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2022年3月13日 (日)

黙秘権・接見交通権の侵害での国賠請求(肯定事例)

熊本地裁R3.3.3

<事案>
当時19歳の少年Xは、当時11歳の女子児童に対して18歳未満であることを尻ながらその面前でわいせつな動画を見せたという、熊本県長年保護育成条例違反の被疑事実により逮捕。

Xが、前記逮捕・勾留中の取調べの際に熊本県警察の巡査部長であったAが黙秘権を告知せず、Xに対し黙秘権侵害となる発言をし、弁護人との接見内容に関する質問を行った⇒Y(熊本県)に対し国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用の支払を求めた。

<規定>
憲法 第三八条[不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力]
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
②強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

憲法 第三四条[抑留・拘禁に対する保障]
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑訴法 第三九条[被疑者・被告人との接見・授受]
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

<判断>
●取調べにおけるAの黙秘権の告知及び発言
①Xが逮捕直後に弁護士から被疑者ノートを差し入れられ、取調べが終わった直後にその内容を同ノートに記載、同ノートに記載された各取調べの日付及び時間は概ね正確。
②同ノートにはXにとって有利な事実のみが記載されたものではない。
③Xが主張するAの取調べ中の発言のうち、Aが同趣旨の発言をしたことを認める部分もある。

同ノートにおいて黙秘権の告知の記載がない日の取調べについてはAから黙秘権の告知がなされなかったこと、Aが同ノートに記載された発言をしたことを認めた。

●黙秘権の侵害
憲法38条1項は、警察官が被疑者を取り調べるに当たりあらかじめ理解させなければならない手続上の義務を規定したものではない⇒警察官が被疑者を取調べるに当たり前記手続を執らないで取調べをしたからといって直ちに黙秘権侵害あるということはできない。
but
・・・逮捕権や捜索差押権等の強制力のある公権力を背景とする自らの立場を自覚し、黙秘権や接見交通権等の被疑者の権利に留意しつつ、取調べの目的や必要性に照らして相当といえる限度で取調べを行うことが義務付けられている。
・・・その後の取調べにおいてAがした「調べるうちにどんどん不利になるものばかり出てきている」、「黙ってても何にも前に進まんぞ」等の発言は、AがXにとって不利な証拠を既に捜査機関が多数収集していると誤認させ、黙秘権の行使がXにとって不利益ないし社会的な非難を受けるに値するとの誤解を与えかねないものであり、当時未成年であったXを精神的に圧迫なしい困惑させるもの
取調方法として相当性を欠き、Xの黙秘権を実質的に侵害

●Xの接見交通権の侵害
刑訴法39条1項に規定される接見交通権は、憲法34条の保障に由来し、接見内容を知られない権利を保証したものと解すべきであり、
捜査機関は、刑訴法39条1項の趣旨を尊重し、被疑者が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき注意義務を負っており、捜査機関がこれに反して接見内容の聴取をすることは、捜査妨害行為等接見交通権の保護に値しない特段の事情がない限り、国賠法上違法

AがXに対し「弁護士さんと接見したときに目撃者がいてどうすればいいのか相談とかしてるんだろう」と発言

弁護士との接見の具体的内容を質問及び聴取する内容であることが明らかであり、X及び弁護士の側に捜査妨害的行為等接見交通権の保護に値しない事情等も見いだせない。
⇒Xの接見交通権を侵害。
but
AがXに対し「自分勝手なことを言って弁護人も聞いてくれるなら大したもんだな」と発言

Xと弁護士との接見の具体的内容を聴取するものではなく、自らの感想を述べたにすぎない
⇒前記注意義務に違反したとまではいえない。

<解説>
裁判例

判例時報2504

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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