あおり運転で被害者死亡⇒殺人罪で懲役16年とされた事例
大阪高裁R1.9.11
<事案>
被告人車両(普通乗用自動車)で、被害車両をあおり、追突させて被害者を車両(大型自動二輪車)もろとも転倒させて死亡させた事案につき、殺人罪の成立を認めたもの。
車両による悪質な通行妨害の結果事故となり、被害者を死傷させた場合、危険運転致死傷罪(自動車死傷法2条)として処断されることが多い。
<争点>
殺意の有無
<1審>
被告人があえて被告人車両を被害者量に衝突させたと認定。
①被告人車両が普通乗用自動車、被害車両が大型自動二輪車という車両の違い、
②衝突時の状況として、被害車両は自足80kmを超える高速度で走行していた
③現場の交通量が多かった
⇒被告人車両が被害車両に衝突すれば、被害者が被害者量んもろとも転倒し、死亡する危険は高かった。
被告人もそのことを十分認識していたのに、被害者量に衝突してもかまわないという気持ちで衝突させた。
⇒未必的な殺意が認められる。
ブレーキを掛けたことや、衝突後110番通報していること
vs.
①衝突まで、相当高速度で被害車両を追い掛け、極めて接近した後にブレーキを掛けたものであり、
そのブレーキの掛け方も、時期的に遅すぎるし、不十分なもので衝突を回避できるようなものではない。
②110番通報も、状況的にみて衝突自体は発覚を免れようがなく、しかも、110番通報では、事故として届けている。⇒殺意のある者の行動として矛盾しない。
<判断>
●弁護人の、追跡の事実はなく、あえて衝突させたのではないとの主張を排斥。
「はい、終わり。」の発言について
弁護人:衝突事故を起こして落胆し、仕事ができなくなる意味
vs.
それまで、衝突事故を挟みながら、その直前直後は終始無言で驚きや狼狽を示すような言動は一切していなかったことや、その文言内容や口調、それまでの被告人の行動状況
⇒被害車両側に向けていた自身の行動がその段階で終わったことなどを自らに語りかけたと解釈できる
⇒
原判決が、被害車両との衝突との衝突が被告人の想定内の出来事であったことを推認させるとして、被害車両に衝突することの認識認容の根拠としたことに誤りはない。
●量刑:一審、控訴審とも、被告人を懲役16年(相当重い刑)。
被告人の殺意は弱い。
but
被害者には落ち度はなく、犯行動機に酌むべき点はなく、厳しい非難に妥当。
一時的な怒りに基づく殺人⇒けんかを原因とする殺人と類似。
but
互いに対立し合う中で怒りの感情を高ぶらせて殺害に至るというけんかの典型例と比べると、
①被告人が一人勝手に怒りを増幅させている点、
②被害者に落ち度がない点
でより重い刑罰がふさわしい。
遺族が、自賠責保険金を得る可能性があることについて、刑を軽くする事情としてほとんど考慮することができない。
←
①生命侵害の場合、適切な金銭賠償がなされても被害が実質的に回復されるわけではない
②自賠責保険金額は適切な賠償の一部にとどまる上、加入が義務付けられ、被害者が直接保険会社に支払を求めることができる⇒加害者に量刑上の恩典を与えることにより、自賠責保険金による損害填補が促進されるという関係にはない。
<解説>
あおり運転の危険性
⇒「道路交通法の一部を改正する法律」(令和2年6月10日法律第42号)により「妨害運転罪」として、あおり運転自体が明確な取り締まりの対象となった。
(道交法117条の2の2第11号)
⇒
死傷の結果が発生した場合の、危険運転致死傷だけでなく、
あおり運転という行為自体(事故を起こさなくても)が処罰の対象に
同月12日に自動車死傷方が改正(令和2年法律第47号)されて、危険運転致死傷の行為類型に、あおり運転関係のものが追加され(2条5号、6条)
同日に改正(令和2年政令181号)された道交法施行令により、自転車もあおり運転取締りの対象となった(道交法施行令41条の3第15号)。
判例時報2503
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