規の適用条項について
地自法2条14項:地方公共団体がその事務を処理するに当たって、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない旨を規定
地財法4条1項:地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならない旨を規定
~
当該職員が財務会計上の行為につき裁量権を有することを前提に、裁量権の行使について規律するもの。
契約締結に関する長の判断について裁量権の範囲の逸脱又は濫用が認められる⇒財務会計法規である前記各条項の違反が問題となる。
裁判例:
契約締結そのものは違法ではないが、契約代金額が適正額を超え高額にすぎるとして、適正額以上の部分の支出が不必要でありゆるあsれないという趣旨の主張が採用され、財務会計法規の違反として、前記各条項の違反が認められることがある。
廃棄物処理施設等に関する住民訴訟では、支出の対象とされる事業等の必要性や合理性がないからその費用の支出が不要であるとの趣旨で、地自法2条14項及び地財法4条1項の違反の主張がされることがある。
本件:
通行路の設置に当たり都市計画の変更の手続を経ていなかったことから、通行路の設置の合理性そのものではなく、都市計画を変更しないで当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置するという方法が都計法に違反しないかという形で争点化し、同法の違反が認められた。
都計法上の違法を是正しない状態における本件通行路の整備のための請負契約等の締結そのものが職務上の義務に違反するものとして許されない⇒裁量権の範囲の逸脱又はその濫用にものとして地自法2条14項及び地財法4条1項に違反すると判断。
判例時報2505
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